数々の有名人にも愛された“おまちの名店”がまた一つ、幕を下ろします。店の名前を後世へ残すため、オーナーが決めた事業承継への思いとは。
高知市帯屋町にある鉄板ステーキの店「不二楼」。国産和牛が目の前で焼かれる光景は胃袋を刺激します。
高知市から常連の女性:
「ちょっとぜいたくな非日常を味わえるお店というイメージがあったので、そういうのが味わえる店がまた一つ減っちゃうのはすごく寂しいなって思う」
多くの常連客に惜しまれながらも6月いっぱいで営業を終了します。
不二楼・オーナー 藤崎伸也さん:
「申し訳ございません。どうもお世話になりまして」
オーナーの藤崎伸也さん(66)。かつての国際ホテル高知で接客を担当した後、2005年に県内では珍しい鉄板ステーキの専門店・不二楼をオープンしました。
シェフは同じホテルの料理長だった土田順一さんです。ホテルマンの経験を生かした上質なサービスとシェフの確かな腕で店はたちまち話題となり、多くの食通の“お腹と心”を満たしてきました。
ある日、店にナカダイという男性から予約の電話が入ります。
不二楼・オーナー 藤崎伸也さん:
「冗談で『ナカダイっていったら仲代達矢しか知らんで』って言ったら、本物が入ってきてびっくりしました。一番の大ファンだったので本当にうれしかったです」
心の中では「サインが欲しい」と思ったそうですが、さすが元ホテルマン。ファンであることを明かさず、他のお客さんと同じように接客したといいます。
俳優の船越英一郎さんや堀北真希さんなども訪れたそうです。
そんな名店をなぜ閉じることに…
不二楼・オーナー 藤崎伸也さん:
「一番はやっぱり物価高が響きました。2025年、やっとの思いで値段上げたんですけどこれ以上、値段上げて、ようしないなと。70歳ぐらいまではやりたかったんですけど」
不二楼・シェフ 土田順一さん:
「来る時が来たかという感じと、寂しいのと両方ありましたけど。それはオーナーの決断なので分かりました、最後までは(一緒に)やりますと」
高知市から・常連の男性:
「お別れにきた、きょうは」
藤崎オーナー:
「ありがとうございます」
高知市から・常連の男性:
「10年前から体が動かないから夜の町は出てないんだけど、閉めちゃうっていうからさ、慌ててきたの」
男性は藤崎オーナーとホテルマン時代からの顔なじみ。最後に親子3世代で店の味を舌に刻みます。
高知市から・常連の男性:
「最初はね(孫が)火が上がるの怖くて泣いてたんだよ。あそこ(不二楼)行こうかって言ったら誰でもみんな行こう!ってついてくるけど、それが無くなるのが寂しいね。やっぱり本当に寂しい」
閉店まで、あと1週間。まごころ込めたサービスと絶品ステーキの味はお客さんの記憶に残り続けます。
「不二楼」という店名は藤崎オーナが好きな小説家、池波正太郎さんの作品に登場する店の名前が由来。藤崎さんの「フジ」が入っていて思い入れがあるそうです。
この「不二楼」の名を後世へ残すため、オーナーは店の後継者を募る「事業承継」を決断をしました。
事業承継とは経営権や資産などを次の経営者に引き継ぐことで今、全国的に注目されています。ただ、課題もあるようです。
「県事業承継・引継ぎ支援センター」によりますと、県内の相談件数は2018年度から上昇し、2022年度には660件に。その後も高い水準で推移しています。
県事業承継・引継ぎ支援センター統括 責任者 黒下則之さん:
「少子高齢化による人口減少、団塊世代といわれる方々がリタイアされる時期に至ってまして、ますます後継者不足が深刻になっている」
“譲りたい”と思う事業者が増える一方で、実際に成約まで至ったケースは全体の15%程度。取引先への影響などを考え、「会社名を伏せて後継者を探したい」という事業者が多く、情報不足から、次の経営者とのマッチングが成立しにくい現状があります。
センターはインターネットなどで社名や事業内容を公開する取り組みを進めているほか、経営者に対し引継ぎに時間がかかるため早めに相談してほしいと呼びかけています。
県事業承継・引継ぎ支援センター統括 責任者 黒下則之さん:
「事業所が残るということは働き口が残るということですし、県民にとっても非常に大事なことだと思いますので、そういうお手伝いを少しでもできれば」
不二楼は店の名前や食器類などを譲り、必要であれば取引先なども紹介するとしています。
不二楼・オーナー 藤崎伸也さん:
「せっかく20年もやった店なんで(店の)名前使っていただいていいので、ずっとこの名前が残っていただければ私としてもうれしいですし、大事に店を継いでほしい」
不二楼にはこれからも明かりが灯り続けるかもしれません。
不二楼の営業は6月30日までですが、最終日まですでに予約で埋まっているということです。
事業の引き継ぎに関心のある方は「県事業承継・引継ぎ支援センター」までご連絡ください。
