人気の飲食店で行列に並ぶ。ゴールデンウィーク中にそんな経験をした人も多いのではないか。おなじみの光景だが、最近は少し変わってきているらしい。
テーマパークなどで導入されている、待ち時間を短縮する、いわゆる『ファストパス』の利用が、飲食店にも広がり始めているというのだ。
手数料を支払うことで、行列に並ばず優先的に案内してもらえるこのシステム。
例えば1000円の料理を食べるのに1500円のファストパス料金を支払うこともあるという。
当たり前に思っていた人気飲食店の行列が変わるのか?
飲食店専門経営コンサルタントの成田良爾さんに話を聞いた。
■「行列をスキップ」と「予約手数料」
【飲食店専門経営コンサルタント 成田良爾さん】
今、飲食店で導入されている『ファストパス』は、大きく2種類あります。
ひとつは「事前に予約をしてファストパス料金を支払う」というもので、お客様は来店時に予約画面を見せることで待たずに入店でき、食べ終わったら飲食代を会計して帰ります。言うならば「予約手数料」がかかるといった形です。
もう一つは、「その場で行列をスキップする」。
お店に行列ができていた場合、店頭にある二次元コードを読み取ってファストパスを購入すると、列に並ばず優先的に入店できるという仕組みです。
ファストパスの料金は、混雑状況や利用人数などによって金額が変わるダイナミックプライシング(価格変動制)で、利用者が多ければ価格が上がり、一定時間、利用がなければ価格が下がります。
いずれも、「その店のメニューを食べたいけど、並びたくない」「旅先で効率よく回りたい」といった人に便利なサービスです。
■「そんなの知らなかった」がトラブルに
多くの人がイメージする「ファストパス」は、“行列をスキップする”方式でしょうか。
お金を払うことで待ち時間が大幅に削減されるので、タイムパフォーマンス(タイパ)を重視する人には非常に有効なシステムですし、店側もファストパス料金の一部が収入になり、行列が緩和されるといったメリットもあります。
しかし課題もあります。
例えば、「ファストパスを導入していることを、どうやってお客様に周知するのか」。
ファストパスの案内は店頭にあることが多いので、直接行列に並ぶお客様は気が付かず、さんざん並んでようやく入店という時に「こんなの知らなかった!」とクレームになるケースが発生しています。
お客様は、繰り返し来店している人やSNSを確認している人ばかりではありません。
店側はファストパスサービスの導入や利用の仕方をお客様に丁寧に伝えるための人員を確保する必要がありますが、人手不足かつ人件費が高騰している今、人を一人雇うというのは、中・小規模の飲食店にとっては大きな負担です。
■「堂々と割り込みされているようなもの」見えない不満が一番怖い
ファストパスを導入するということは、その店にはたくさんの常連客もいる可能性が高いということです。
常連のお客様の心象は、「並ぶし、待つけど、美味しいから来ている」だったのが、サービスの導入で「後から来た人がお金で順番を買っていく」に変わります。
ファストパスを買うかどうかは自分の選択なので、表立っての不満は言えません。
しかし「後から来た人に抜かされて自分の順番がどんどん遅くなる」のはストレスです。
それに常連客からすると、並んで順番に案内される自分たちの方が正規のやり方だという思いがあるでしょうから、お店に対して何かしらの不満を持ってしまう可能性が高まります。
私がいちばん懸念することは、この「見えない不満」です。
常連客が「納得するかどうか」が非常に大きな懸念材料なのです。
■「待つことへの期待感・満足感をどう維持するか」と「世代格差」
また、並ぶことによる期待感というのは、飲食店にとって非常に重要な要素です。
「並んで、待って、やっと食べられた」という喜びは、目的を達成したという満足感を高め、より美味しく感じられることもあります。
ファストパスの利用は、このような「待つことによるプラスの心理的効果」が無くなってしまう懸念もあります。
もっとも、心理面でいうと、世代格差も大きく関係してきます。
Z世代と呼ばれる10代後半から30代前半にかけての人たちは、「タイパ」を重視する傾向にあります。
例えばすぐ近くの店でもデリバリーを頼む。直接、店に行けば店内価格で食べられるのに、「行く時間がもったいない」と、配送料などの追加費用がかかってもデリバリーを利用するのです。
これも「時間を買っている」ことになります。
スマホが急速に普及する中、デジタルツールやインターネットの利用を当然として育ってきたZ世代にとって「タイムパフォーマンスが高い行動」が当たり前なのです。
今後、「満足感」の意味が変わってくるかもしれません。
■「待つというストレスをお金で買うことを正当化できるか」がカギ
飲食店でのファストパスは、短期的にみれば、行列に並びたくないお客様の来店に繋がり、インバウンド客の取り込みに大きな効果があるなどの可能性が広がります。
一方で、中・長期的にみれば、これまで並んでくれていたお客様が離れていく可能性もあります。
まだ始まったばかりのサービスです。「単にお金で優先権を買う」のではなく、これまで通り並んで食べたい人も、お金を出して並ばないで食べたい人も、双方が納得できて満足できるシステムにしていくことが「飲食店ファストパス」定着のカギになると私は考えます。
(飲食店専門経営コンサルタント 成田良爾さん)