「木からお酒をつくる」という世界初の取り組みで、森林資源の価値向上を提案です。
グラスに注がれる琥珀(こはく)色のお酒。
その原材料は木材。
森林総合研究所 微生物工学研究室・大塚祐一郎さん:
この長い人類の歴史のなかで、今になって初めて造られるまったく新しいお酒。食べたり飲んだりすることがほとんどなかった木を実際に飲んで五感で感じてもらえるようになる。
微生物の研究者が生み出した世界初、木材を直接発酵させてつくったお酒。
国土の7割を超える森林資源の循環や、国産材の高付加価値化につながる「木のお酒」の可能性に迫りました。
世界初の木のお酒を試験的に製造しているのは、茨城・つくば市にある「森林総合研究所 木質バイオマス変換新技術研究棟」。
この日はヤマザクラの仕込みが行われていました。
森林総合研究所 微生物工学研究室・大塚祐一郎さん:
細胞壁が密に詰まって木材ができているが、細胞壁の厚さをこの装置で砕いている。
お酒の原料となるのは木材のセルロースという繊維の部分。
これをむき出しにするため、一般的なおがくず状よりも細かく、きなこ状に粉砕し蒸したものを水と混ぜていきます。
木からお酒を造るのに要となるのがビーズミルという機械。
実は全く異なる業界で使われているものだといいます。
森林総合研究所 微生物工学研究室・大塚祐一郎さん:
紙幣の隠し文字を入れるような、すごく高精細な印刷を可能にする特殊インクがこれで作られている。それを応用して木であっても1000分の1mmくらいまで細かくできる。
木そのものからお酒を造るという奇想天外な発想は、微生物学者の大塚さんが微生物による木の分解で試行錯誤する中、この機械と出会ったときに生まれました。
森林総合研究所 微生物工学研究室・大塚祐一郎さん:
ひょっとしたら木を発酵する、発酵食品をつくることにも応用できるんじゃないか。私はお酒が大好きだったので発酵といったらまずはお酒。
特殊インクの製造に用いられる機械を使うことで、木材は次第に滑らかな状態に。
さらに酵母を加え発酵させ、蒸留を繰り返しアルコールの濃度を高めていきます。
こうして生まれた木のお酒。
その味は梅酒のようなフルーティーな香りで、ほのかに桜の風味も感じるといいます。
現在お酒の材料として使われているのは、ヤマザクラのほか、コナラやミズナラ、スギ、シラカバなど。
いずれもお酒のたるや割りばし、つまようじなどに使われる、私たちの生活になじみのあるものばかりです。
杉の木、一本からウイスキーボトル150本分のお酒が造れるといい、間伐材の有効活用はもちろん木材の新たな需要の開拓につながる可能性もあります。
木の種類や育った場所、樹齢によっても味や風味が異なるという木のお酒。
今後、各地で製造されるようになれば、地域に根差した新しいお酒の文化の誕生も期待できそうです。
森林総合研究所 微生物工学研究室・大塚祐一郎さん:
木の酒をきっかけに林業の成長産業化と国産材の高付加価値化を伴いながら、山村地域が豊かになっていくことを期待しています。
2026年に民間企業による試作が開始され、早ければ年内にも試験販売へ。
人手不足や高齢化などの問題に直面している林業を、活性化させる一助となるのか注目されます。