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ホスト国議長として、笑顔で右手を出しだす安倍首相。そこに近づく韓国の文在寅大統領。やや硬い笑顔だが、文大統領も右手を差し出し、ガッチリ握手を…するかと思ったら妙に浅い、指だけを握るような握手になってしまった。G20大阪サミットの会場で久しぶりに出会った両首脳による握手は、現在の日韓関係を象徴するように、どこかぎこちないものだった。

G20直前、韓国メディアでは「外交孤立」という言葉が飛び交った。
いわゆる徴用工を巡る問題で日本との関係は過去最悪と言われるほどに悪化し、G20に際し正式な首脳会談は開かれない事になった。アメリカともギクシャクしている。
一方日本は、トランプ大統領が短期間に3度来日しアメリカとの関係は蜜月と言える程だ。中国とも「永遠の隣国」という言葉が飛び出し、日中関係は目に見えて良くなっている。韓国メディアは、この国際情勢に危機感を露わにし、「外交孤立」と呼んだのだ。

しかし、そんな韓国にも「友邦」がいた。去年3度にわたり首脳会談し、首脳同士が何度も抱擁を交わした北朝鮮だ。最近も、韓国大統領府関係者は「非公開ではあるが、水面下で南北は連絡を取っている」と話していた。北朝鮮との向き合い方について、保守系の韓国メディアは、韓国が北朝鮮との友好関係進展のため非核化問題などで突出して制裁緩和を各国に呼び掛けた結果、韓国が孤立したと分析している。日本との関係悪化も、北朝鮮ばかり見ているため、日韓関係を軽視してきた結果という側面もある。
しかしその北朝鮮との関係も、最近は良くないようだ。

G20開幕前日に北朝鮮が韓国を猛烈批判

文大統領がG20に向けて大阪入りする直前の6月27日午前、北朝鮮メディアは外務省のアメリカ担当局長の談話を報じた。
一部を抜粋すると…

「米朝関係を仲裁しているように世論を作っている南朝鮮(※韓国の事)当局者にも一言言いたい」「南朝鮮当局者が今、南北間に何か多様な交流と水面下の対話が進行されているように広報しているが、そうしたことは一つもない」

韓国との水面下のやり取りは「一つもない」と完全否定したのだ。
さらに…

「米朝対話の当事者は言葉通り私たちとアメリカであり、米朝敵対関係の発生根源を見ても南朝鮮当局がお節介する問題ではない。世の中が皆知っているように、米朝関係は金正恩委員長と米大統領との親密なよしみに基づいている。私たちからアメリカに連絡する事があれば、米朝間にすでに前から稼動している連絡経路を利用すれば良いことで、交渉をする際も、米朝が直接向かい合って座るだけである。南朝鮮当局を通じることは絶対にないだろう」

韓国は北朝鮮とアメリカの「仲裁者」もしくは対話の「促進者」を自任してきた。その韓国の努力を「お節介」と切って捨て、仲介を頼むことは「絶対に無い」と突き放したのだ。G20に向けて出発する文大統領への「はなむけ」としてはキツい言葉だ。

この談話について質問された韓国統一省の報道官は「南北、米朝間対話の早急な再開を基に朝鮮半島非核化と恒久的平和定着のためにずっと努力していくでしょう」とかわしたが、南北の水面下の対話があったのかを重ねて聞かれると「いちいち確認しない。とにかく政府の立場では、ずっと対話の再開と恒久的平和定着のために努力している」と話した。北朝鮮に突き放され、困惑している様子が見える。

一方、韓国大統領府によると、今月平壌で金委員長と会談した中国の習近平国家主席は、文大統領との首脳会談で、「金委員長には韓国と和解・協力を推進する用意があり、朝鮮半島での対話傾向は変わらないだろう」と話したという。先の談話とは逆の話だ。北朝鮮の真意は、はっきりしない。

孤立を恐れる韓国…日韓関係は改善するのか?

G20を巡ってはこんな場面もあった。6月27日に文大統領が大阪に入った際、折からの低気圧の影響で雨が降っていたため、文大統領は傘をさして政府専用機からのタラップを降りた。しかし、屋根付きのタラップで飛行機から降りる他国の首脳もいた事から、韓国メディアは「日本による冷遇ではないか」と色めき立った。韓国大統領府は、「撮影の邪魔にならないように屋根が無いタラップを韓国側が要求したのだ」と説明したため、大きく炎上する事は無かった。「国際的に孤立している」「いじめられている」との危機感が、この「タラップ騒動」の背景にあるのだろう。

文大統領はG20直前に各国通信社の書面インタビューを受け、いわゆる徴用工の問題について「過去の問題を国内政治に利用してはいけない」と日本を批判し、「日韓請求権協定が締結されたのだが、(中略)被害者の苦痛がまだ続いているという事実を受け入れなければならない。 結局、両国が知恵を集めなければならない」と話した。日本政府は、日韓請求権協定で解決済みであり、一方的に条約違反の状態を作った韓国政府が対応するべきという姿勢で、文大統領の考えとはかなりの隔たりがある。
文大統領は大阪の雨に濡れたが、こじれた日韓関係を「水に流す」のは難しい状況が続いている。

【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】
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渡邊康弘
渡邊康弘

FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。