2020年11月3日に迫ったアメリカ大統領選挙。FNNプライムオンライン編集部では、専門家が現地の情勢を本音で語り合うオンラインイベント『ガチトーク』を6週連続で開催中。

10月23日(金)に開催された第4回では、トランプ氏vsバイデン氏の討論会を踏まえて議論した。主なテーマは予想される選挙の混乱と議会の動き、そして経済への影響。アメリカ政治・外交、国際政治を専門とする慶應義塾大学総合政策学部の中山俊宏教授とフジテレビ報道局の風間晋解説委員の2人に加え、みずほ総合研究所の安井明彦氏をゲストに迎えてガチトークを展開。その内容をお届けする。

第2回討論会も、はっきりした勝敗はつかず

フジテレビ・風間晋解説委員:
最後となる2回目の大統領討論会がありました。

慶應義塾大学・中山俊宏教授:
どちらにとってもはっきりした勝利ではない。もともとバイデン氏が有利だったので、大きく構図は変わらずバイデン氏有利のままでは。ディベート自体はつまらなかったが、モデレーターは良かった。

風間:
メディアをざっと見ると、バイデン氏の勝ちという論調が比較的多い。トランプ氏は周囲の忠告を聞きすぎず、前回のようにトランプ節でガンガン行けば良かったと後悔しているかも。

中山:
前回の後に支持率が下がったから、選対はそのまま行けとも言えなかったのでは。

安井明彦 みずほ総合研究所 欧米調査部長:
前回はどっちが何を言っているかわからなかった。今回はそれが聞き取れた点は違う(笑)。どちらも決定打を打っていないが、バイデン氏の支持率が下がってきており、支持率は投票日に向かって近づいていくのでは。

「バイデン氏=経済マイナス」ではない

風間:
トランプ氏は、自らの経済政策は素晴らしい、増税を公約として掲げているバイデン氏ではこの国は終わりだ、とまで言った。しかし安井さんは、バイデン氏になっても必ずしも経済のマイナスにはならないと。

安井:
トランプ氏は減税と言う一方、バイデン氏は増税と言っているのは事実。しかし公約の全てではない。増税分よりはるかに大きな金額を、環境関連のインフラ投資や医療保険、貧しい人のために使うと言っています。足し合わせれば使う方が多い。政府がたくさんお金を使えば、財政の後押しが強くなり景気にはプラス。そこまで見ないとフェアではありません。それに新政権の初期はコロナからの経済再生が課題になるから、いきなり大増税して経済を悪くすることはしないでしょう。

安井明彦 みずほ総合研究所 欧米調査部長:
安井明彦 みずほ総合研究所 欧米調査部長:
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安井:
また、景気の追加対策の実現性について、共和党と民主党の対立のために進まないといわれている。しかしバイデン氏が勝って民主党が上下両院を取れば、大きな景気対策ができるようになる。一方でトランプ氏が勝っても、上下両院を取ることはない。その意味でもバイデン氏なら景気にマイナスというのは違う。少なくとも2022年ごろまでの短期的には。

「高齢者の党」共和党の根本的ジレンマ

中山:
共和党はもともと、財政赤字はダメだという立場。そして共和党は、トランプ氏以後の党のあり方について考えなければならない。財政赤字の問題が急浮上してくるでしょうか。

安井:
共和党は割れている感じです。トランプ氏は2016年から財政赤字を減らすと言いながら、一方で年金や医療保険を削らないと、両立しないことを言っています。共和党の人たちも、いいように両方を使い分けてきました。しかし、もし今回共和党が大敗して「トランプの否定」になると、反動として従来のように財政赤字を減らすべきだという人たちの声が強くなると思う。

ただ難しいのは、非白人に比べて白人の平均年齢が高いこと。つまり共和党は高齢者に支持される政党。一方で、アメリカの財政赤字を減らすためには、年金と高齢者向けの医療保険を削らなければならない。これが共和党の根本的ジレンマです。こうした矛盾の中をどう抜けていくのか。

風間:
共和党は何年も前から、白人・男・高齢者の党という状態から抜け出さなければ将来はないと言われていた。しかしトランプ氏の勝利によって1期か2期かそれが遅れた。

中山:
改革派が一掃されてしまったから。

安井:
若者に支持者が移っていけば財政赤字を減らす方向に変えていけるのだろうが、まだ道が見えていない。

風間:
すると減税を打つぐらいしか手がなくなる?

安井:
そう。減税・規制緩和でなんとか経済を成長させるというやり方になる。成長することで全てを解決する、現状はそれ以外ないというところ。

過半数では足りない「フィリバスター」は廃止に向かうか

フジテレビ・風間晋解説委員
フジテレビ・風間晋解説委員

風間:
バイデン氏当選時の経済政策には、議会がしっかり後押しする必要がある。民主党が上院でギリギリ勝ててもきつそうだと。いわゆる「フィリバスター」の問題ですね。

安井:
アメリカでは多くの法律の場合、100人の上院議員の過半数ではなく、60票なければ決議ができない仕組み。だから50対50に近い勝利では本格的なことができない。するとこのフィリバスターのルールを変えることに踏み込む必要があり、民主党内でもその動きがあるでしょう。

風間:
民主党政権になったら必ずフィリバスターは外してくると思っています。そうでないと政権交代の成果がほとんど望めない状況になってしまう。共和党もかなり強硬に抵抗するでしょうが、フィリバスターはそろそろ制度としての終わりが近づいているのでは。

中山:
楽観的かもしれませんが、バイデン氏は少なくとも当初は、トランプ氏に違和感を覚えている共和党の穏健派と協調する形でアジェンダを組み立てようとするのでは。トランプ氏を除き、どの大統領も政権発足時はそのように亀裂を埋めようとしてきました。当初からフィリバスター廃止とはならないのではないか、という感じもします。

下院での大統領選挙はあり得るのか、その影響は

風間:
視聴者からの質問です。選挙人が確定しない場合、1月6日に下院で大統領選挙が行われる可能性は?

慶應義塾大学 中山俊宏教授
慶應義塾大学 中山俊宏教授

中山:
どちらに転んでも納得には至らず、アメリカの政治制度の正当性の話になる。トランプ氏の発言や行動を積み重ねて考えると、選挙後の混乱を長期化させ、その方向に持って行こうとしている感じはする。しかしアメリカの政治的な正当性と安定は日本にとっても大事であり、そうなってはいけない。

風間:
下院での選挙は一応、合衆国憲法が想定しているものではある。ただ大統領への投票が混乱して下院での選挙となっても、同じ投票用紙で選出された下院の議員は出てこられるのか。そちらにも同じく混乱はないのかという点が心配です。

安井:
シナリオを想定しようと調べれば調べるほどよくわからない世界。経済においても、その混乱が予見されるだけで、株価にも消費者の消費行動にも非常に大きなショックになります。なんとか解決してほしいが……。

また、決選投票になる州が出て、1月5日まで上院の多数党が決まらない可能性もある。マーケットはその不透明感を嫌う。そして混乱の末に信頼されない大統領となってしまうと、経済への影響は強くなります。

バイデン氏のほうが日本経済にはよいが、トランプ氏と共通の困難も残る

風間:
日本経済への影響について。

安井:
淡白な回答をすると、アメリカ経済に与える影響はバイデンの方がよいため、日本にとってもプラス。一方で、アメリカの製造業保護や国内への投資を重視すること、中国に対して厳しい点は変わらない。バイデン氏でも難しさは残ります。

中山:
バイデン氏が推し進めるというバイ・アメリカンは、トランプ大統領の経済ナショナリズムと変わらない。オバマ大統領のアジェンダだったTPPも、バイデン氏が引き継げるのかはかなり怪しい。トランプ大統領からバイデン氏に変わっても引き継がれる部分はある。バイ・アメリカン、自由貿易への不信感などは共通項として残るのでは。

■ガチトーク第5回 10/28水 19:00開催! イベント申し込みページ(無料)

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第4回「アメリカ大統領選ガチトーク」特別ゲストに みずほ総合研究所 安井明彦氏が参戦!

プライムオンライン編集部
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