12月14日に投票が行われた伊東市長選挙で田久保眞紀 前市長の落選が決まった。今回の選挙は田久保前市長の失職に伴い実施され、その発端となった学歴詐称問題を改めて振り返る。

6月初旬。

半年にわたる伊東市の混乱は市議全員宛てに届いた1通の告発文から始まった。

「東洋大学卒ってなんだ!彼女は中退どころか、私は除籍であったと記憶している。こんな嘘つきが市長に選ばれるなんて信じられない!議会に真実の追及を求める!※こんな嘘つき、卒業証書の偽造には注意を」

田久保前市長が報道機関に提出した経歴書や市の広報誌に、最終学歴を「東洋大学法学部卒業」と記していたからだ。

これを受け6月4日、田久保前市長は市議会の正副議長に“卒業証書”とされる書類を提示。

のちに物議を醸す“19.2秒のチラ見せ”だ。

ただ、田久保前市長は頑なに複写には応じず、議会側の疑念が晴れることはなかった。

すると、6月25日の市議会本会議で、この学歴詐称問題が話題にあがる。

しかし、杉本一彦 議員の「東洋大学法学部を平成4年3月に卒業していますね?」との質問に、田久保前市長は「すべて代理人弁護士に任せているので、あとのことは弁護人から公式に発言のない限りは私からの個人的な発言は控える」と答弁。

告発文を“怪文書”と切り捨て、まともに取り合わなかったが、議会側が百条委員会を設置する方針を固めると発言に変化が見られ、翌26日には「前に(正副議長へ)お見せしているような卒業アルバムとか、証書とか、そういった形になるが、とりあえず手元にあるものはそういう風に(公開)していこうと思う」と述べている。

ところが、7月2日に開いた会見では「卒業していたと勘違いしていた」と除籍されていたことを認めつつ、約束したはずの“卒業証書”を持参することはなかった。

にもかかわらず、“卒業証書”は本物である姿勢は崩さず、「一度卒業という扱いになって、なぜ除籍になっているのかはきちんと事実関係に基づいて確認していかないと(いけない)」と主張し、代理人の福島正洋 弁護士も「あれ(“卒業証書”)は普通に考えて偽物とは思わない」と断言。

疑念を深めることとなった。

田久保前市長は7月7日に再び会見を開き、“卒業証書”を在籍期間証明書や上申書と共に検察へ提出する考えを明らかにするとともに辞意を表明したが、「私の中では本物だと思っている」と強調し、福島弁護士も改めて「私の目から見てあれが偽物とは思っていない」と同調。

7月18日には記者から「“卒業証書”は偽物ではないか?」と問われると、田久保前市長は「いえ!」と語気を強めた。

こうした中、東洋大学は8月6日、ホームページ上で「本学学則では、卒業した者に、卒業証書を交付することとしており、卒業していない者に対して卒業証書を発行することはありません」との声明を発表。

それでも、田久保前市長は「卒業できていない人間に卒業証書を渡さないのは当然だと思うので、そこはきちんと確認するべき」と大学側に責任を転嫁するかのような発言に終始した。

また、8月13日の百条委員会で証人尋問に立つと、6月4日の出来事について「報道であるようなチラ見せといった事実はありません。私の方としては、こうやって提示をしまして、約19.2秒見ていただいたと記憶しております」と話し、委員会終了後の取材でも「会話は録音の記録を持っていて、ストップウォッチで計った。持っている記録上では19.2秒提示して、『もっときちんと見せてほしい』といった発言はなく、最終的には『いいじゃん』ということで私としては肯定してもらったと受け取れる発言があった。私としては見せて19.2秒ちゃんと提示したと認識している」と自らの正当性を主張。

しかしながら、8月15日に「必要であれば公開する準備がある」と口にしていた“19.2秒”の音声データは、4日後の19日に「公開は差し控えた方がいいと思っている」と撤回した。

このように田久保前市長が学歴詐称問題に対して真摯に向き合わない中、百条委員会は田久保前市長の発言や認識は虚偽であると認定。

井戸清司 委員長は「東洋大学から提出された記録により、市長が保有する卒業証書とされる書類は正規に発行されたものではないことが明確となった」とした上で、「東洋大学から提出された追加の記録の存在があるが、これをつぶさに確認することで、大学を卒業したものと勘違いしていたとする主張自体がおよそ成立することはあり得ないことであると判定付けることができた」と断罪した。

その後も田久保前市長が説明責任を果たすことはなく、市長選に向けて11月19日に開いた出馬会見でも、学歴詐称問題に関連して複数の刑事告発がされていることを理由に答えず、“卒業証書”とされる書類の任意提出するかについても「慎重に対応するのは捜査機関に対する礼節でもあり、ここで軽はずみな発言は控える。誠意のない態度ではなく、現状で私にできる精一杯の中での対応」と持論を展開。

今回の市長選にあたっては、各種経歴書に最終学歴を「伊東城ヶ崎高校卒業」と記していたことから、報道陣が学歴詐称問題について質問しても「今回は高卒で出ているので」と取り合わなかった。

なお、代理人の福島弁護士によると、“卒業証書”とされる書類は現在も弁護士事務所の金庫の中にあるという。

田久保前市長は選挙結果が判明次第、報道陣の取材に応じることになっていたが、最後まで指定の場所に姿を現すことはなく、陣営関係者によると「きょうは行きたくない」と話していたという。

その後、報道陣には関係者を通じて「きょうは取材対応できない。SNSでメッセージとコメントを出すので見てほしい。使用については後援会の許可を得てほしい」との考えが伝えられた。

テレビ静岡
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