東日本大震災の記憶が薄れる中、岩手県大槌町では高校生が12年以上にわたってまちの復興の歩みを同じ場所で撮影する「定点観測」を続けています。
撮影した写真の数は5000枚以上、記録を「残し」、教訓を「伝える」思いを、代々つないでいます。

10月、大槌町で街並みの変化について意見を交わす高校生、県立大槌高校で復興の歩みを記録し続ける「復興研究会」のメンバーです。

この研究会は2013年に設立され、2025年11月5日時点では全校生徒の6割にあたる約90人が所属しています。
町内の180カ所について定期的に同じ角度で撮影する「定点観測」を続けています。

これまでの12年間で生徒たちが撮影した写真は5000枚以上にのぼり、復興研究会のホームページに掲載されています。

このうち、町の職員ら40人が犠牲となった旧役場庁舎は、津波の爪痕が残っている時期から撮影し始め、時系列に見ていくと建物が徐々に解体されて更地になる様子がわかります。

10月25日は、1、2年生約20人が5つのグループに分かれて、町の中心部である「町方地区」の撮影を行いました。

かつて町方地区に住んでいて、自宅が津波で全壊した2年生の小嶋優渉さんは、「自分と兄、母と隣の家のおばあさんと車で逃げていたけど、前方から津波が来たから、車を捨てて逃げたと聞いている」と当時について話します。

小嶋さんは震災当時2歳だっため、はっきりとした津波の記憶はありません。

それでも、家族などから聞いた当時の状況を多くの人に伝えていかなければならないと考え、研究会に入りました。

大槌高校2年 小嶋優渉さん
「大槌町で生まれ育って、高校までずっと大槌にいるので、しっかり考えなければならないことだと思う」

小嶋さんは「定点観測」だけではなく、研究会として震災を語り継ぐ活動にも参加しています。

大槌高校2年 小嶋優渉さん
「(津波が)5分後となったら、とにかく高い場所にというので、垂直避難」

9月には、町内を訪れた愛知県名古屋市の大学生に避難の大切さを語ったほか、被災した旧役場庁舎が解体された経緯も伝えました。

大槌高校2年 小嶋優渉さん
「観光スポットとして来る人がいるらしくて、『それは違う』と思う人たちがいるから、すごく時間をかけて対話や議論を重ねて、やっと解体という決断になった」

この日は研究会と大学生が、ディスカッションを行いました。

名古屋の大学生
「津波を経験した人や、被災地に住んでいる人から実際に話を聞くことが、データだけ見るのではなく、心に残った」

小嶋さんは、震災当時幼かった若い世代にも、できることはあると訴えます。

大槌高校2年 小嶋優渉さん
「当時の状況を想像することはできるし、それを次につなげていけば伝承になる。こういう活動を今後も続けたい」

当時の記憶があいまいな世代が増えていくことは避けられませんが、小嶋さんは定点観測を通じて、後輩たちに震災を意識し関心を持ってほしいと願っています。

大槌高校2年 小嶋優渉さん
「先輩たちの思いは無駄にしたくないし、次の世代、後輩にもつなげられるよう自分たちがしっかり活動していくことが、伝承につながっている」

後輩たちもその思いをくみ取っています。

研究会の1年生
「普段は普通に過ごしているので、どう復興しているかは気にしたことがなかった。写真を撮って比べると、復興したことを知ることができる」

将来は岩手県に残り教育関係の仕事を希望している小嶋さんは、次の世代に震災を伝える貴重な資料として「定点観測」は必要だと語ります。

大槌高校2年 小嶋優渉さん
「今やっていることは将来もしっかり、その時の若い世代につなげられる材料になる。今後の研究会の活動も向き合っていきたい」

記録を「残し」、教訓を「伝える」。
その思いを後輩たちに託しながら、未来にバトンをつないでいきます。

岩手めんこいテレビ
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