これからの季節、宮島に大群で押し寄せて、原生林を枯らしてしまう“黒いギャング”への根強い対策を取材しました。
早朝、世界遺産の島・宮島に向かう船。
廿日市市と県の職員が観光地とは反対側の島の北東に入りました。
【広島県 水産課・山地幹成さん】
「こう張るん?」
【廿日市市 農林水産課・鹿野陽介さん】
「こう!」
【広島県 水産課・山地幹成さん】
「まわるように!?難しいことを言う…」
宮島の原生林に陸と空から風になびく「テープ」を張り巡らせました。
【廿日市市 農林水産課・鹿野陽介さん】
「いいですね。ここにかけてほしいなと思っていたので、あそこまでいけると思っていなかった。よかったです」
なぜこの対策が必要かというと…
秋だというのに、周辺の草木には雪が降ったような「白い異変」が起きていたからです。
【宮島漁協・丸本孝雄組合長】
「あれだけ(テープを)張っておけば、『今晩寝るところがない』と文句を言われるわ」
その正体は…
【五十川裕明記者】(2023年12月)
「一気に飛んだ。飛んだ。飛んだ。夕日に染まった空に何羽ですか。数えきれません。黒い点が羽をパタパタとさせて向かっていきます。凄い量だ。うわー」
冬場に大群で押し寄せる“カワウ”です。
ここ10年ほどで増えすぎた個体が宮島の原生林を覆い尽くし、寝床と化すのが問題になってきました。
瀬戸内海は、餌の魚が豊富で「越冬」に適した場所。
カワウの白いフンには酸性の物質が含まれることから、放置しておくと貴重な原生林が枯れてしまいます。
さらに魚を潜って食べ尽くし「食害」も引き起こすことから、カワウは「黒いギャング」とも呼ばれてきました。
【五十川裕明記者】
「カワウ被害が特に深刻だった場所です。いま対策をとったことによってだいぶ草木は戻ってきてはいるんですが、それでも土がむき出しになっているところが目立ちます。
対岸からも分かります。土か岩のようなものがえぐれて落ちてきているような様子…はがれているという表現が適切でしょうか」
先週もすでにピーク前というのに、対岸の地御前にはカワウの大群が…
【宮島漁協・丸本孝雄 組合長】
「早く根が張ってくれればこの状態で保てるけど、大雨が降るとどうしても地盤が緩む…」
島の2か所にテープを張り巡らせ未然に寄せ付けない対策をとりました。
昨シーズンも早めに対策をとった効果で12月の飛来数がゼロになった地点もありましたが、油断はできません。
【宮島漁協・丸本孝雄 組合長】
「(この時期)本来ならこの区域は結構いるはずだが、皆さんの努力の甲斐があっていなくなって、いまは1カ所だけ。宮島で継続してやるということが大事。それしか打つ手がない」
《スタジオ》
カワウが宮島で最初に寝床にした場所なんですけど、元々どうなっていたかというと去年年1月の時点ではカワウのフンの影響で草木がほとんど生えていませんでした。
数千羽単位の大群で来てしまうと大きな被害が出るんです。
昨シーズンカワウの飛来前にテープで対策をしたことで、緑が徐々に回復してきたといいます。
宮島は島全体が「特別史跡」と「特別名勝」に指定されるなど、法的な制約があるため木々が枯れても手を加えることができず、植物の自然な回復を待つしかないんです。
そのため、カワウを島に近づけない対策が求められているんです。
宮島漁協によりますと今回対策した2カ所ではカワウの姿はなくなったということです。