鹿児島県南大隅町と肝付町に古くから自生するかんきつ類、「辺塚だいだい」を使って絶品スイーツを作る元漁協職員の男性がいる。妻と日本最先端AIのTHEO(テオ)ちゃんという“2人”の相棒とともに、南大隅の特産品を日本中にもっと広めたいと奮闘している。

前職は漁協職員!異色の経歴のスイーツ店主

鹿児島県大隅半島南部の南大隅町にあるスイーツ店「31℃ LINE花子」。白を基調とした外観がオシャレな店で、店内ではオーナーの山下淳也さんが大きなボウルに入った薄いオレンジ色の生地をくるくると混ぜ合わせていた。
山下さんは南大隅町生まれ、南大隅町育ち。妻の由美子さんと一緒に、南大隅の特産品を使って作るこのスイーツのお店を切り盛りしている。毎日甘い香りに包まれて仕事をしている山下さん、実は前職は漁協職員という異色の経歴の持ち主だ。

白を基調とした外観がオシャレな「31℃ LINE花子」(鹿児島県南大隅町)
白を基調とした外観がオシャレな「31℃ LINE花子」(鹿児島県南大隅町)
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周辺地域限定で守り育てる「辺塚だいだい」

山下さんが作っていたのは、「和製レモンと言われるくらい爽やかな、かんきつの味わい」の「辺塚だいだい」を使ったバウムクーヘン。

「辺塚だいだい」は、大隅半島の南東部にある肝付町と南大隅町の町境周辺にある「辺塚集落」に古くから自生していて、町外への苗木の持ち出しは禁止されている。この地域で守り育てられおり、地域限定の特産品なのだ。ライムに似たふんわりとした香りで、通常の「だいだい」より酸味が少なく、果汁が多いと言われる。

ライムに似た香りと苦みが特徴「辺塚だいだい」
ライムに似た香りと苦みが特徴「辺塚だいだい」

「辺塚だいだいの特徴である苦みを、少しだけ感じる方もいらっしゃいます。」と山下さん。
搾り方にもこだわった特製の辺塚だいだいペーストに、卵、砂糖、小麦粉、バターを合わせて生地を作る。
卵と小麦粉の力だけで膨らませるため、その日の気温や湿度でできあがりが全く違うという。

ないなら「自分で作ればいいじゃないか」

山下さんが25年務めた漁協を辞めたのは、8年前のこと。
異動で漁協の直売所勤務になり、接客の楽しさを知ったことがきっかけだった。

当初は漁協を辞めて、町内で弁当店を始める予定だったが、縁あって南大隅町を代表する名所「雄川の滝」のほとりでカフェを経営することに。

そうして接客業を楽しんでいたが、「天気がここ2、3年おかしくなって。雄川の滝に行くまでの遊歩道で土砂が崩れるようになって。1カ月ぐらいなかなかうまいこと営業ができない状況になってきたものですから、このままでは経営的にもよくないと。」

そして、再び転機が訪れた。

「カフェを経営しているときに日本中からいろんなお客さんが来られて、『南大隅町はおいしい食べ物や果物があるのに、特産品を活かした土産物が何もないよね』ということをしょっちゅう聞かされていまして。ないなら、自分で作ればいいんじゃないか。」と、思い切って雄川の滝の近くに菓子店をオープンさせたのだ。

お客さまからの指摘を受け「それなら自分で作ろう」と決意した山下さん
お客さまからの指摘を受け「それなら自分で作ろう」と決意した山下さん

相棒「THEO(テオ)」は日本の最先端

そんな山下さんには、妻の由美子さんの他に、もうひとり頼もしい相棒がいる。ベージュの長方形のパネルに丸い点が2つ。しばらくすると、その2つの点がニッコリした目の形になった。そして次は、ニッコリからハートの目に変化。かわいい!

笑顔がかわいい
笑顔がかわいい

「THEO(テオ)といって、日本に30台ぐらいしかないAIの道具」と山下さん。かわいい顔の下にオーブン機能を備えている。オーブンの扉の前にあるトレーに山下さんが作った生地を入れ、生地を巻き付ける棒状の芯をオーブンにセットする。
すると「テオちゃん」は、扉を開けてトレーの中の生地が付く高さまで芯を下ろし、芯に生地が付いたらオーブンの中に入れて焼く。そして、バウムクーヘン特有の年輪のような層を作るため、また扉を開けて生地を付けてオーブンに戻したりと、人工知能を駆使して全自動でバウムクーヘンを焼いていく。

山下さんの「こだわり」とテオちゃんの正確さで、絶品のバウムクーヘンが生み出されるのだ。

「朝来たら『テオちゃんおはよう』って感じで、帰るときは『また、明日ね』と帰る。
人口6000人もいない小さな町に、日本の最先端が来ている。はははは。」テオちゃんについて語る山下さんは、とても上機嫌だ。

テオちゃんと対話しながら絶品バウムクーヘンを作っている山下さん
テオちゃんと対話しながら絶品バウムクーヘンを作っている山下さん

南大隅町の特産品を日本中にもっと広めたい

焼きあがったバウムクーヘンは、年輪のようにきれいな層をなしていて、ふわふわ、しっとり。ひとくち食べれば、辺塚だいだいの爽やかな香りが広がる。
店では、このほかにも南大隅町の温暖な気候が育んだ特産品を使った、プリンなども販売している。
山下さんは「南大隅町でご飯を食べさせてもらっていますので、この南大隅町の特産品を日本中にもっともっと広めていけるような活動をしていきたいと思っています。」と、意気込みを語る。

ふわふわ、しっとり 辺塚だいだい香りが爽やかな逸品
ふわふわ、しっとり 辺塚だいだい香りが爽やかな逸品

バウムクーヘンはそのおいしさが口コミで広がり、遠方からわざわざ買いに来るお客さんもいるという。
また、オンラインショップでも購入できる。
「南大隅町には特産品を活かしたお土産がない」とは、もう言われなくなりそうだ。

31℃ LINE花子
ホームページ https://31linehanako.base.shop/

鹿児島テレビ
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