静岡県牧之原市で当時3歳の女の子が認定こども園の送迎バスに置き去りにされ死亡した事件から3年が経った。二度と同じような悲劇が生まれないよう、1冊の絵本に込めた作者の想いとは?

タイトルは「ぶたすけのラッパ」

静岡市内の書店に設けられた特設コーナー。

並んでいるのは「ぶたすけのラッパ」という絵本だ。

いま、この絵本に注目が集まっている。

書店の特設コーナー(静岡市)
書店の特設コーナー(静岡市)
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6月に発売された「ぶたすけのラッパ」は、子供たちが車に置き去りにされ死亡する事故が無くなることを願って書かれた“いのちを守るえほん”で、谷島屋児童書バイヤーの田雜麻紗子さんは「絵を描いているのが『パンどろぼう』で大人気の柴田ケイコさんということもあり、手に取る人がたくさんいる」と話す。

作者はやまざきひろしさんで、2児の父でもある。

主人公は鼻を押すと頭の上のラッパから音が鳴るぶたすけで、やまざきさんによれば「彼はちょっとヤンチャというか、おちゃめな部分があって、お絵描きの時間にブーっと言ったり、みんながお昼寝している時間にブーって言って起こしちゃったりとか、悪ふざけをしちゃう」という。

そんなぶたすけに対して、先生が「車のクラクションみたいで、うるさいからやめてね」と注意するところから物語は始まる。

すると、こんな場面へ…。

バスの扉が閉められる場面
バスの扉が閉められる場面

「そんなあるひのこと。ぶたすけたちがかくれんぼをしていると、ほいくえんのバスのドアがあいているではありませんか」

「しめしめ。ぶたすけとおともだちのりすみちゃんはうんてんしゅさんがにもつをはこんでいるすきにバスにのりこみました」

「ふたりはみつからないようにいすのしたでいきをひそめました」

「するとつぎのしゅんかん!」

「バタン!!!」

同世代の子を持つ作者が抱いた思い

2022年9月5日。

静岡県牧之原市の認定こども園・川崎幼稚園の送迎バスに河本千奈ちゃん(当時3)が長時間にわたって置き去りにされ重度の熱中症により死亡した。

事件が起きたこども園(静岡県牧之原市)
事件が起きたこども園(静岡県牧之原市)

やまざきさんは、川崎幼稚園の事件について「下の子がいま7歳で、(事件)当時4歳で保育園に通っていたこともあり、他人事ではないという感じがすごくした」と振り返る。

後を絶たない子供の置き去り。

ひとりの親として何か出来ることはないか…。

絵本を読む子供たち(資料)
絵本を読む子供たち(資料)

「自分も子供の頃、絵本を読んでいた経験から、何度も何度も読むものだと思っている。繰り返し読み、親も毎回読むことで継続的に学びにつながるのが絵本だと思っている」

たどり着いた答えが“絵本”だった。

さて、バスの中に閉じ込められてしまったぶたすけたち…。

ぶたすけがクラクションを鳴らす場面
ぶたすけがクラクションを鳴らす場面

「バスのなかはどんどんあつくなりあせもどんどんでてきます」

「どうしたらいいんだ…そのときぶたすけはせんせいのことばを思い出しました」

「ぶたすけくんのラッパはくるまのクラクションみたいで…」

「は!そうだ!おいらのラッパでだめならクラクションをならせばいいんだ!」

「ブー!!」

クラクションを鳴らすことの認知度を高めたい

やまざきさんは「(自分で)調べていく中でクラクションを鳴らせば、助けを求めること・知らせること・自分がいま閉じ込められているということを、子供自身が伝えることができる事実を知った」と話す。

ただ、同時に「意外とこの事実が知られていなくて、クラクションを鳴らすと周りは気づいてくれるかもしれないということが知られてない。これをなんとか伝えられないかなと思ったのが(制作の)きっかけ」と明かす。

やまざきさん自身、都内在住のため車を持っておらず、小学生の息子2人も当初はクラクションの存在を知らなかったという。

園児がクラクションを鳴らす訓練(資料)
園児がクラクションを鳴らす訓練(資料)

牧之原市の事件のあと、全国の幼稚園やこども園などで行われたのが、万が一、置き去りにされてしまった場合にクラクションで存在を知らせる訓練だ。

さらに、置き去りを防ぐため安全装置の設置も義務化されたが、やまざきさんは「掛け算だと思っている。安全装置もありつつ、それがない車両もあったり、もしかしたら安全装置が働かない場合もあるかもしれない。その時は子供自身がクラクション鳴らすことができるというように二重三重に安心を作っていくことが大事」と備えや対策はいくつあっても良いと考えている。

また、絵本の制作にあわせて置き去り防止を啓発するためのプロジェクトも展開。

「たすけてブーブープロジェクト」の啓発アニメ 🄫たすけてブーブープロジェクト
「たすけてブーブープロジェクト」の啓発アニメ 🄫たすけてブーブープロジェクト

その名も「たすけてブーブープロジェクト」で、自動車メーカーの協力によりクラクションの体験会を実施しているほか、絵本の読み聞かせを行っている。

置き去り事故ゼロの世界を

目指すは子供たちがクラクションを鳴らすことをためらうことのない世の中だ。

「ぶたすけのラッパ」一場面
「ぶたすけのラッパ」一場面

やまざきさんは「エンジンがかかっていない時は鳴らせないと思っている人もいるし、鳴らしてはいけないと教わる。日本の車社会のマナーとしてブーブー鳴らさないのが基本的なマナーになっている中で『鳴らしていいの?』っていうのがある。置き去り事故がゼロになる世界を目指したいと思っているが、まずはみんな当たり前にクラクション鳴らすんだというのが知られるというか、当たり前になる世界になっていくといいなと思う」と結んだ。

帰りのバスの様子
帰りのバスの様子

「さあ、きょうもかえりのバスからこどもたちのうたがきこえてきます」

「どじこめられたらブーブーブー」

「クラクションならそうブーブーブー」

「ぶたすけのラッパでブーブーブー」

「おおきなおならだブーブーブー」

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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