子育て、防災、地域活性化、財政、いじめ…「継続」か「刷新」か

任期満了に伴う仙台市長選挙が7月20日告示され、現職1人と新人3人の計4人が立候補を届け出た。市政の継続か刷新か。4人が発した第一声には、それぞれが思い描く「仙台の未来像」とともに、争点の輪郭と有権者への問いかけが色濃くにじんでいた。4人の演説から、今回の選挙戦の構図と注目点を読み解く。
「こどもが輝く仙台(まち)」継続を訴える現職・郡和子氏

3選を目指す現職の郡和子氏(68)は、「笑顔あふれ 世界から選ばれる仙台へ」をキャッチフレーズに、8年間の実績と継続への決意を訴えた。
第一声では、子育て支援を中心とした4つの重点施策を掲げた。
1つ目は、習い事や体験活動を支援するバウチャー制度の創設。
2つ目は、国の出産育児一時金50万円に市独自の上乗せ助成を行う出産支援。
3つ目に、第2子以降の保育料無償化。
そして4つ目として、18歳までの医療費を無償化する制度の拡充である。
「子育てがたのしいまち」を掲げたうえで、観光振興や都心再構築プロジェクトなど都市開発にも触れ、郡氏は「このまちが自動的に成長していく仙台を目指す」と強調した。
また、2027年に再び仙台で開かれる国連防災会議を見据え、「音楽ホールと震災メモリアル施設の融合拠点」を“災害文化”の象徴として推進。「世界に誇れる防災環境都市としての役割を担いたい」と述べた。
ハコモノ行政への疑義と「肉声の市政」野田紀子氏の生活者目線

エフエムたいはく社長の野田紀子氏(76)は、「この市政に疑問を抱き続けてきた」と語り、市民一人ひとりの生活実感に根ざした政治の必要性を訴えた。
とりわけ強調したのが、いじめや不登校の問題である。
「第三者委員会や相談窓口があっても、当事者の声に本当に向き合っているのか」と疑問を呈し、「市長直轄の相談窓口を設け、デジタルではなく肉声で市民の悩みに応える」ことを提案した。
また、350億円をかけて整備が計画されている音楽ホールと震災メモリアル館については、「今はまだ早い」とし、反対を明言。代わりに「赤字でも守るべきバス路線」「予算の全面見直し」「区議会ミーティングの常設」など、既存の仕組みを市民参加型に転換していく姿勢を示した。
また、「やれることをやっていかないと安心して死ねない」「困ったときは“あそこに行けば大丈夫”と思える市役所に」と語った。
「仙台市が子育てをする」菅原武大氏が語る大胆提案

元自衛官の菅原武大氏(60)は、「仙台市から日本を立て直す」を掲げ、少子化対策に特化した政策を訴えた。最大の特徴は、子育ての「社会化」である。
第一の提案は、0歳から18歳までのすべての子どもが「1日3食を無料で食べられる場所」をつくること。
第二は、同じく0歳から18歳の子どもを「24時間いつでも預けられる施設」を整備するというものだ。
「一人親が安心して働ける社会をつくる」「仙台市が直接子育てを担う」。既存の家庭支援や教育制度ではなく、「市が育てる都市モデル」を打ち出す異色の公約である。
莫大な予算が必要になると認めつつも、「今ある計画はすべて保留し、この政策に全額投資する」と明言。極端とも言える選択と集中に、現状の政策への強い不信と構造改革への覚悟がうかがえる。
減税と即効性を訴える「刷新派」松本剛氏の対決姿勢

元会社員の松本剛氏(48)は、演説の冒頭から「停滞か刷新か」と問題提起し、「市長交代」の必要性を前面に打ち出した。
注目されるのは、市民税の5%減税という家計支援策。年間45億円の減税を実行し、市民の手元にお金を戻すことで、物価高の対策とするとした。
子育て施策でも、「給食費・保育料・屋内遊び場の無償化」を掲げる。「市民が本当に望んでいる支援を実現する」として、現職の「子育てするなら仙台」のスローガンに真っ向から反論した。
さらに、秋保で計画されているメガソーラー建設にも「市長が変われば止められる」と反対を明言。いじめ問題に関しても、「いじめ解決課」の新設や再調査を表明するなど、現市政に対する明確な“否”の姿勢が貫かれている。
演説の終盤、「最後の最後まで全力で戦う」と語り、市政の刷新を掲げた。
子育てと財政 そして「市政のあり方」問われる選挙に

今回の仙台市長選は、4人が全員異なる角度から「市政の課題」を提示する構図となっている。
郡氏は実績と制度拡充で“継続”を訴え、
野田氏は現場の声を大切にする“生活者目線”を掲げ、
菅原氏は前例のない“構造改革型の子育て社会”を描き、
松本氏は“減税と刷新”で対決姿勢を強調した。
「どんな社会を次の世代に残すのか」「市政とは誰のためにあるのか」という問いに、有権者が答える注目の投開票は8月3日に行われる。
仙台放送