京都の“初夏の味覚”がピンチです。上品な甘みが特徴の「丹後とり貝」。
京都府北部で生産され“京のブランド産品”として親しまれています。
舞鶴湾と宮津湾では養殖の「丹後とり貝」について今シーズンの出荷を断念するという事態に。
1年ほどかけて大切に育てた10万個以上の貝は泣く泣く廃棄…。
高級品「丹後とり貝」をめぐって一体何が…緊急取材しました。
■最高額1個1万300円で取引される京都産のトリガイ
2日、漁が解禁され水揚げされたトリガイ。
早速、行われた入札では、最高額1個1万300円で取引成立!
【仲買人】「特選サイズ。間違いなく日本一のとり貝なので。たくさんの方に食べていただきたい」
その日のうちに地元の宿へ。
京都北部でとれるトリガイの特徴は、「肉厚で甘みがあること」で、この日は「特大」サイズということです。
【記者リポート】「トリガイの実ですが、ほぼ私の手のひらと同じサイズがあります。サクサクとした独特な触感と甘みがすごくおいしいです」
この時期、トリガイの味を求めて宿に来るお客さんも多いといいますが…
【地元の宿の岸和田安弘さん】「(養殖が)手に入りづらかったので、新規のお客様を受けるには貝の数があまりにも少なくて、対応できなかった。去年の約2割くらいしかとり貝のお客様を受け入れられなかった」
養殖されている「丹後とり貝」が取り合いに!?様々な海産物が並ぶ道の駅でも…
【舞鶴港とれとれセンター藤元裕泰理事長】「6月の中旬ごろから並んでない。地元の名産品なんでちょっとやっぱり痛い」
■処分される貝の数は10万個にも…
養殖の「丹後とり貝」に一体何が起きているのか。漁師に密着しました。
海に沈めた「とり貝」が入った箱をひとつずつ引き上げていきますが…
(Q:どういう作業をしている?)
【丹後とり貝漁師川崎弥一郎さん】「つっている貝をあげてとり貝を処分しつつ」
(Q:全部処分するもの?)
【丹後とり貝漁師川崎弥一郎さん】「そうですね。全部焼却処分になりますね」
かごの中に入った大きなとり貝を全て廃棄するというのです。
【丹後とり貝漁師川崎弥一郎さん】「サイズ的には申し分ない感じなので処分となると悲しいっちゃ悲しい」
処分される貝の数は10万個にものぼります。
なぜ廃棄しなければならないのか。その理由はー。
【丹後とり貝漁師川崎弥一郎さん】「とり貝に貝毒が検出されたので、それが原因で出荷ができない。出荷できるだろうなって思っていたんですけどいつまでも貝毒を持ち続けたままになったので…」
■漁師が悲鳴をあげる「下痢性貝毒」とは
漁師が悲鳴をあげるのは…「下痢性貝毒」です。
下痢性貝毒とは毒素をもったプランクトンを貝が捕食すると貝は毒化します。
そして、私たちがその貝を食べると食中毒の症状を引き起こしてしまうというものです。
舞鶴湾での被害額はなんと1億円以上。
丹後とり貝が獲れる3つの湾のうち、舞鶴湾と宮津湾では貝毒が検出され出荷停止となったのです。
■「今まで30年間やってきて(出荷の)全面禁止は初めてのこと」
丹後地方でとり貝の養殖が始まったのはおよそ30年前。
天然のトリガイは高水温に弱く、供給が安定していないことから京都府と漁師らがわずか1センチの稚貝から育てる技術を全国で初めて確立。
しかし、ブランド化への道のりは大変だったようで、立ち上げ当時から養殖に携わる漁師の川崎芳彦さんは、「何万個できたけど売れない。『なんやこれ養殖か』という感じで。養殖もんはやっぱり天然もんよりランクが下という時代だったので」と話します。
試食会を開くなどし、長い年月をかけて定着させてきただけに、今回の出荷停止にはやりきれない思いを抱いています。
【川崎芳彦さん】「残念としか言いようがない。今まで30年間やってきて、全面禁止が初めてのことなんです。大きいのに…と思って(貝を)袋につめる悲しさ、それはみんな痛感していると思います」
■「下痢性貝毒」の原因の一種となるプランクトン増加の原因は分からず…
漁師に大打撃を与える貝毒。一体どのようなものなのでしょうか。
【京都府海洋センター舩越裕紀主任研究員】「ネットを使ってプランクトンの採集をしている。そのなかから下痢性(貝毒)の原因の一種といわれているプランクトンを見つけ出す」
採取の様子京都府海洋センターでは下痢性貝毒を引き起こすプランクトンを集め、貝の毒化との関連などを調べています。
早速、海の中から採集したプランクトンを顕微鏡で調べると…
【京都府海洋センター舩越裕紀主任研究員】「これがアキュミナータですね」
下痢性貝毒の原因の一種となるプランクトンが。画像貝毒が検出された時期には、このプランクトンが多く確認されたということです。
プランクトンが増加する原因は分かってきたのでしょうか。
【京都府海洋センター舩越裕紀主任研究員】「どういった経緯で京都府の湾で(原因プランクトンが)増加してるかっていうのはまだ分かっていなくて、もともと湾の中にいたものが一気に増えたのか。あるいは外で増えたものが湾の中に入ってきたのか、どちらかかなと思います」
来シーズンに向けた準備も始まる中、増加の原因がわからず漁師たちは複雑な気持ちを抱えています。
【丹後とり貝漁師川崎弥一郎さん】「自然を相手にしている作業になるのでこればかりはどうにもならない感じ。来年こそはうまくいくといいなっていうのが正直な気持ち」
京ブランドを襲う危機はいつまで続くのでしょうか。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年7月3日放送)