皆さんは最近『本』を読んでいる?
本屋さんにとって厳しい時代が続いている中、生き残りをかける書店業界は、新しい挑戦を続けている。

「本屋」プラス「衝撃の組み合わせ」を、関西テレビ・秦令欧奈アナウンサーが調査した。

■完全無人 人件費分で好立地の出店
6月26日、新神戸駅構内にオープンした新たな本屋。一見、普通の本屋さんだが、店員が一人もいない「完全無人書店」だ。会員証を提示して入店し、会計はセルフレジという最先端のシステムになっている。
完全無人というスタイルになったのは、人件費の削減が大きな目的だ。
ほんたすブランドマネージャー 南光太郎さん:書店の場合は、お問い合わせのお客様が、他の小売店さんよりも多い。お客様のお買い求めの商品を一緒に探すみたいな所が、レジの接客の中の一つとしてあります。
ほんたすブランドマネージャー 南光太郎さん:それがやっぱり人件費につながる。人件費さえ削れれば、賃料払っていい場所で出店ができる。そういったことから、完全無人で駅前立地でもできるんじゃないかというふうに始まりました。

■書店数は20年で半減 でも今年5カ月で倒産1件だけ
2003年には全国に約2万店あった書店が、この20年でおよそ半分にまで減少していたが、書店の新たな戦略が結果として表れ、今年に入ってからの5カ月間で倒産した書店はわずかに1件だ(出典:帝国データバンク)。
“読書離れ”が進む令和の時代に、書店はどのように生き残っているのだろう。

■TSUTAYAの2階が“時間制シェアラウンジ”
秦令欧奈アナウンサー:本屋といえばTSUTAYAですね。ということで去年11月にリニューアルした、『TSUTAYA BOOKSTORE香里園』にやってきました。こちらで書店業界の新たな戦い方を調査します。
一歩店内に入ると、本の売り場と読書を楽しめるカフェが同じ空間に。最近はよく見かけるようになった光景です。
秦令欧奈アナウンサー:(入り口を入ったスペースには)本がたくさん並べられていまして、左手にはカフェが併設されています。本屋にカフェが併設されてるということで、特段新しい印象は今のところないですね。

ところが2階に上がると…
秦令欧奈アナウンサー:何やらスナックがたくさん並べられています。こちらは…TSUTAYAですよね。見た感じ本の陳列はないですね。
Q.ここはどういったスペースですか?
TSUTAYA BOOKSTORE香里園 長野貴子店長:お茶もできるし、お仕事とかお勉強もしていただける、居心地のいい空間になっています。
こちらは時間制で自由に利用できるシェアラウンジ。
秦令欧奈アナウンサー:最新鋭のオフィスという感じがします。ちなみにおいくらですか?
TSUTAYA BOOKSTORE香里園 長野貴子店長:1時間1100円からとなっております。時間内でしたら、こちらにあるフードと奥のドリンクをご自由にご利用いただけます。
1日利用のプランだと、料金は3300円。時間内であれば無料で読める本も陳列されている。

■TSUTAYAなのにジム?
秦令欧奈アナウンサー:TSUTAYAは、本屋さんだと思うのですが、なぜこのような本を売っていないスペースをやられてるんですか?
TSUTAYA BOOKSTORE香里園 長野貴子店長:書店はなかなか厳しい状況にあったりもするので、体験型の書店というのを目指しております。こちらで本を手に取っていただいて、気に入った本を下で買っていただくような、体験を通して本につながっていただければと思って展開しています。
さらに、体験型書店ならではのサービスも…
秦令欧奈アナウンサー:ジムですか?
TSUTAYA BOOKSTORE香里園 長野貴子店長:そうです。こちら『TSUTAYA Conditioning(ツタヤコンディショニング)という売り場になっております。(ジムの一角を示して)こちらに本棚もありまして、こちらの本もご自由に読んでいただくことができるので、例えば本を読みながらバイクをこぐみたいな使い方をしていただけます。
マシンジムだけでなく本格的なピラティススタジオまで完備している。
利用客:2階に来てピラティスのレッスンを受けたり。
秦令欧奈アナウンサー:本屋を使ったりはしないのですか?
利用客:本屋さんを利用する日もありますし、ラウンジを利用する日もあります。時短にもなりますし、1つの施設でいろんなことができるので便利だなと思って。
ピラティスは月4回のレッスンで月額13200円となっている。

■本売り場の面積半分にしても売上2割しか落ちず→利益30%アップ
そして去年のリニューアルから、店舗全体の利益はなんと30パーセントアップ(前年比)したのだそうだ。改装前は2階も全て本の売り場だったが、本の販売エリアはおよそ半分に減っている。
Q.以前より(本の)売り上げは増えた?減った?
TSUTAYA BOOKSTORE香里園 長野貴子店長:減っているんですけど、ただ在庫が半分になっているので、『きっと売り上げも半分ぐらいになるだろう』と予想はしていたんですけど、半分ではなく8割ぐらいの売り上げが取れています。
秦令欧奈アナウンサー:面積を半分にしたけど売上は2割しか落ちてない。効果てきめんですね。
ジムやピラティスを入れたことで、これまでは縁の少なかった人が本を手にとるという相乗効果につながったようだ。

■「温泉施設」の奥はまるで“魔法使い学校の本屋さん”
秦令欧奈アナウンサー:さらに進化を遂げている本屋さんがあるということで、兵庫県三田にやってきました。それがこちら『寿ノ湯』という温泉です。本屋ではないようですが…
玄関を入るとおしゃれな空間が広がっているが、やはり本屋には見えない。
秦令欧奈アナウンサー:最新の本屋さんだと伺ってきたんですけど、こちらは本屋さんじゃないですよね?
三田天然温泉 寿ノ湯 細沼恵支配人:ちょっとこちらをご案内させていただきます。

■本は「1冊も売れないときは売れないときも」それでも集客効果あり
2階へ連れて行かれると…
秦令欧奈アナウンサー:岩盤浴、完全に温泉施設という感じです。こちらもよくある温泉の休憩所のようなスペースですが…、おーここからいきなり、ずらーっと漫画が置いてあります。こっちもまだ終わりじゃない。めちゃくちゃ奥行きある本屋さん。一気に雰囲気が変わりましたよ。(壁がぐるりと本棚になっていて)“魔法使い学校の本屋さん”みたいですよ。ここが本屋さんってことですか?
三田天然温泉 寿ノ湯 細沼恵支配人:1階の方が温泉になっておりまして、2階のスペースが、岩盤浴と本を読んでいただけるスペースになっています。平日、温泉と岩盤浴セットで1800円になりまして、土日祝日に関しては2300円になっています。
秦令欧奈アナウンサー:大きい温泉施設ですと、本が置いてあるところがあるじゃないですか。それとは何が違うんですか?
三田天然温泉 寿ノ湯 細沼恵支配人:本が約1万冊あるのですが、こちらのスペースの本に関しては、お客様が実際に読んでいただいて、気に入っていただければその場で購入いただくことも可能になっております。
Q.本はどれぐらい売れている?
三田天然温泉 寿ノ湯 細沼恵支配人:1日1冊も売れないときは売れないですね。
Q.1冊も売れなくて経営的には大丈夫?
三田天然温泉 寿ノ湯 細沼恵支配人:ライブラリースペースを目当てにお客様が、たくさんお越しいただいておりますので、(本が売れなくても)本当にありがたい状態になっております。

約1万冊の書籍が楽しめる本屋さんで、“館内着”に着替えて、読書体験してみた。気になる1冊をチョイスして…
秦令欧奈アナウンサー:一人暮らしで料理もしたいと思っているので、『おにぎりレシピ101』。
三田天然温泉 寿ノ湯 細沼恵支配人:こちらは『おこもり部屋』ですね、こちらのにお客様が入って、ゆっくり本を読んでいただきながら、くつろいでいただけるスペースになります。
秦令欧奈アナウンサー:おこもりするということですね。ちょっと入っていきます。かわいい。これはもう家だ。
おこもり感のあるスペースがいくつも用意されていて、落ち着いて本が読めるようになっている。

秦令欧奈アナウンサー:お風呂に入って、岩盤浴入って、それで(おこもり部屋で本も読んで)こんなにくつろげるって…もう一生ここにいたい。
利用客に聞いてみると…
Q.リフレッシュになっている?
利用客:普段仕事をフルタイムでやっていて、1歳の娘の家事育児とかを全部やっているので、なかなか家で本をゆっくり読む時間がないので、こうやって子供と離れて、静かな場所で、好きな本を読めるのはすごいリフレッシュになります。ストレス発散というか。オシャレで面白そうな本とか見やすく並べられていて。
利用客:非日常的な感じのレイアウトで、行くだけでもテンション上がるような。

■「寿ノ湯」の空間は本の卸業者「日販」がプロデュース
「寿ノ湯」のこの空間、本の卸業者「日販(にっぱん)」がプロデュースした。狙いを聞いてみると…。
Q.なぜ温泉に「本屋」が入ることになったのか?
日販プラットフォーム創造事業本部 プロデュース業務チームマネージャー 伊藤晃さん:やはり今、本屋さんが当たり前のようにあった駅前ですとか商店街で、どんどんなくなっていっている。それと他業種の方とタイアップして、本のある空間をどんどん増やしていきたいという思いからです。
日販 伊藤晃さん:温泉って日常から離れてリラックスできる場所だと思うんですけど、本屋さんだと絶対“寝落ちNG”じゃないですか。でも温泉施設でしたら、本をゆっくり読みながら、そのまま寝てしまってもいいですし。
Q.「日販さん」は儲かっているのか?
日販 伊藤晃さん:本の卸売事業は、売り上げは減少しているのですけれども、その他、本のある空間を作る事業を合わせますと、全体的に黒字という形になっております。
本の売上だけではなかなか厳しいのが現実だが、さまざまなアイデアで生き残りをかけて奮闘する書店業界であった。

■「読んだ時の“体の入り方”が違う。ぜひ本を」と藤井教授
「なんとか本を手に取ってもらいたい」という書店業界の努力が見えた。
本を買う側でもあり、本を出す側でもある京都大学大学院の藤井聡教授は、出版業界は厳しいと話し、紙の本とタブレットなどでは「読んだ時の“体の入り方”が違う。ぜひ本を手に取ってもらいたい」と話した。
京都大学大学院 藤井聡教授:(出版業界は)なかなか厳しいですよね。(初版発行部数が)昔は多かったものが、だんだんと『これぐらいしか出してくれないの…』という感じで、出版不況を肌で感じます。
京都大学大学院 藤井聡教授:しかし、本というのはネットでも、タブレットでも見られますけど、実際に紙の本で読んだ時の“体の入り方”がやっぱり違うんですよ。自分で読んでてもそうですから。ぜひ皆さんに、本を手に取ってもらいたいと思いますね。

(関西テレビ「newsランナー」 2025年6月27日放送)