100年近く続く長野県岡谷市のみそ蔵に30代姉妹の社長・専務コンビが誕生しました。
2人は新たな視点も取り入れながら伝統を守り、みその魅力も発信して業界全体を盛り上げようと奮闘しています。

次々と詰められていくみそ。岡谷市のみそ蔵 「喜多屋醸造店」です。作業をしているのは37歳の長峰愛さんと36歳の白鳥彩さん。2人は姉妹です。

先代の父から受け継ぎ、6月、愛さんが社長に就任。彩さんは専務として支えます。

喜多屋醸造店 5代目社長・長峰愛さん:
「喜多屋を盛り立てたいという思いが強い。大変なことはいっぱいだけど、正直楽しい(気持ちが)勝っている」

喜多屋醸造店 専務・白鳥彩さん:
「新しい社長をサポートできるかというところが私のこれから大事になってくるところ」

喜多屋醸造店は1932(昭和7)年創業。初代・佐々木新七さんが酒の販売の傍ら、製糸工場のみそやしょうゆを造る「醸造部」を買い取ったのが始まりで、戦後、みそ専業となりました。

2代目の父を早くに亡くし、3代目の母を助けて4代目となったのが父の一夫(66)さん。国産原料にこだわった「雪娘」を一番人気のシリーズに押し上げました。


喜多屋醸造店 4代目・佐々木一夫さん(2022年):
「国産米の麹を丁寧につくった甘さ、優しさ、豊かさを端的に出したのが雪娘の白。赤い方は豆のコクと香りの強いみそ」


姉妹は、 父自慢のみそを幼いころから食べて育ちました。長女の愛さんは、子どもの頃から料理好き。都内の専門学校で学んだ後、飲食店で働きます。都会暮らしの中、忘れられなかったのが「実家」のみその味です。仕事がうまくいかず、悩んでいた愛さんに 一夫さんとみそが故郷に帰るよう促しました。

姉・愛さん(2022年):
「うちのみそがおいしいのが一番なんですけど、東京に出てから自分自身の生き方に迷ったときに父が声をかけてくれ、『お前の居場所は俺が守るから』と言ってくれて、なんとか恩返ししたいと」

13年前に店に入り家庭を持ちながら主に広報活動などを担当。働く中で、一夫さんが自分の代でみそ蔵を畳もうとしていたことを知り引き継ごうと決意します。そして、7年前、市内の会計事務所で働いていた妹の彩さんを店に入るよう誘いました。

姉・愛さん(2022年):
「社会経験の浅い私なので、私は彩とやりたいと真剣に伝えたら応えてくれた」

妹・彩さん(2022年):
「お姉ちゃんのみその情熱と社長(父が)ができるところまでやったらやめるという話を聞いた時に、なくすのもなくさないのも自分次第かなと思った時にやってみたいな」


2人でみそ蔵を守ると決めた姉妹。2019年から6年間、父親のもとで修業を重ねみそ造りを学んできました。

そして、6月2日、愛さんが5代目に就任。30代姉妹の社長・専務コンビが誕生しました。父・一夫さんは会長に。

従業員を前にあいさんがあいさつ。

姉・愛さん:
「みんなの支えがあれば、この喜多屋をもっとより良くなっていく、たくさんの人の笑顔をつくっていけると信じています。今以上に力を貸してください。どうぞよろしくお願いします」

県味噌工業協同組合連合会によりますと、県内のみそ蔵で30代姉妹の社長・専務コンビは「おそらく初めて」だということです。

妹・彩さん:
「最初のうちは大丈夫かなみたいなのがあったが、日に日にしっかりしてきて、やっぱりお姉ちゃんが社長で良かったなと思うことが多い」

父・一夫さん:
「だんだん責任が重大になってきて、本人もつらいところがあったと思います、きっと。それでもきょうまで頑張ってきたので、そういった点でも成長したなと思います」

2人が目指すのは、みそ蔵を未来につなぐこと。そして、業界全体を盛り上げることです。

みそ造りが盛んな信州。しかし、県味噌工業協同組合連合会によりますと、組合に加盟する県内のみそ蔵はピークだった昭和20年代の300余りから90弱まで減少しています。要因は食事の洋風化に伴う需要の減少と「後継者不足」です。

妹・彩さん:
「ここがみそを熟成させる部屋になっています」

2人が2024年から始めたのがみそ造りの工程の「データ化」。大豆の煮こみ時間などを数字で記録し出来栄えを記録。誰でも安定したみそが造れるようデータを集めています。

父・一夫さんは長年の経験でみそを造ってきました。修業をしていた2人は戸惑うことも多かったと言います。

妹・彩さん:
「大豆の煮るタイミングとか温度変化とか全て会長(父)の頭の中にある経験則でやっていた。私が引き継いだ当初、言われた通りにやっても同じように大豆をゆでることができなくて、よりクオリティーの高いみそを造る、品質を保つというのもそうですし、今後の担い手の人たち、私たちの次の世代の人にもよりよい造り方を引き継げるようにとの願いもある」

さらに―。

姉・愛さん:
「食べやすい、なめらかなみそになるから頑張って」

この日、愛さんが訪れたのは岡谷市の保育園。みそ造り体験 です。

みその魅力や信州・ 岡谷のみそ造りの伝統を知ってもらおうと積極的に保育園や家庭などに出向き、教室を開いています。

児童:
「まるまるにするところがたのしい」
「たのしかった。みそラーメン(で食べたい)」
「キュウリにつけて食べたい」

姉・愛さん:
「地元をみそで盛り上げたいということ、小さいお子さんにみそ造りの楽しさ、魅力、おいしさを知ってもらうことで、大きくなってからもみそが好きってお子さんが増えてもらえたらな」

100年近く続くみそ蔵に誕生した30代姉妹の社長・専務コンビ。新たな視点も取り入れながら2人で伝統を守ろうと奮闘しています。

妹・彩さん:
「2人でようやく一人前の2人なので、新社長を支えるという意識を持って、2人でやっていこうという気持ちです」

姉・愛さん:
「これから先、100年も200年もこの会社が残ってほしいという思いを持っている。普段の食卓に喜多屋のみそがないと安心できない、落ち着かないわと、個人個人、皆さんに寄り添っているもの(みそ)であってほしい」

長野放送
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