違法薬物を密輸した疑いで逮捕・起訴され、勾留中に(のちに有罪確定)、糖尿病により「失明にの恐れがある」と医師に診断されたものの、保釈請求が何度も却下されたため適切な治療を受けられず、右目の視力をほとんど失ったとして50代の男性受刑者が国に損害賠償を求めた裁判で、大阪地方裁判所は先月29日、男性受刑者の訴えを棄却しました。

この判決に対し男性受刑者は、手紙で関西テレビの単独取材に応じ、「高裁ではちゃんとした判決が出ると思います。今回の判決はあまりにひどい」などと憤りの声を寄せました。

■男性受刑者が書いた手紙には憤りの言葉が並ぶ

男性受刑者は、関西テレビの記者への手紙の中で、自身の現在の視力について、次のように説明しました。

【男性受刑者の手紙より】「私の目のことですが、右目は矯正で0.01、左目は0.05~0.07です。強度の弱視メガネをかけてこの手紙を書いています。動いている物は見る事ができません」


そして強い言葉で1審判決を厳しく批判しました。

【男性受刑者の手紙より】「高裁ではちゃんとした判決が出ると思っています。今回の判決は余りにも酷いものです。悪い裁判官にたまたま当たったと思うしかありません。

人質司法は違法です。国民の代表である議員が作った法律を裁判官、検事、官僚が恣意的に曲解し運用しているのです。これは民主主義の否定です。国民を馬鹿にしてます」

■裁判に至った経緯は…「糖尿病網膜症」と診断され保釈を求めるも

手紙や裁判の訴状によると、男性受刑者は2019年11月、違法薬物を密輸した疑いで逮捕・起訴され、翌月、勾留先の大阪拘置所で医師に「糖尿病網膜症」と診断されました。

外部の医療機関で適切な治療を受けるため、男性受刑者は弁護士に対して「早急に保釈申請して下さい。恐怖を感じています。失明の。本当にお願いします」などと電報を送り、保釈を求めました。

弁護士はすぐさま保釈請求をしますが、大阪地方裁判所はこれを却下。その後も保釈請求は2度も退けられ、男性受刑者の視力は悪化の一途をたどります。

■拘置所側に治療を申し立てるもかなわず…保釈が許可されても…

この状況に危機感を抱いた男性受刑者は2020年4月、大阪拘置所に対して書面でこう訴えました。

【男性受刑者から拘置所への診察願より】「網膜症の治療をお願いします。昨日夜に現在水が滞っている右目の視野が更に狭くなりました。 前回医師が失明するかもしれないと言っていたので心配です」

しかしそれでも目の治療を受けることはできず、男性受刑者はさらに弁護士に保釈を懇願しました。

【男性受刑者から弁護士に宛てて送った手紙より】「一回光を失うと復活しないので早急にお願いします。ちょっとここ4、5日間の悪化具合にビビっています。本当に。」

そして2020年5月1日に4回目の請求で保釈がようやく許可されましたが、検察官が準抗告(取り消しを求める不服申し立て手続き)と、保釈の執行停止を申し立て、大阪地裁はこれらの一部を認めました。

これにより、保釈に際して支払う保証金(保釈保証金)が増額され、経済的な理由から男性受刑者は保釈を断念しました。


■男性受刑者の視力は大幅に低下 裁判に踏み切る

最終的には、勾留の執行停止による一時的な保釈によって男性受刑者は外部の医療機関で目の手術を受けることができましたが、医師の診断からおよそ半年が経過していました。

かつては裸眼で車の運転もできた男性受刑者の視力は右目が0.03まで低下し、メガネなどでは十分に矯正できないほど、悪化していました。

男性受刑者は勾留中に適切な目の治療を受けられず、視力が著しく低下したとして、2022年11月、国に対して約1億1500万円の損害賠償を求めて提訴しました。

裁判の中で国側はこう主張しました。

【国の主張より】「男性受刑者が外部医療機関による治療等を拒否したため、原告の同意の範囲内で定期診察を行っていたし、保釈請求が難しくなったと男性受刑者が申し出てから、速やかに外部医療機関を確保するなど、適切な診療等の措置を執っていた」。

一方、男性受刑者側は、「外部医療機関で治療を拒否したことはなく、かえって外部医療機関への受診を希望していた」などと反論していました。

■双方の言い分食い違う中 大阪地裁の判断は「請求棄却」男性受刑者が敗訴

そして先月、大阪地方裁判所(成田晋司裁判長)は、男性受刑者の訴えを全面的に退ける判決を言い渡しました。

理由について、大阪地裁はこう示しています。

「大阪拘置所における診療録上、男性受刑者が外部医療機関への受診を拒否した旨の記載は見当たらない」とした一方で、拘置所に勤務する医師とのやり取りなどから「男性受刑者が自身の選んだ医師に治療してもらうために保釈を希望していたと推認される」と指摘。

そのため、男性受刑者が外部医療機関での診療を拒絶したとする、拘置所の医師による供述は「排斥できない」とし、「他に外部医療機関への受診がその意思に反するものではないことを表明したことを認めるに足りる適確な証拠はない」などとして、男性受刑者が外部の医療機関で治療を拒否したという国側の主張を否定できないと判断しました。

さらに、保釈請求が退けられたことについては、「男性受刑者が起訴された罪は無期懲役もあり得る重大犯罪であり、居所が必ずしも判然としなかった」「勾留の執行停止という手段を執ることもできる」などとして、いずれも違法ではないとしました。

■代理人弁護士「判官は一切耳を貸さなかった。こんな人たちに人権保障の砦を任せていいのか」

判決後、男性受刑者の代理人弁護士は裁判官への不信感をあらわにしました。

【男性受刑者の代理人 水谷恭史弁護士】「裁判官は一切耳を貸さなかった。こんな人たちに人権保障の砦を任せていいのか。判決の中身についてはきわめて遺憾で、憤りを覚える」

そして男性受刑者自身も、手紙で判決への強い不満を示しました。

【男性受刑者の手紙より】「5月29日の判決には驚きました。拘置所は本人が検査、治療を拒否したという主張を裁判官は採用しました。

私は弁護士を通じて二度も拘置所に早く治療する様に苦情を出しています。しかも、医師から失明すると言われているのに治療を拒否する訳はありません。

高裁ではちゃんとした判決が出ると思っています。今回の判決は余りにも酷いものです。悪い裁判官にたまたま当たったと思うしかありません」

男性受刑者は控訴しています。

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。