京都市で揚げ物油による火災が急増しています。その背景には今“はやりの調理法”があるといいます。
京都市消防局全面協力の実験で、便利な調理法の思わぬ落とし穴が見えてきました。
■「揚げたいけど揚げたくない」家庭の救世主 今どき主婦の“油少なめ調理法”が大ブーム
大阪市内に住む伊藤さん一家。夕飯の準備を手伝う子供たちが心待ちにしているのは、から揚げです。
「いただきます!おいしい!めっちゃおいしい!」
子供たちの大好物で、みんなおかわりしますが、親にとっては、「揚げ物」のハードルは高いそうです。
(Q.揚げ料理はどのくらいする?)
【伊藤真衣さん】「全然しないですね。絶対(油が)跳ねるから、掃除したくないのが一番。なるべく油使いたくない」
そんな伊藤さんの揚げ物の作り方は…。
【伊藤真衣さん】「“揚げ焼き”でから揚げを作る。(サラダ油を入れながら)いつももっと少ないかも。全然使わないですね」
「油少なめ」で調理をする“揚げ焼き”。
伊藤さんに限らず、いまネット上のレシピでは、「揚げ焼き」など「油少なめ」の調理が大人気。
フライパンに5ミリほどの油で揚げたハッシュドポテトなど、多くのレシピが公開されています。
■「油少なめ」は家計の味方?広がる“揚げ焼き”人気の理由
街の人に聞いてみると…。
(Q.油は少なめ?)
【街の人】「(少なめに)してます。そのほうが早く揚がる。捨てる油がなくて、もったいなくない」
【街の人】「すごい少量でやってます。半身浴くらい。飛び散ったりとか、周りのキッチン片付けるのもめんどくさい」
また、弁当用のレシピ本などが話題の料理家「まるみキッチン」さんは、人気の理由は他にもあると考えているそうです。
【料理家 まるみキッチンさん】「最近、食材がなんでも高騰する中で、サラダ油も値段が上がってきているので、食材費を抑えられることもメリット。揚げ焼きはバズりやすいテーマです。極力、揚げ焼きできるものは、揚げ焼きするようにしています」
米価格高騰のかげに隠れがちですが、「油」も高騰が止まらない商品の1つです。
日清オイリオなど大手メーカーの商品も、ことしに入り7%以上の値上げを実施しました。
(Jオイルミルズ:ことし5月から7~15%値上げ、日清オイリオ:ことし4月から7~11%値上げ)
【フレッシュマーケットアオイ 内田寿仁社長】「メーカーさまが値上げすると、私たちの仕入れ値も上がるし、すごく心苦しい」
■「油少なめ」の落とし穴 相次ぐ火災事故に消防局が警鐘
手軽さに、物価高などさまざまな理由で、広がりをみせる「油少なめ」調理。
しかし、この状況に「待った」をかけるのが京都市消防局です。
【京都市消防局 山田正人予防課長】「(ことしに入って)天ぷら鍋火災については12件。まだ半年たってないにかかわらず、昨年の9件を上回っている状況」
ことしに入って、京都市内で「揚げ物火災」が急増。その背景にあるのが、「油少なめ」の調理だというのです。
一体どういうことなのか。取材班は、京都市消防局「全面協力」のもと、実験を行いました。
まずは「十分な量」といえる、500ミリリットルの油を鍋に入れて、火をつけます。
【記者リポート】「火をつけてから10分で煙の勢いが強くなってきた」
そして、火をつけてから12分後に、炎が上がりました。
360度を超えると、発火すると言われる「油」。
油の量を500ミリリットルから、100ミリリットルに減らすと、どうなるのでしょうか?
火をつけてから3分で早くも煙が上がり、そしてボワッ!
【記者リポート】「あ、今炎が上がりました」
なんと、500ミリリットルのときより早い、わずか5分。油を少なくすると温度が上がりやすく、発火するまでの時間が短くなります。
この「発火までの時間」の違いが、「油少なめ」による火事を招いているようです。
■揚げ物油火災 正しい消火法と危険な誤解
一度燃えれば、そう簡単に消えることがないのが、「揚げ物油」火災の恐ろしさ。
消火方法についても聞いてみました。
【京都市消防局 中川正宗調査鑑識係長】「まず最初にコンロの火を必ず止めてください。台所にある、お鍋のふたや濡れ布巾で鍋を覆って窒息させます」
しかし…。
【京都市消防局 中川正宗調査鑑識係長】「消えたと思って、ふたを開けると、また再び火が入ってしまう」
【京都市消防局 中川正宗調査鑑識係長】「鍋をふたすることによって、空気が遮断されて窒息消火されるけれど、油の発火温度=360度には達したまま。しっかりふたして、すぐ開けず、時間をおいてしばらく待つということが大事」
■パニックが招く判断ミス「水」消火が招く悲劇
そして、“意外とやってしまいがち”だという失敗が、「水」での消火。
安全に配慮した上で、消防隊員が水をかけてみると、数メートルの高さの火柱が上がりました。
「水と油」と言いますが、火事になると、パニックに陥ってしまい、思わず水をかけてしまうケースが多いのだといいます。
【京都市消防局 中川正宗調査鑑識係長】「天ぷら油火災で間違った消火が行われると、普通の火災に比べても負傷者の率が跳ね上がる傾向」
手軽なおいしさの裏に潜む危険性。
料理家「まるみキッチン」さんは、水分を含む食材の揚げ焼きに「注意が必要だ」と話します。
【料理家 まるみキッチンさん】「食材の水分が少ないものを使うとか、水分をしっかり拭き取ってあげるとかは、意識して」
大惨事を防ぐためにも注意が必要です。
■「油」は高温になることで発火 少量だと温度センサー動作しないことも
油の価格高騰や、調理後の処理のわずらわしさ、それと健康志向などもあり「油少なめレシピ」が人気となっています。
しかし油が少ないと温度が上がるのが早くなり、発火時間が短くなるという、思わぬ危険があるということです。
ガスコンロだけでなく、火を使わないIHコンロでも、油が発火する危険はあります。
実験で、鍋に少量の油を入れてIHコンロで約3分加熱し続けたところ、白い煙が上がり、続いて炎が上がりました。油が高温になればIHコンロでも発火してしまいます。
またコンロによっては温度センサーがあるので、安心だと思っている方もいるでしょうが、温度センサーは油が適量の時に発動するもので、油が少量だと反応しないこともあるということです。
■学生の街「京都」で“揚げ物火災”が急増
京都市で「揚げ物火災」がことし急増しているということです。
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「京都市消防局によると、学生の街で10~20代の若い人が多い。食材が高騰しているので、節約志向で自炊しようと思う人も多くなっているのでしょうが、調理の経験が浅く、レシピ動画などを見ながらまねて調理をしがちなことが、もしかしたら原因になっているのではないかということです」
揚げ物をする際は、十分にお気をつけください。
(関西テレビ「newsランナー」 2025年6月12日放送)