ボランティアで、かつて罪を犯した人たちの立ち直りを支援する保護司。
1年前の5月26日、滋賀県の自宅で殺害されているのが見つかった新庄博志さんは、多くの出所者に寄り添う保護司でした。
新庄さんとの出会いから、変わり始めた青年は、教えを胸に立ち直りの道を歩んでいます。
■「消せるものなら消したい」 入れ墨に刻まれた過去
滋賀県大津市の旅館で働く、谷山真心人さん(27)。
育児放棄の家で育ち、10代の頃は寂しさから非行に走りました。仕事にはつかず、空腹から万引きをくり返すようになり、ほとんどを少年院や刑務所で過ごしました。
指先まである入れ墨は、中学1年の時に、肩の般若は中学卒業のころに彫りました。
【谷山真心人さん】「(当時は)この顔がいかつくて好きだった。気軽に服が脱げないとか、今の生き方をしていると足かせではあります。消せるものなら消したい」
【谷山真心人さん】「自分がこういう関係の仕事ができると思ってなかった。“役に立つ人材でありたい”と、雇われた時から思っています。それが自分の恩返しなのかなって思うし、新庄さんが喜ぶ姿なのかな」
■「最初は心を開けなかった…」 保護司・新庄さんとの出会い
今の生活を送るきっかけをくれた新庄博志さんは、民間のボランティアである保護司を20年近く続け、罪を犯した人たちの更生を支えてきました。
谷山さんの担当保護司になったのは、違法行為を繰り返していた18歳の時。
月に2回の面談で、今後の生活をどうしていくのか話し合いましたが、最初は苦手な存在でした。
【谷山真心人さん】「全然、知らない人に、『困ったら相談してこいよ』と言われたところで、そんなやすやすと心を開けなかった。何ができんねんと最初は思っていましたし、近況報告を嘘を交えて話して、保護司との関係を終えていく感じでした」
■刑務所に届いた手紙 「この人は裏切ったらあかん」
ある日、谷山さんは服役していた刑務所を訪れました。
実は、新庄さんと出会った後も心を入れ替えることができず、窃盗事件を起こし、5年間服役していました。
【谷山真心人さん】「出所して以来の刑務所です。ここで5年も過ごしたんやなって思って」
それでも新庄さんは、見捨てずに面会に来てくれました。
【谷山真心人さん】「だいぶボロボロなんですけど…」
取り出したのは、その時に渡された手紙。7枚の便箋には、道を踏み外すことを自分の責任と感じていた、新庄さんの思いがつづられていました。
【新庄さんの手紙】「人の人生はそれぞれ自分の人生ですから、基本的にはあなたの考えや行動を是として認めてきました。否定すると、あなたが心を開いて話してくれなくなると不安もありました。しかし、今はダメな事はダメと、しっかり伝えるべきだと思っています。」
【谷山真心人さん】「手紙をくださったりとか、面会に来てくださったりとか、本来、保護司としては、別にしなくていいことなんです。それを、わざわざしてくれるのは、本当に僕のことを思ってとか、“この人は本当に裏切ったらあかん”って、そういうことをしてくれる時に思います」
■突然奪われた、寄り添い続けた新庄さんの命
ずっと寄り添い続けてくれた新庄さん。1年前、自宅で殺害されているのが見つかりました。
逮捕・起訴されたのは、谷山さんと同じく、新庄さんが保護司として、立ち直りを支援していた男(36)でした。
【谷山真心人さん】「亡くなった新庄さんに対して、今の僕が何ができるのかすごく考えますし、新庄さんが僕に対して望んでいたことを、行動として実行に移すことが、『保護司してよかったな』って思ってもらえるのかな。新庄さんにお世話になった一人として僕が示したい」
■新庄さんが紡いだ新たな職場
2年前に出所した後、徐々に今の職場になじんできました。ここで仕事ができるのも、新庄さんが働きかけてくれたからです。
【上司】「どこ拭いていたっけ?」
【谷山真心人さん】「全部拭きました」
【上司】「はい、ちゃんときれいに拭けてます。大丈夫です」
【上司】「(入社当初は)もっとギラギラしていました。最近すごくおとなしくなった」
■「ダメなことをダメと伝えてくれる」 厳しさの中にある真の優しさ
【旅館の専務 高野健一郎さん】「はい、こんばんは。お待たせしました」
この日、旅館の専務に呼び出された谷山さん。最近、遅刻が続いていました。
【谷山真心人さん】「仕事意識は…」
【旅館の専務 高野健一郎さん】「俺が求めすぎてるのか。せっかくいいことやっているのに、そんなことやってたら全部、帳消し」
【谷山真心人さん】「遅れた分、仕事で返すことは…」
【旅館の専務 高野健一郎さん】「それは、お前の中でのジャッジやから。自己中なところが、まだ抜けきっていない」
【谷山真心人さん】「それは、分かります。分かるんですけど」
【旅館の専務 高野健一郎さん】「かっこいい言葉でいえば、自己犠牲みたいなところ。他人の迷惑ってところをもっと考えられたらいい」
【谷山真心人さん】「はい」
ダメなことをダメとしっかり伝えてくれる人たちに出会えました。
■打ち込めるものを探して 格闘技への挑戦
新庄さんは仕事の世話だけでなく、生き方のヒントについても、谷山さんに伝えていたことがあります。
それは「打ち込めるものを探すこと」。
その言葉を受けて、谷山さんが見つけたのが総合格闘技です。
これまでにアマチュアの試合で4戦全勝。次、勝てば、所属する団体でプロになることができる、大事な試合が控えていました。
事件の1カ月前、骨を折りながらも試合で勝ったことを新庄さんに報告すると、冗談交じりで返答がありました。
【谷山真心人さん】「“まだ打たれ足らんのとちがうか?”とそれが最後でした。“次いつ試合あるんや?”とか、気にしてくだっていて、すごく応援してくれていました。自分のいい結果を聞いたら、笑って喜んでくれていたから、僕の実力でいけるところまでいって、その都度、新庄さんにいい報告ができれば」
■初めての敗北と受け止める現実
大切な試合の当日。ギリギリまで自分を追い込みます。
【谷山真心人さん】「ほんま勝ちたい」
得意とする蹴り技で攻める谷山さん。相手は長身を生かして、寝技に持ち込んできます。
果敢に攻めますが…。
初めての敗北。新庄さんに報告できるのは、まだ先になりました。
【谷山真心人さん】「新庄さんしかり色んな人に、社会の厳しさじゃないけど、“自分の思い通りにいかへんのが世の中”と言われそうやなと」
■奪われた命 つがれる更生への願い
5月24日、谷山さんは、新庄さんの自宅を訪れました。
面談のために、この家に通った日々は、特別な時間でした。
【谷山真心人さん】「“苦労はしているけど、何とか頑張っています”と伝えました。僕が通った場所で、同じ立場の人間に殺されたのは…すごく、歯がゆいです」
奪われた一人の保護司の命。社会を支え続けた思いを忘れません。
(関西テレビ「newsランナー」2025年5月26日放送)