中間貯蔵施設に保管されている“除染土”をめぐり、総理官邸や中央省庁などで先行的に再生利用し、全国への理解を求めることなどを盛り込んだ基本方針が策定された。
■総理官邸で先行的に再生利用へ
「除染土」をめぐり開かれた2回目の閣僚会議。会議での冒頭、林官房長官は「復興再生利用等の取り組みを、いよいよ実行に移す段階となっております。官邸での事例を創出してまいります」と発言した。
2024年度末に再生利用の基準が取りまとめられたことを受け、総理官邸や省庁で先行的に利用することなどを盛り込んだ基本方針がまとめられた。
■除染土の行方
原発事故後、福島県内の除染で出た土は、福島県大熊町・双葉町に整備された中間貯蔵施設へ。
これまでに運び込まれた東京ドーム11個分ほどのうち、約4分の1にあたる放射能濃度が比較的高いものについては、県外最終処分が法律で定められている。
一方、残りは公共工事などで再生利用する方針だが、具体的な受け入れ先は決まっていない。
政府は、総理官邸や省庁で再生利用の先行事例をつくり全国的な理解醸成を進めたい考えで、夏ごろまでに「当面の5年ですべきこと」をまとめたロードマップを作成する計画だ。
■負担を未来に残したくない 苦渋の決断
福島県外では初めてとなる除染土の再生利用の動きに、県民からは「安全第一、その辺がクリア出来ていれば。使えなかった物を新たに使えるようにするのは、コスパ的にも良いのではないか」「東京の人たちは嫌がるのではないかと思う」との声が聞かれた。
「2045年までに県外最終処分」の期限は守られるのか。中間貯蔵施設に土地を提供した住民は期待と不安を感じている。
福島県大熊町熊川地区の松永秀篤さんは、復興を前に進めるため、2013年に国に長年住んできた土地を売り渡す苦渋の決断をした。松永さんは「負の負担を未来に残したくないというのはあった。なるべく早く解消してやりたいという思いはあった」と語る。
■約束は守ってほしい
松永さんは「福島だけの問題じゃなくて、全国・日本国民の問題だと思う。だけど、それをここだけに押し付けて何もやらなかったら、本当にこと進まないから」という。
今回の政府の基本方針について、一定の進展があったと評価する一方、「約束は約束。その約束があったからこそ、手放した人もかなりいる。最低でもそれだけは守って欲しい」と話し、残り20年に迫った期限を前にスピード感のある対応を求めている。
■いまだ実証事業だけ…除染土の現状
再生利用をめぐっては、環境省は新宿御苑や埼玉県の所沢市で花壇などでの利用を検討してきたが、周辺の反対などで実現には至っておらず事業者との契約はいったん終了している。中間貯蔵施設の敷地内など、福島県内での「実証事業」のみに留まっているという状況だ。
再生利用が進まなければ、その先の「福島県外最終処分」にはほど遠いと言わざるを得ない。官邸や省庁での先行利用は場所や規模感を調整中とのことだが、全国に向けた情報発信につながることを期待したい。