2020年7月の豪雨からまもなく5年です。災害で店舗と工場を失った人吉市の老舗醤油店の店主が恩返しの思いで子ども食堂を支援する取り組みを続けています。「歌うお醤油屋さん」として知られる店主のコンサートの様子を取材しました。
人吉市下林町で来年、創業100年を迎える老舗醤油店を経営するかたわら、テノール歌手として活躍する馬場 貞至(ばば さだゆき)さんです。
〈歌う醤油屋さん〉として親しまれている馬場さんが、真新しい自身の店舗で毎月1回開く『MMBコンサート』。
『MonthlyMusicBox』の頭文字で、「月に一度の音楽の玉手箱」という意味です。
馬場さんがこのコンサートを開いたきっかけは2020年・7月豪雨。そばを流れる球磨川が氾濫し、人吉市紺屋町にあった馬場醤油店にも濁流が押し寄せ、店舗と工場は泥に漬かりました。
その後、モゾカタウンひとよし駅前店での営業再開を経て、去年の夏、自宅のあった現在の場所に新しい店舗を移転オープンしました。
被災後も仮設住宅などで慰問コンサートを行っていた馬場さん。
去年4月に、ある取り組みに出合います。
【馬場 貞至さんインタビュー】
「去年の4月、子ども食堂のチャリティーコンサートに出演して子ども食堂の存在と意義を見た。人吉に14カ所もあって、すごいんですよ。〈商売の極意〉じゃないけど、〈作ってよし、売ってよし、世間よし〉って。みなさんの好意が子ども食堂にいくのは、いいこと」
食事だけでなく、学習支援や高齢者のサロンの場も兼ねる子ども食堂の取り組みを見て、被災した自分たちを助けてくれた多くの人への恩返しにつながると子ども食堂の支援を決め、去年7月から毎月1回、再建した店舗でコンサートを開いています。
コンサートの入場料は1人につき1000円。
全額を市内に14カ所ある子ども食堂に寄付しています。
この日は11回目のコンサート。
店内は満席です。馬場さんの取り組みに賛同し、コンサートに数回出演している市民音楽家2人と妻の桂子さんも加わり、コンサートがスタートです。
1時間半に及ぶコンサートの合間の休憩では醤油屋さんならではの光景も、〈グッズ販売〉ならぬ〈醤油の販売〉です。
【来場者】
「しょうゆうことです」
休憩明けのコンサートの後半で、バイオリンを加えて歌ったのは、オペレッタ『ほほえみの国』より『君は我が心のすべて』。
会場全体に馬場さんの力強い歌声が響きます。
【観客】
「生の音楽が聴けるのが楽しくて馬場さんの歌声は心に響きます」
「温かいコンサートです。演奏して歌うみなさんのハートが温かいから…」
馬場さんは子ども食堂を運営する団体全てに寄付を行うまでコンサートを続ける予定です。
【馬場 貞至さん】
「水害で廃業しようと思ったけど、本当に(周囲から)励まされてみなさんのおかげだと思っているので、〈なんか恩返しをせんといかんな〉と思って…。
たまたま〈音楽〉という形だった」
災害を乗り越えようとする人に寄り添う醤油屋さんの歌声。
恩返しのコンサート、次回は6月28日の予定です。