■台頭するAmazon 新たな戦略で挑む「ロフト」
Amazonや楽天市場など台頭する巨大EC。
サイトに並ぶ豊富な品の中から欲しいものをタップし、手続きを踏めば自宅に商品が届く時代となった。
これらの巨大ECが出現する前、文房具、コスメ、インテリアなど「何でも欲しいものが手に入る」の代名詞だった「ロフト」。
『品数』でECに対抗することが難くなった今、新たな戦略で雑貨店の未来を描こうと、もがいている。
■35年にわたり愛された『茶屋町』の梅田ロフト
35年にわたり愛されてきた「梅田ロフト」が先月末、大阪・茶屋町に別れを告げた。
1990年、東京の「渋谷ロフト」に続く2号店として関西に初上陸。
ギフトボックスを模した店で、1階から8階までコスメや手帳、インテリアなど約20万種類の生活雑貨を販売してきた。
■茶屋町発展のきっかけ
「梅田ロフトに行けばトレンドがわかる」
若者を中心に絶大な支持を集め、茶屋町が発展するきっかけをつくった。
<大好きだよ。今までありがとう。さびしくなるね>
<いっぱいここでデートしました。ありがとう>
<学生の頃のプレゼントはいつも「ココ」でした。たくさんありがとうです>
茶屋町を去る日が近づくと、店内の特設コーナーには惜別のメッセージがあふれた。
■「青春をありがとう」客からの惜別メッセージ
<35年前高校生の私に青春をありがとう、忘れないよ>
営業最終日、ロフトのイメージカラーである黄色いカードにそう記したのは、神戸からやってきた50代の女性。
「友達と一緒によく来てました。高校生の好きなものがいっぱいあったから。寂しくなりますけど、本当に青春をもらった場所なので忘れません」と語った。
■「思いがけない出会いがあった」
目に涙を浮かべながら、店内を見渡す20代の女性もいた。
10年来の友人と仕事終わりに時間を合わせて、茶屋町での営業最終日を見届けるためにやってきたという。
【20代女性】「私たち、高校時代からの友達なんです。『遊ぼう』って言ったら『梅田ロフト』に来るというイメージだったので、しんみりしますね。ほんと順番にフロアを巡っていて楽しかったよね。お互いにここでプレゼントを選んだね」
「シールとかも、すごい種類が多いからずっと見ていて飽きなかった。『今こういうのが流行っているのかぁ』とか『これが欲しかった』っていう商品の横にまた『こっちもいいな』っていう商品があって。思いがけない出会いがありました」
「ほんとに思い出が詰まっています。私の青春が詰まったお店です。やっぱり泣きそう。今までありがとうって」
■往年の客にとって雑貨店の枠に収まらない存在
このほかにも往年の客からは、昔を懐かしむ声が数多く聞かれた。
「ロフトでウィンドウショッピングして、カプリチョーザでディナー。これが私らの時代のおしゃれデートコースよ」
「地下のテアトルでニッチなフランス映画を見て。内容頭に入ってこんけど、サブカルに浸っている感が心地よくて」
店の外「LOFT」ロゴのあたりから聞こえる梅田ロフトオリジナルの民族音楽が流れるのも最後だということで、スマホで音楽を録音する人の姿もたくさんみられた。
長年通った客にとって『梅田ロフト』は雑貨店の枠に収まらない存在だったようだ。
■客から社員に 茶屋町の発展見届ける
閉店間際まで商品の陳列にこだわっていた社員の馬場美奈子さん。
「さみしいですね、ほんと最後の日にこれだけお客さんに来て頂いて。余計にさみしさが増します」
馬場さんは35年前のオープン初日、友人と一緒に梅田ロフトを訪れた客の1人だった。
憧れの場所で1年ほどアルバイトとして勤務した後、社員となり梅田ロフトで長年働いてきた。
■「すべての体験はリアル店舗の強み」
【ロフト 馬場美奈子さん】「梅田ロフトができた後、茶屋町が変わっていって、街が成長していくところを見てきました。みんなが楽しめる街に育って行ったなぁと。母心じゃないですけど、街の成長を見れたのがすごくうれしかった」
「ECサイトもありますけど、『こんなものもあるんだ』っていう発見、友人と過ごした時間、すべての体験はリアル店舗の強みだと思うんです」
午後9時すぎ、閉店後の「梅田ロフト」を100人以上の客が取り囲んだ。
「長い間ありがとうございました」
店前にずらりと並んだスタッフが客に別れを告げると、あたりは大きな拍手で包まれた。
その後も名残惜しそうに店前に残る客。
馬場さんは、深々と頭を下げて、二度と客の前で開くことはない扉を閉めた。
ロフトは茶屋町撤退の理由について、競合他社の影響で、ピーク時と比べ、近年の売り上げが減少していることなどが要因と説明している。
■商業施設乱立の梅田 梅田の人の流れが変化
NU茶屋町、MARUZEN&ジュンク堂書店など大型の商業施設のみならず、サブカルに強い店も多数立ち並ぶ「茶屋町」だが、りそな総研の荒木主席研究員は、近年梅田に商業施設が続々と誕生する中で、茶屋町エリアを巡る誘客の環境は厳しくなっていると分析する。
【りそな総合研究所 荒木秀之研究員】「茶屋町は、少し前までは非常にファッショナブルで『オシャレなエリア』という打ち出しもありましたが、グラングリーン、KITTE大阪、イノゲート大阪など梅田の北側に新たな施設が続々と誕生したことで、梅田全体の人の流れが変わってきています」
「さらに百貨店や地下街のリニューアルもあり、客の取り合いが激しくなっています」
■浮上のポイント『独自性のある商品』&『伸びる客層の獲得』
今後ロフトが商業施設の競争激化に加えて、巨大ECに対抗するためには、何が必要なのか。
荒木主席研究員は、『独自性のある商品』の提供と『伸びる客層』をつかむことができるかどうかがカギを握ると語る。
【りそな総合研究所荒木秀之研究員】「ECも台頭する中、値段勝負ではどの業態もしんどい状況。その中で、魅力のある付加価値の高い商品を独自性をもって提供できるかが重要だと思います」
「また、梅田は関西で一番人が集まるスポットで、インバウンドを引き込める店であれば、どんどん成長しているという実績もある。品揃えを工夫し、伸びていく客層が引き込めるかがポイントになると思います」
■閉店ではなく阪神梅田本店に引越し
「茶屋町」から姿を消す「ロフト」だが、「梅田」からなくなるわけではない。
新たな移転先は「阪神梅田本店」。
■売り場面積は縮小 大阪らしい独自の空間デザイン
買い回りのしやすさを追求し、6階ワンフロアでの展開で、売り場面積は茶屋町のおよそ4割ほどに縮小する。
商人の街、大阪らしく商店街や市場の賑わいを表現した独自の空間デザインを施し、多岐にわたる催事も実施する予定だ。
■「梅田ロフトでしか買えない」商品へのこだわり
また、商品数を絞った上で、韓国初の限定コスメや、台湾で活躍するクリエイターのグッズ、大阪の地元企業とコラボした商品など「梅田ロフトでしか買えない」ラインナップを充実させる。
長年、裏方として「梅田ロフト」を支えてきた馬場さんは「新たなスタート」と語る。
【梅田ロフト 馬場美奈子さん】「店舗は狭くなるのかなと思っていたが、想像以上に広く感じる。メンバーと初めてこの売場に足を踏み入れたとき、みんな一様に『わー』という感嘆の声を上げた。新しい店舗で、これまでのお客さんにも新しいお客さんにも寄り添っていきたい」
■「茶屋町よりアクセスよくなった」と親子
5月21日のオープン前日に開かれた内覧会に招かれた親子は「茶屋町は駅から遠く、外を通らないといけなかった。この店舗は駅からすぐでアクセスも良いから嬉しい。商品はSNSで流行っている新しい物が多い」と話した。
■『ワンフロア戦略』で雑貨店の未来を描けるか
また、子連れの客は「阪神タイガースのロフト限定グッズを買いました。ワンフロアになったので、ベビーカーで回りやすくなった」と語った。
大阪・茶屋町で雑貨店の枠を超えた体験を35年間提供してきた「梅田ロフト」。
ネットでほしいものが容易に手に入る時代。
ワンフロア戦略で雑貨店の未来を描くことはできるのだろうか。
<関西テレビ経済担当 井上真一、入道楓>