鹿児島市の中心部を車と並走する路面電車。鹿児島市交通局の市電ということになります。
毎日の通勤・通学など市民の移動手段として欠かせない存在ですが、ここ最近、市電と車の接触事故が増えています。
事故を防ぐにはどうすればいいのか?
市電と車双方の目線で検証しました。
交通量が増える夕方のラッシュ時間です。
信号が青になった次の瞬間。
交差点を右折しようとした車に市電が警笛で接近を知らせます。
あわや事故につながってもおかしくない状況でした。
市電と車の事故が相次ぐ鹿児島市。
新年度を控えた2025年3月、下鶴市長からは会見でこんな呼びかけが。
鹿児島市・下鶴隆央市長
「市民の皆さんにお願いがあります。市電と車の接触事故が多発しており、軌道敷の手前で確実に停車し、右後方から接近する市電にも十分に注意するよう重ねてお願いします」
市電と車の事故の件数の推移です。
2019年度の28件から16件に減少した2020年度以降、ほぼ横ばいが続くものの、2024年度は32件に急増しました。
鹿児島市交通局の末吉健治課長も危機感をあらわにします。
鹿児島市交通局・末吉健治課長
「接触事故が多いということは非常に問題があると考えている」
今回KTSでは市電を貸し切り、どんなポイントに気をつけるべきか末吉課長に解説してもらいました。
交通局を出発してほどなくして通過するのが、中郡小学校の前。
鹿児島市交通局 電車事業課・末吉健治課長
「ここは右折禁止だが、先日ここで右折の車と衝突する事故があった」
実際の事故の映像です。
2025年1月に発生した市電と車の事故。
けが人はいませんでしたが、車は大きくへこんでしまっています。
事故直前のドライブレコーダーの静止画をみると、右折禁止にもかかわらず、車は市電が通過する直前に曲がろうとしていたことが分かります。
その後、市電は郡元電停を経由して天文館方面へ。
荒田交差点ではこんな光景が。
末吉健治課長
「今、完全に(軌道敷へ)侵入して停車している状況」
Q.どんな状況ですか?
末吉健治課長
「これが市電の通行を妨げている状態。こういった停車をやめてほしい」
道路交通法では、車は軌道敷内で路面電車の通行を妨げてはならないと定められています。
このケースでは市電が接近する前に車は右折できました。
しかし4月、別の場所で発生した事故では右折できなかった軽自動車と市電が衝突。
このとき市電はブレーキをかけたものの間に合わなかったといいます。
末吉健治課長
「(車から)市電が見えていたら市電が止まれるものと思われたりするが、車と同じように考えるとその距離では止まれないので衝突する」
市電は二中通り電停へ。
目の前の交差点では、同じ方向を走る車がルール通り軌道敷の外で右折待ちをしていました。
実は、このように並走する車が右折する時に最も事故が起きているそうです。
末吉健治課長
「(市電の)隣を走っている車の直前右折がやはり一番危ない。昨年度もほぼ、その事故だった」
別の日に撮影した映像では、右折車が軌道敷に近づきすぎて、市電が速度を落とすシーンや市電を完全に停車させる危険なケースもありました。
そんな中、交通局はある対策に乗り出しています。
末吉健治課長
「外側のゼブラの斜めの線。この中で停車するのを控えてほしい」
交通量の多い場所を中心に、2024年度6カ所で車の停止目安や注意を促す路面標示を設けたのです。
しかし、市電の経路ではこれとは別に、軌道と道路が交差点として交わる場所は67カ所もあり、ハード対策には限界がありそうです。
では市電との事故を起こさないためにドライバーは何を心がけるべきなのか。
右折待ちのポイントをJAFの担当者に聞きました。
JAF鹿児島支部・江原諒さん
「右へ寄りすぎないように注意してください。まっすぐな状態でハンドルを保ってください」
Q.どうしてか?
江原さん
「(ハンドルを)右に切った状態で停止すると、追突された場合、軌道敷内へ入る可能性がある」
軌道敷の手前で停車していると、後方の車からクラクションが。
JAFの担当者は「ルールを守っている」という自信を持つことが必要と話します。
Q.(市電は)かなり遠くにいますが
江原さん
「大丈夫です。(対向車が)途切れたら、右折を開始してください」
江原さん
「道路交通法で決まっていることなので、お互いに気をつけないといけない。安全のために自分はどういう気持ちで運転をしないといけないかということを、ドライバーの皆さんには考えながら運転をしてほしい」
街のドライバーは電車通りを運転する時にどんなことを考えているのでしょうか?
鹿児島市民
「ヒヤッとすることもあるが、市電の妨げにならないようにしている」
鹿児島市民
「お互いに意識していないとぶつかるのではと感じる。後方確認をして電車が来るのと、前方にある『電車接近中』の表示は目に入るので、それを意識して右折するようにしている」
新しい年度が始まって1カ月。
新人運転士 山口紘生さん(27)
「信号、ポイントよし!」
市交通局では新人運転士の研修が行われています。
指導員から新人に幾度となく促されるのは右折車への注意です。
指導員・南雲翔さん(35)
「(車が)曲がるかもしれないと思い、速度を落としていかないと。いつ(軌道敷に)入って来ても止まれるような速度で」
新人運転士・山口紘生さん(27)
「右折車の対応や非常時の対応がまだまだなので、車内に多くの乗客がいるので、重い責任を感じている」
2024年度相次いだ市電と車の事故。
人命やダイヤの乱れなど一度起きると影響が多方面に及ぶ可能性がある中で、2025年度の事故件数が少しでも減るよう、市電と車の双方に意識改革が求められています。