カンテレ・フジテレビ系列で月曜よる10時から放送されているドラマ「あなたを奪ったその日から」。

演出を手掛けるのは北海道出身の松木創監督。

表情の奥に隠された“嘘のない感情”を、どう演出に乗せるか。

主演・北川景子の涙、大森南朋の冷たさに込められた演技の真意とは―。

ドラマ制作の舞台裏に迫るインタビュー、後編。

「あなたを奪ったその日から」演出の松木創監督
「あなたを奪ったその日から」演出の松木創監督
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北川景子の本音の芝居を止めずに捉えるドキュメンタリー的手法

――主演の北川景子さんについて。演出として彼女にお願いしていることがあれば

「最初に衣装合わせでお会いした時に、北川さん側から『計算じゃなくて演じてみて生の感情を出したい。ドキュメンタリーっぽいイメージかな』ということを言われて共感しました。それで初日に幼稚園であのシーンを撮って、確かにそうだなと思いました。北川さんってシーンによっては泣かないと思っていましたが、演じてみると本当に感情が出てきて泣いちゃったみたいなことがあります。そのお芝居には圧倒的な力があるので、我々もそれをドキュメンタリー的に上手く撮ろうと心がけています。

カメラが1台~2台なので1回のシーンを一度では全部撮れない。なので、普段は撮影の都合でこのカメラのサイズとしてはここまででやめていただいて、カメラを動かして後半部分を撮るのですが、今回はそれをやると台無しになるという感じがしたので、とにかく生で演じてもらって、それをいかに止めずにカメラをいい位置に配置して、動かしながら撮る。

ドキュメンタリーってあるものをそのまま撮るだけなので、それに近いこところを狙う。もちろんセットアップして止まってもらいながらリハーサルはしますが、なるべくそのお芝居を止めずに、うまいところにカメラを入れたり照明を入れたり、その他の人の動きを作りながら、生っぽいところを記録しようっていうイメージです。

『ここをこうしてください』というよりは、『今ここはこういう感情ですよね』ということを確認して、お芝居に入ってもらって、それを特に北川さんの場合は逃さず記録するということを重要視しています。

私はUHBにいた頃からドキュメンタリーはずっとやってきて、今作のカメラマンも中村勘三郎さんのドキュメンタリーをずっと一緒にやってきた方なので、その辺の感覚もお互い持っているので、そこを重要にしました。

もう1つ、これは全体的なテーマで、お互いに多分同じ意見を持ち合ったような感じがしますが、これから結構日常的なシーンも増えます。犯罪とはかけ離れている家族モノみたいシーンが出てきますが、北川さんとは『常に主人公は大きな罪を犯しているということを忘れずに、罪を背負いながら生きているということが根底にありながら、日常も描いていきましょう』という話をしました。

紘海さん(北川景子)という主人公は、ダイレクトに罪を犯しているからそうですが、どんな人も何かしらどこかで嘘ついたり、誰かを傷つけたりというのはみんなが持っていることだろうから、罪の意識を持って生きているっていうことには何か普遍性があるのではということも考えながら、テーマとしては話し合った記憶があります。だから北川さんもそういう意識でおそらくやられていると思います」

撮影現場での松木創監督
撮影現場での松木創監督

大森南朋の“冷たさ”が視聴者の共感と違和感を生み出す

――大森南朋さんについて。どのような存在感を期待して演出されたのでしょうか

「このドラマは主人公が誘拐してしまうので悪いわけです。いくら自分の子が殺されたとはいえやってはいけないこと。でもそれにある程度共感してもらうためには大森さんの役が、一見冷たいというか、そこに“いいお父さん”で終始してしまうと、紘海さんの方が悪くなって共感できなくなるので、大森さんの方を“少し冷たい”、“何を考えているかわからない”、“愛情があるのかどうかわからない”みたいなキャラクター造形にすべきということでこの脚本はできています。

でもそれをやりすぎると、『子供の親なのに、そんなことしない』ということになりかねない。そこをうまく演じてもらいたいと思っていましたが、さすが大森さんはすごく上手にやっていくので、今はすごく冷たく見えるけどそれがどんどん変わっていくということがスムーズに、リアリティを損ねずにやってくれている感じがします。

視聴者の感想を見ると、“ひどいお父さん”と言っている人が多くて、そういう意味ではすごく成功しています。ただ3歳の子の父親であることも含めて、リアリティを損ねてない中で、現実にいそうな範囲でそういうギリギリのラインを攻めてもらいたいなと思っていて、そこは相談して、さすがにうまくやってくださっています。

大森さんは格好いいので、格好よく良く見えすぎると難しいと思っていましたが、“悪”みたいな部分が少しあるのではと視聴者に受け取ってもらえているので、大森さんの芝居のうまさかなっていう感じですね。

大ベテランなので、どこまで本当にこちらのお願いを聞いてくれるのかとドキドキするわけです。でもすごく軽く『できます、できます』と言ってくれて、こういう難しいシーンも技術でやってくれます。

格好いいけど冷たさも持ち合わせる大森さんは本当にいいキャスティングだったと思っています。北川さんも『大森さんしかこの役できませんでした。わたし大森さんじゃなかったらできてなかったかもしれない』と言っていました」

日常の尊さと家族つながりを通して希望を描き出す

――このドラマを通して視聴者に一番伝えたことは伝えたかったことは

「大きくは家族愛、親子の愛情や感情の繋がり。それは単純に血が繋がっていることだけではなく、日々の生活や暮らしの中で、どんな言葉を使ったとか、どのように向き合ったということが、人間と人間の愛情というか感情の繋がりみたいなことを育んでいくのではないか。

だから毎日の暮らしっていうのはすごく尊くて、大切なものであるということを伝えたい。どん底に落ちた人がどうやって這いあがっていくか、間違いも犯すけどその先にどういう救いがあるか、希望を持つべきかということをテーマにしています」

※<前編>「北川景子さん芝居が変えた演出方針」

撮影現場での松木創監督
撮影現場での松木創監督

「あなたを奪ったその日から」
毎週月曜日よる10時からカンテレ・フジテレビ系列で放送中

<あらすじ>
食品事故で子供を失った母親・中越紘海(北川景子)が、事故を起こした男の3歳の娘を誘拐し復讐を果たそうとするが、その誘拐には大きな誤算があった。わが子を失った事故の真相を追いながらも自分の犯した罪に苦しみ、葛藤し、周囲を巻き込み…それでも生きていくというサスペンスフルな親子愛の物語

松木創(まつきつくる)
北海道登別市生まれ 
1991年UHB北海道文化放送入社
2002年共同テレビジョン入社
フジテレビ「中村屋ファミリーシリーズ」
「世にも奇妙な物語」「心霊内科医 稲生知性」
東海テレビ「リカ」「嗤う淑女」ほか数々のドラマ、ドキュメンタリーを手掛ける

北海道文化放送
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