部活動の地域移行を見据え、2025年1月、長野県諏訪市に中学軟式野球チームが発足しました。総監督は、プロ野球の広島東洋カープで活躍した男性。これまでの経験を生かし、野球の楽しさと厳しさを教えています。
■中学生の新しい野球チームが発足
諏訪市で開かれた中学校の野球大会。好調なバッティングで得点を挙げるのは初出場の「オール諏訪」です。
チームは中学校の部員が不足する中、野球をしたい諏訪地域の子どもたちの受け皿にしようと社会体育クラブの形で2025年1月に発足。部活動の地域移行も見据えています。
現在は諏訪市、茅野市、下諏訪町の中学生17人で活動しています。
オール諏訪・藤森多笑さん:
「(中学校の)野球部がなくなったので、他校にたくさん友達もできて、そういう面では結構いいと思う」
真剣な眼差しで試合を見ている男性がいました。
木村一喜さん:
「1球1球に対する動きや、走塁もまだ全然できていないので、その辺をメモして」
総監督の木村一喜さん(47)です。
木村さん実は元広島カープのキャッチャー。1軍でも活躍しました。
山梨県出身で元赤ヘル選手の木村さん。なぜ、「オール諏訪」の総監督を務めているのでしょうか?
■広島カープからドラフト2位指名
小学4年から野球を始めた木村さん。高校は山梨の強豪「帝京第三高校」へ進学。
4番キャッチャーとして活躍してきました。甲子園には出場できませんでしたが、卒業後も社会人チームで野球を続け、1999年、念願のプロ入りを果たしました。広島カープからドラフト2位指名を受けたのです。
木村一喜さん:
「名前が呼ばれたときにはうれしかったですし、『よし、やろう』という気持ちになりました」
入団後は打撃も買われて1軍に定着。3年目には109試合に出場して、打率3割超えの活躍を見せました。
しかし、度重なるけがで出場機会は徐々に減少。2008年、楽天に移籍した後、現役を引退しました。
木村一喜さん:
「僕は9年いましたけど、半分はけがですね。肉離れ、骨折、いろいろやってます」
■引退後、諏訪市の居酒屋の店主に
引退後はBCリーグのコーチなどを務めましたが、2018年、諏訪市で第二の人生をスタートさせます。
居酒屋「五ヱ門(ごえもん)」の店主として働き始めたのです。
店を営んでいた伯母が2017年に他界。木村さんが引退後2年ほど店を手伝っていたこともあり、諏訪市に移り住んで店を引き継ぐことを決めました。
木村一喜さん(当時):
「(伯母の料理を)食べたいというお客さんが多かったですし、この味は僕も好きだったので、地元の人たちにずっと食べてもらいたいという気持ちがありました」
■「野球塾」開き選手の育成にも注力
プロ野球選手から居酒屋の店主へー第二の人生を歩み始めた木村さんですが、野球から離れたわけではありません。
木村一喜さん(2022年):
「軸足がグッと入ってこないと押せないじゃん、だから(バットを)当てるだけになってしまう」
週に1度ほど、神奈川県で「野球塾」を開き中学生以下を指導。次世代の選手の育成にも力を入れてきました。
■野球チームから総監督への打診
そんな木村さんに目をつけたのが諏訪地域で野球大会を運営している「諏訪市少年野球会」です。2025年1月に発足した「オール諏訪」の総監督になってほしいと打診したのです。
オール諏訪 総監督・木村一喜さん:
「子どもたちが頑張っている姿というのは、僕も勇気をもらえますし、すごく励みになるので。いろいろ経験してきた中で少しでもいいアドバイスを入れられるのであればいいかなと」
チームは主に土・日に活動。これまでの経験から木村さんは技術はもちろん、野球の楽しさや厳しさも学んでほしいと考えています。
木村さん:
「ワンバウンドも中途半端だと捕りづらい、中継が。前に行きショートバウンドで捕るのか、勢いでホームベースに投げるのか自分で判断しないといけない」
オール諏訪・星野輝流キャプテン:
「さすが元プロ野球選手という感じで(教え方は)とてもうまいです」
オール諏訪・菊池歩矢さん:
「(木村さんが)まさかオール諏訪に総監督で入ってくれるとは、うれしかったです」
オール諏訪総監督・木村一樹さん:
「こういう環境ができているというのに、まず子どもたちには感謝してもらいたいし、技術もそうですけど、やっぱり気持ちの方で負けてもらいたくないので、その辺をうまく伝えられたらと」
■初の公式戦
チームが発足して3カ月。
4月12日、初の公式戦に臨みました。3チーム総当たりの大会です。
1試合目、終盤まで試合を有利に進めていましたが、最終回、相手に一挙7点を奪われ逆転負け。
スタンドから観戦していた木村さんは。
木村さん:
「勝つとういう喜びも欲しかったんですけど、負けることによって、何が必要かというのはこれで分かったので、また子どもたちにしっかり話をして」
続く2試合目。
初回に3点を先制。その後もリードを守り続け、見事、公式戦初勝利。
オール諏訪・奥村陽斗さん:
「力まずに投げられたのでいいと思いました。制球力を高くしてチームを勝利に導きたいです」
オール諏訪・星野輝流キャプテン:
「一生懸命頑張って、みんなと力を合わせて、試合に臨むことができたので良かったです。(木村総監督は)元プロ野球選手で、僕たちにいろいろ教えてくれるので、さらに上を目指せるように頑張りたい」
■「1人でも多く甲子園目指して」
メジャーリーグの大谷選手の人気は高まる一方、子どもたちの「野球離れ」が進んでいます。
木村さんは1人でも多くの子ども達が野球の楽しさを知ってほしいと願っています。
オール諏訪 総監督・木村一喜さん:
「高校へ行き甲子園を目指す子が一人でも多くいれば僕はうれしいので、まずは子どもたちに楽しさを分かってもらい、うまくいかないことがあればその後、どうしていくかというのが、成長のひとつでもあるかなと思うので、その辺もうまくやれたらなと思います」