学校では新年度が始まっていますが、特集は少し変わった「ヘルメット登下校」。長野県内ではほとんどが東信地方の市町村だけで広がっています。いつ、なぜ始まったのか。背景を取材しました。
■登下校中かぶるのは「ヘルメット」
真新しいランドセルを背負って記念撮影。4月4日、佐久市の臼田小学校で入学式が行われました。
教室に戻ってきた新入生がロッカーから取り出したのは黄色い「ヘルメット」です。
新入生:
「でかすぎだろ!」
下校の前に全員がかぶりました。
担任:
「月曜日も元気に来てください。さようなら」
新入生:
「(かぶり心地どうですか?)ちょっと痛い」
「(ヘルメットはいつかぶる?)行くときと帰るとき」
朝の登校時間に再び学校をたずねると。
(記者リポート)
「子どもたちが歩いていますが、黄色いヘルメットをかぶって登校しています」
児童が全員、「ヘルメット」をかぶって登校していました。
■「通学途中の重大事故の防止に」
小学生の登校風景といえば、長野市などでみられる黄色い「帽子」をかぶるイメージが一般的ですが、佐久市の児童は自転車に乗っているわけでもないのに、なぜヘルメット?
佐久市生活環境課・畠山武尚さん:
「通学途中の事故や転倒の際に、頭部を守るといったことが、重大事故の防止に非常に重要なことと考えておりますので、ヘルメットの配布は現在も継続して実施している。私が小学校の時代には、ヘルメットをかぶって通学していました。もう40年近く前には始まっていたのではないかと考えています」
ヘルメット登校がいつ、なぜ始まったのか、はっきりした記録は残っていないということですが、平成17(2005)年の合併前から、少なくとも40年ほどは続いているといいます。
■主に東信地方で着用
佐久市民はー。
40代:
「(こういうものかぶって登校してたとか?)ありましたね、ヘルメットをかぶってましたね。まったくもって説明を受けた記憶がない。『こういう決まり!』って言われてました」
70代(子どもが着用):
「歩いていたってぶつかられるじゃない。交通事故にあったときは少しでも守られるっていうんで、いいのかなと納得はしてましたけど」
ほかの地域ではどうなのか、NBSが県内77市町村に取材したところ、登下校時にヘルメットを着用するルールがあるのは対象の学年などに違いはあるものの、佐久市を含めて16市町村。
このうち木曽町と上松町を除いた14カ所が東信地方の自治体と坂城町でした。
東信地方では北相木村と南相木村を除く全域で着用していて、やはりこの地方特有の慣習と言えそうです。
東信地方の住民は。
青木村出身(50代):
「(ヘルメットをかぶって登校するのはほぼ東信だけというのは?)そうなんですか!お姉ちゃん(御代田在住の孫)きょう初めて登校するとき、白いヘルメットかぶって行った」
上田市出身(40代):
「不思議には思わないですよ、全員ヘルメットなんで(笑)。珍しかったんですね、ヘルメットは。(東信独自の広がりを)へー、そうですか」
上田市民(70代・子どもが着用):
「(理由は)転倒して頭を打たないようにって。黄色い帽子をかぶって、というのはテレビとかで見たことあるけど、ヘルメットっていうのは、そうですか」
■ほかの地域の人は「ちょっと驚き」
東信では「当たり前」となっているヘルメット登校。他の地域の人は。
長野市出身:
「帽子をかぶって登校しているのが“当たり前”なんじゃないかなと思う」
長野市出身:
「よく東信に行きますけど、上田方面はみんなかぶってますよね、確かに。自転車に乗っている分には自然には見えるけど、歩いてヘルメットは違和感がありますね」
県外出身の人は。
夫(埼玉出身):
「(ヘルメットを)通学でっていうのは見たことない」
妻(茨城出身):
「徒歩でもですよね。ちょっと驚きは感じます」
■なぜ東信地方で広がった?
では、なぜ東信地方で広がったのでしょうか。
上田市では、昭和43(1968)年に新入学児童へのヘルメットの配布を始めていて、今回、記録が残っている自治体の中では最も古くから続いています。
昭和40年代は自家用車の普及が急速に広がった一方で、信号などの整備はまだ進んでいなかった時代。全国の交通事故による死者は年間1万人を超え、ピークの昭和45(1970)年は1万6765人と、2024年の6倍以上でした。
当時、登下校中の安全確保の必要性が高まるなか、東信地方では、どこかの学校でヘルメット登校が始まり、近隣の自治体に広がっていったとみられます。
佐久市出身(40代):
「(当時)30年近く前ですけど、通学路って歩道もないし、今みたいに歩道のレーンが確実に決まっていたわけでもない。道路(車道)を寄って歩いてっていうのがあったので、そこの危険性が当時はあったのかな」
佐久市生活環境課・畠山武尚さん:
「東信地域が国道を含め、かなり広い道が多いのではないかと思っていて、自動車もスピードを出して運転している車が多いこともあると思いますので、子どもたちの安全を考えて広まっているのではないかと」
■鹿児島市では噴火に備えて着用
さらに、理由はあるのでしょうか?
全国では、静岡県浜松市や茨城県牛久市などで「ヘルメット登校」の例があります。
気になるのは鹿児島市。桜島のふもとにある桜峰小学校では噴火に備えて登下校や校外学習の際にヘルメットをかぶっています。
東信地方にも活火山の浅間山があり、軽井沢町の担当者は「明確な導入の理由は分からないが、交通安全だけでなく浅間山の噴火に備えたものだと言う人もいる」としています。
■子ども議会で議題に上がったことも
ヘルメットを巡っては、こんな声も。
平成24(2012)年の佐久市子ども議会では。
小学生の質疑:
「夏は暑く、6年間同じサイズなのできついです。帽子にした方がいいと思います」
教育委員長(当時):
「これまで3年余りで小中学生の登下校中の交通事故は8件。ヘルメットをかぶっていたこともあり、軽いけがですみました。ヘルメットは皆さんの命を守るために渡しています」
■「安全に楽しい学校生活を」
新入生の保護者は。
父親:
「子どもを大事にっていう意味では、頭が一番大事ですから、ヘルメットをかぶらせているんでしょうね。でも知らなかったです、この辺だけだったんですね」
父親:
「事故とか災害とかいろいろ多いので、ちょっとでも親としては安心」
東信地方を中心に続く「ヘルメット登校」。「発祥」は、はっきりしないものの、子どもの安全を願う気持ちがヘルメットに込められていることは間違いないと言えそうです。
佐久市生活環境課・畠山武尚さん:
「黄色いヘルメットがドライバーから目立つ色となっていて、通学途中の安全に寄与していると考えている。あごひもをしっかりと締めてかぶっていただいて、安全な通学をしていただいて、楽しい学校生活を過ごしていただければ」