公共施設の老朽化問題を巡り、ある自治体が取り入れている打開策が注目されています。
今週、老朽化で使われなくなった埼玉・深谷市にある公共施設が、地元のリサイクル業者によって落札されました。
その入札方法というのが、「マイナス入札」というものです。
マイナス入札とは、建物の解体を条件に市が保有する土地を購買する一般競争入札の1つ。
実際の土地評価額から建物の解体費用を差し引いたマイナスの金額で売る、つまり、市がお金を出して土地を買ってもらうという入札方法です。
そのマイナス入札で今回落札されたのは、深谷市の公共施設「旧岡部B&G海洋センター」。
体育館やプールなどを備え、市民の運動施設として親しまれていましたが、老朽化により5年前に休館となりました。
深谷市は今回、入札予定価格を過去最大のマイナス価格となる6637万円に設定。
実際の落札額も、過去最大となるマイナス4335万円となりました。
市が4000万円余りを負担する格好ですが、深谷市公共施設改革推進室・小暮悟史さんは「購入した落札者の方が民間のノウハウを使って効率的に解体ができる。時間面的にすごくメリット。市が積算した金額よりもだいぶ安く解体ができる」と話します。
マイナス入札は2018年に深谷市が全国の自治体で初めて取り入れ、今回で5件目。
うまく再活用できているといいます。
その現場の1つ、深谷市の旧中瀬小学校体育館だった場所は、今はマイナス入札によって住宅に生まれ変わっています。
複数の住宅が立ち並ぶ場所は、かつては小学校の体育館がありました。
老朽化のため閉鎖となり、7年前にマイナス入札で購買されました。
落札者の関係者は「(落札額は)マイナス795万円。商工会の仲間で『家欲しいよね』みたいな。『土地欲しいから、みんなで落とそうよ』と」と話しました。
近隣住民からも「結婚したらみんな外に出ちゃうから。そこ(住宅)なんかは、みんな新しく来た人。人数が多くなるからいいんじゃない」と歓迎の声が聞かれました。
このマイナス入札、公共施設で進む老朽化問題の打開策として今、注目されています。
深谷市公共施設改革推進室・小暮悟史さんによると、「昨年だけでも相当な数の自治体から問い合わせが来ている」といいます。
石川県の小松市も2025年に入って、保育所の跡地をマイナス入札で公売。
建物解体後の土地利用条件を住宅地に限定し活用を目指しているということです。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト・永濱利廣氏は「地方の自治体では管理されていない公共施設の負担軽減や跡地の利用の促進がうまくいけば、税収の確保につながったりする。(マイナス入札が)これから多くの自治体に広がっていく可能性が高い」としています。