いま、農業の後継者不足が大きな課題となっている中、鹿児島県霧島市に移住した20代の夫婦が、地元の農家から農業を受け継ごうとする姿をお伝えします。

農地などを有償で譲り受ける「第三者承継」という、県内でもまだ数例しかない事例を霧島支局の徳永記者が取材しました。

3月下旬、霧島市隼人町の畑です。

農作業をしているのは、4月1日に新規就農した北川慧さん、沙恵子さん夫婦と、この地で代々農業を営んできた平原正志さん、夏美さんの夫婦です。

この二組は親子や親戚ではなく、農業をはじめたい人と農業を譲り渡したい人が登録して引き合わせる、県のマッチング事業で出会いました。

この日、平原さんが教えたのは、ショウガ栽培のための機械の扱い方や畑の整備方法でした。

農業を譲り渡す・平原正志さん
「『排水をちゃんとやりなさいよ』と何の作物にしても初めての人は分からない。経験をふんで覚えていくことだと思う」

農業を承継したい・北川慧さん
「外側はけっこう土が硬かったりするので、その前段階で土手の方までしっかりロータリーするとか、細かいところも教えてもらいながらやってます」

北川さんたちは農地や耕作機械を有償で譲り受ける「第三者承継」と呼ばれる方法で農業を引き継ごうとしています。

農家としての第一歩を踏み出した北川さん夫婦。

2人は東京と神奈川で生まれ育ち、農業とは無縁でした。

北川慧さん
「大学4年生の時に就活する中で、スーツを着て働くことを最初は考えていたが違うなという感覚があって、農業してみたいなと」

沙恵子さんは子どものころから農家にあこがれ、農大に進んだほどでした。

妻の沙恵子さん
「きっかけは、社会の授業で農業人口が減少しているという問題を数分だけ取り扱ったが、全くやったことがないのに、みんなやらないなら私がやろうみたいな気持ちで」

2人は鹿児島県志布志市の農業法人に就職後に出会い結婚。

長男の弥ちゃんの誕生を機に、農家になることを決めたものの、そこには大きな壁がありました。

沙恵子さん
「自分たちは実家が農業をやってないので何も持っていない状態。最初やるとしたらくわ1本からそろえなければならないし、お金もかなりかかってくるので」

農業機械のトラクターなどは1台が数百万円かかる場合もあり、農地や高額な機械の確保は、北川さんのような新規就農者が最初に直面する問題です。

一方、平原さんは兼業農家として、町役場の仕事と農業を続けていましたが、55歳で早期退職して高齢の父親から引き継ぎ、専業農家になりました。

今もまだ気力や体力はありますが、夫婦の親族に農業の継ぎを希望する人がいなかったため、第三者承継を決断しました。

平原さん
「先祖代々の家、土地があるから今後、我々が年を取っていけばこれをどうしようか、農業をやりたい人に受け継いだ方がこれが一番ベストなのではないかと」

平原さんは、保冷庫などの設備に加え、技術や知識、人脈など農業に関わるすべてを北川さんに託すつもりです。

平原さん
「1年間研修があって、彼らならやるんじゃないかという気持ちで、今ほっとしている。あっち(糸走地区)方面は北川農園がいるから、あの辺の農業はまとまってるよなというような。そういう風になればと思います」

平原さんが作るショウガは、父親や仲間とともに栽培技術を磨き上げてきた自信のある作物です。

この思いは北川さん夫婦にも伝わっているようでした。

北川慧さん
「一番はショウガだと思っています。ショウガで日本一目指して取り組みたいと心に秘めて、みんなから喜んでもらえるような、応援される経営をしていきたいと思ってます」

14日、北川さん夫婦は、キャベツを霧島市内のスーパーの産直コーナーに納めました。

2人とも少し照れながら名前入りのシールが付いたキャベツを並べました。

北川慧さん
「名前が載っているのでやっぱり責任感が本当にあると思います」

沙恵子さん
「おいしく食べてほしいです」

県や霧島市によると、第三者承継の成立は、霧島市では初めてで県内でも数例しかありません。

2組の夫婦は、鹿児島の農業の未来のために同じようなケースが増えてほしいと願っています。

鹿児島テレビ
鹿児島テレビ

鹿児島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。