特集は、シリーズ『熊本地震から9年』です。

益城町で進められている県道の4車線化事業によって立ち退きを余儀なくされた1軒の商店があります。店は仮設店舗を経て別の場所で再建を果たしました。

地震から9年。その店の人気商品『益城プリン』の味を地震前から支えてきた〈相棒〉との別れが待っていました。

益城町を東西に走る県道熊本高森線。

熊本地震からの創造的復興のシンボルとして、4車線の道路に広い歩道が整備されています。

益城町福富のバス停がある場所には、熊本地震の前、ある1軒の商店がありました。

明治時代創業の『岡本商店』です。

総菜や駄菓子などが並ぶ店の看板商品は手づくりの『おやつプリン』で長年、地域に愛されてきました。

しかし、9年前の熊本地震で甚大な被害を受けました。

【岡本商店 矢野 好治 さん】
「ここにオーブンがあったんですよ。ここに作業台があって、ここで作業しながらオーブンに入れて」

〈店は本震で全壊〉〈 仮設店舗で営業を再開前の店から一緒の赤いオーブン〉

【親子】「おいしい?」
【客】「甘すぎず、おいしい」「おいしい」

〈『相棒』とプリンを焼き続けた〉

【岡本商店 矢野 好治 さん】
「(2日間で)900個売れました。うれしい限りです。地域に愛された店だったと感じた」

『岡本商店』があった場所は、地震からの創造的復興の一環として熊本県が県道を4車線化することになりました。

移転を余儀なくされた矢野さん。

悩み抜いた末に、同じ益城町の木山に店を構えることにしました。

熊本地震から4年半。

新しい『岡本商店』の厨房にも矢野さんの相棒『赤いオーブン』の姿がありました。

新しい店舗では、相棒と一緒に新商品の開発したり、近くでの祭りに合わせてプリンを焼いたりと、忙しい日々を過ごしました。

しかし、去年の末ごろから赤いオーブンの調子が悪くなり、プリンの出来にむらが出るようになりました。

使い続けて13年。

故障かと業者に見てもらっても大きな異常は見つかりませんでした。

【岡本商店 矢野 好治 さん】
「仮設店舗のときにいろんな人にプリンを買ってもらい、作りこなせないぐらいフル稼働していて、仮設の店舗に泊まって仮眠して焼き続けた時期もあった。いろんな思い出がこのオーブンにありすぎて、正直に言うとずっと使い続けたい思いはある」

看板商品の『益城プリン』はいまや店頭や移動販売だけでなく、県内5店舗にも卸す人気商品です。

〈急な故障で、扱いがある店に迷惑をかけられない〉と、矢野さんはオーブンを買い替えることを決めました。

購入予定の新しいオーブンでプリンを試作した矢野さん。

【岡本商店 矢野 好治 さん】
「おいしいです」

そう答えた矢野さんの表情はどこか納得がいかない様子。牛乳や卵など、材料の分量は何も変えず、オーブンの温度や時間もこれまで通りです。

新しいオーブンで出来上がったプリンは、レストランのデザートのようななめらかな舌触りに仕上がっています。

【岡本商店 矢野 好治 さん】
「どうしても赤いオーブンで作ってきて、益城プリンの味をもう一度、見つめ直したときに、〈ちょっと違うな〉と」

矢野さんが求めていたのは、相棒と13年間作ってきた懐かしい家庭の『おやつ』の味でした。

3月28日、新しいオーブンが店にやってきてからも試行錯誤は続きます。

【岡本商店 矢野 好治 さん】
「何回も『こうじゃない』『ああじゃない』と繰り返し、温度や時間、スチームの量を細かく調整して全部、メモして微妙に変えながら1週間、試作した」

そして4月7日、ようやく矢野さんが納得いく味の『益城プリン』が出来上がりました。

最後にチェックするのは、これまで『益城プリン』を食べてきた妻・祐子さんと娘・百恵さんです。

【岡本商店 矢野 好治 さん】
「新しいオーブンで作った『益城プリン』です。ちょっとドキドキするけど、よかったら味見を。2人の意見が聞きたい」

【矢野 百恵 さん・裕子 さんとのやりとり】
「変わらん、おいしい」「変わらない」「変わらない?大丈夫?よかった…」

熊本地震を乗り越え、仮設店舗での苦楽を共にしてきた赤いオーブン。

相棒との『味』と『思い出』を引き継いで、きょうも『益城プリン』はみんなを笑顔にする味に仕上がっています。

これまで矢野さんと一緒に『益城プリン』を作ってきた相棒の赤いオーブンですが、扉の部分が店頭に飾られているということです。

テレビ熊本
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