【尾谷いずみアナウンサー】
浅尾大臣は水俣入りする前に「少しでも前進させたい」と話していましたが、前に進んだ様子はありましたか。

【寺田菜々海アナウンサー】
いえ、全くそのような印象は受けませんでした。
懇談に参加した団体からも「ゼロ回答だ」と厳しい声が聞かれています。

私は去年も現場で取材しましたが去年は8つの被害者団体合同の懇談の場は約40分間。
スケジュールをこなすために大臣はとにかく足早に去っていった印象でした。
一方で、今年は2日間で8つの団体合わせて約5時間懇談の場が設けられ、これに加えて施設の訪問なども行われました。
単純に比較すれば話を聞いた時間は長くなりましたが、団体側から「ただ話を聞き置くだけ」と批判されているように、残念ながら中身のある議論とは言い難いものでした。

去年10月の就任後、初めて水俣を訪れた浅尾大臣は「対話が大事だと思っている」との発言を繰り返す一方で、懇談の場では会話がかみ合わない場面が多くみられました。

また、去年の「マイクオフ問題」について認識の甘さを露呈するこんなやり取りもありました。

【水俣病被害者の会 中山裕二事務局長】
「環境省はマイクを切るというシナリオを用意していた。このマイクを切るシナリオがなぜできたのかを聞いている」

【浅尾環境相】
「なぜマイクを…シナリオを用意していたというふうには私は認識していないが…」

【水俣病被害者の会 中山裕二事務局長】
「え!それは嘘だ」

【浅尾環境相】
「シナリオがもしあるとすれば…」

【水俣病被害者の会 中山裕二事務局長】
「『あるとすれば』という生易しい話ではない。
シナリオを私たちも持っている。そこには『3分を超えたらマイクを切る』と冒頭の司会のあいさつで言うことになっていた。(環境省の職員は)シナリオのことを大臣に伝えていないのか?」

【環境省大臣官房審議官 中尾豊さん】
「時間がたったところでマイクを切るという運用のシナリオが数年前からあったのは事実。あくまでも担当の特殊疾病対策室の中でやっていたことで、幹部には共有されていなかった」

【懇談後の会見】
【浅尾環境相】
「シナリオがあったということを認識していなかったのは事実だが、再発防止に努めている」

「マイクオフ問題」をめぐっては環境省は1年前の懇談後、シナリオの存在を認め、     公表していて、TKUでも報道しています。
懇談に出席した団体側からは今回の大臣の発言について、「そんなことも把握せずに
水俣に来たのか」と失望や批判の声が聞かれました。

このほか議論のポイントとなったのは、公健法に基づく患者認定制度の見直しと特措法で定められた不知火海沿岸住民への健康調査についてです。
特に健康調査については国は脳磁計とMRIを使った検査手法の開発を進めていて、今年度、先行的な調査に入るとしていますが、団体側はこの検査手法には10年以上前から反対していて、意見が食い違っています。

公健法に基づく水俣病の認定患者は熊本・鹿児島両県で合わせて2284人。
(熊本県 1791人/鹿児島県 493人 このうち2073人が他界)
認定申請して処分を待っている人は1271人に上ります。
(熊本県 257人/鹿児島県 1014人)
一方で多くの未認定患者が、補償や救済を求めて全国各地で裁判を続けています。

また、2つの政府解決策で「未認定患者」として一定の「救済」を受けたものの補償が十分とは言えず、苦しみ続けている人も多くいます。
2日間取材して胸が痛くなるような意見をたくさん聞きましたが、なかでも「患者に罪はない。ただ生きるために魚を食べていただけなんです」というある方の声が忘れられません。
来年は水俣病の公式確認から70年を迎えます。
年齢とともに痛みが増している、という切実な声も多く聞かれます。
話を聞き置く、という形式的なものではなく、いかに信頼関係を築いて実のある協議を進めていけるか、環境省や熊本県の対応が求められています。

テレビ熊本
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