地下鉄・大阪メトロの駅。ホームにポツンと置かれた白い箱。

温度や湿度を測る「百葉箱」だ。
実は3月12日で大阪メトロの全ての駅から、「百葉箱」がなくなった。
なぜなくなってしまったのか?どうしてメトロのホームに百葉箱があるのか?知られざる事実を取材した。

■ホームに設置された「百葉箱」撤去
片平敦気象予報士:大阪メトロ淀屋橋駅です。ホームに設置される百葉箱が、いよいよ撤去されるということで、今回特別に見せていただくことになりました。
片平さんが、大阪メトロの担当者に案内されて向かったのは淀屋橋駅のホーム。
ホームの片隅にあったのは、ところどころ塗装が剥げ、年季が入った白い箱。気温や湿度を測る「百葉箱」だ。
およそ90年前に、大阪メトロで初めて設置された。

■休日に“百葉箱巡り”するほど片平さんは百葉箱好き
片平さんが、百葉箱の写真を色んな角度から何枚も撮影している。
片平敦気象予報士:普段じっくりと見ちゃうと不審者なので、きょうは堂々と見られる。
テンションマックスの片平さん。実は休日になると全国各地に出向いて“百葉箱巡り”をするほど好きなのだそうだ。
片平さんにとって百葉箱とは…。
片平敦気象予報士:ここで気象観測、天気予報の第一歩が行われていると興奮する。“会いにいける身近なアイドル”かわいくてめでたくなる、なでたくなる。屋根がついていて、ちいちゃなお家みたいな感じで。中に何があるかなって開けてみると、うわ~温度計がいたってなる。

■地下鉄の利用客にはなじみが薄く…「知らなかった」
ホームの百葉箱の中にあったのは、小さなデジタル温湿度計。大阪メトロの職員が4カ月に1回程度、記録している。
片平敦気象予報士:こんな風になっているんですね。割と広い空間に小さいのがポツンと乗っている。
大阪メトロでは多い時には、21もの駅に設置されていた「百葉箱」。
しかし、利用客にとってはなじみが薄いようで…。
利用客:百葉箱ですか。外にあるのしか見たことない。小学校ぶりに見ました。
利用客:知らなかった、何これ。地下鉄の温度とか管理してるの?へえ~。

■なぜ地下鉄の駅に百葉箱が?
小学校で見たことがある人もいるかもしれないが、一体なぜ、百葉箱が地下鉄の駅にあるのだろうか。
大阪メトロ広報戦略部 角野功さん:(御堂筋線が)淀屋橋に開通した翌年の1934年に設置された。地下なので開業当初は夏は涼しく、冬は暖かかったが、人がたくさん増えてきて、電車から熱も出て、運行頻度が上がったらどういう影響が出るのか気にしていた。

地下鉄が開業した当時、駅に冷暖房の設備がなかったため、乗客が快適に感じる温度や湿度を調べることにしたという。
列車が通る時に吹く「列車風」の影響を受けやすいホームで測定するには、風の侵入を防ぎ、正確に測ることができる「百葉箱」が最適だった。
当時の新聞を見ると「空気の快適なこと ご覧の通り 世界一」
百葉箱で得た情報から、効果的に換気ができていたことが分かる。
大阪メトロ広報戦略部 角野功さん:根底にあるのは、お客さまへのサービスです。地下鉄の利用時間は他の鉄道より短いですけど、その短い時間でも快適にすごしていただければという思いです。

■90年間の記録は大阪市公文書館に保管
90年間の記録、今はどうなっているのか。大阪市公文書館を訪ねてみると…。
大阪市公文書館 八ヶ代美佳調査員:大阪市公文書館で保存している百葉箱の資料になります。
膨大な量の測定データがあった。細かく刻まれた90年分の温度と湿度の変化。「快適な駅にしたい」という一心で、職員たちが積み重ねてきた記録だ。
時代は変わり、温度などは天井に取り付けたセンサーで、リアルタイムで測定できるようになった。

■「ありがとう」地下鉄の快適な環境は「百葉箱」のおかげだった
百葉箱は役目を終え、大阪メトロの全ての駅で引退することになった。
片平敦気象予報士:ありがとう、寂しいな。急に寂しくなってきました。
そしてついに淀屋橋の百葉箱にも別れの日が。終電後のホームで始まった撤去工事。
大阪メトロの社員が見守る中、およそ90年の役目を終えた。
90年間、ポツンと駅の様子を見守ってきた「百葉箱」。
暑い日も寒い日も地下鉄の駅で快適な環境が保たれていたのは、「百葉箱」のおかげだったのかもしれない。
(関西テレビ「newsランナー」2025年3月12日放送)
