2月26日に発生した山林火災で、岩手県大船渡市の綾里漁業協同組合では、定置網などを保管していた倉庫が焼け、被害は10億円に上る見通しです。
その一方、漁師たちは3月13日、ワカメの水揚げに向けて焼けた流木の撤去を行いました。

大船渡市の綾里漁港はワカメの養殖や定置網漁が盛んな地域です。
海からほど近い陸地へと目を向けると、焼けた建物など至るところに火事の被害が確認できます。

2月26日に大船渡市で発生し約2900ヘクタールを焼いた山林火災。
綾里漁港がある港地区では住宅や倉庫などを含め42棟の建物被害が確認されていて、3月7日に空から撮影した映像でも火事の爪痕がはっきりと見られました。

港には綾里漁協組合の倉庫もあり、定置網4セットなど漁業に欠かせない道具が保管されていましたが、山林火災で全て焼失しました。

綾里漁協理事の亘理孝一さん(71)は「複雑だね。なんでこんな思いをしなければならないのか。やるせないね…」と肩を落としました。

焼失した定置網などの被害額は総額で約10億円、新たに購入して再び網を設置するまでには、納期も含めて1年はかかると見込んでいます。

綾里漁協理事・亘理孝一さん
「家も焼かれ、倉庫も焼かれ、資材なども全部燃えてしまった人たちは、水揚げするとなっても到底無理だと。共済で対応してもらえないかという要望が強くあった」

亘理さんによりますと、漁協では12日に組合員らが集まり今後の漁業について話し合いを実施。
その結果、定置網を新たに購入することや避難指示により開始時期がずれ込んでいた養殖ワカメの水揚げを早急に行うなどの方針がまとまったということです。

今後の見通しが示された一方、悲観的な発言もあったと亘理さんは言います。

綾里漁協理事・亘理孝一さん
「この現状のでは、生産意欲もないし働く意欲もないから『廃業』という言葉が出た人も何人かあった。それでも『みんなで支援するから頑張ってやりましょう』とは言ったけど、(廃業したい)気持ちにはなると思う」

漁師の大平秀男さん(56)は、漁協の会合で今後の方針が固まったことを受け、12日はワカメの水揚げの準備を急ピッチで進めていました。

漁師・大平秀男さん
「いつもなら2月の末10日間くらい準備をしてワカメ刈りが始まるけど、今回は急きょパッと出して(船を)すぐ操業という形になる」

そして13日朝、大平さんはワカメの状態を確認するため綾里漁港を出発。
養殖棚へ向かう途中にも焼けた山肌など爪痕が目に入ります。

漁師・大平秀男さん
「綾里崎灯台(のある半島の)先端まで火が来た」

あわせて3キロの範囲に広がる養殖棚に到着すると、大平さんはワカメを手に取りじっくりと見つめます。気にかけていた生育状態については、「いい感じ」とほっとした様子を見せました。

一方、港に戻ると山林火災の影響で普段は水揚げされないものが船に載せられていました。5m以上はあるかと思われる大きな流木が回収され港に上がりました。

山林で焼けて海に落ちた流木が養殖棚に触れると、ワカメが落ちたり傷ついたりするおそれがあるため漁業関係者らが回収していたのです。

漁師・大平秀男さん
「自分の養殖棚にあった木です」

焼け焦げた大きな流木、山林火災の火の勢いを物語っています。
大平さんは海に出られなかった約2週間をこう振り返ります。

漁師・大平秀男さん
「(海に)出られない、何もできない、ただ待つしかない状態だったのでモヤモヤしていたけど、これで生計を立てているので、もうやるしかない」

大平さんは15日にワカメの水揚げをする予定です。

先行きが明確に見通せない中、漁業関係者たちは地域の水産業を守るため覚悟を持って海に出ています。

岩手めんこいテレビ
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