2024年の震災で家と仕事を失った男性がいる。そんな彼の信条は「ネバーギブアップ」。再起にかける思いを石川テレビの稲垣真一アナウンサーが聞いた。
焚き火で過ごした夜
稲垣アナ:石川県輪島市の朝市通り周辺に来ています。吹きつける冬の海風が頬を切り裂くほどの冷たさです。そして、鉛色の空が1年経っても厳しい状況に置かれている能登人の状況、心境を表しているようです。あれほどあったがれきも解体が進み、今は更地になっています。こちらに住んでいたある男性は年末、空き地が増えていく度、心にぽっかり穴が開くようだと話してくれました。新しい年になり、2025年はどんな1年を目指すのか、改めてお話を聞きます
橋爪和夫さんは、震災で家と仕事を失った。取材を通し、面識のあった橋爪さんと地震後再会したのは、2024年1月、輪島市役所で罹災証明書を受け取りに来ていた時だった。

橋爪さん:私の方に『朝市の全焼した一画は調査しないで出します』という連絡があったので来たんです
朝市通りの近くに住んでいた橋爪さんの家は全焼。実は、家が燃えているその時橋爪さんがいたのは、仕事場だった。
稲垣アナ(ヘリリポート):駐車場に何台も置いてあるのは、皆さんこの車を置いて山を降りて、避難をしていったからです

孤立状態になったのと里山海道の別所岳サービスエリア。橋爪さんはここにある物販店の店長だ。地震発生直後から多くの客とこの場所で過ごした。あれから1年。暮れも押し迫った2024年12月20日、別所岳サービスエリアで橋爪さんに2024年元日の様子を改めて伺った。

橋爪さん:元日は帰省客などで、お客さんが満員でした。私もレジにいましてお客さんと話をしていて、『今年は天気が良かったですね』というところにドーンと1発目が来て『とりあえずここに集まってください』と。とにかく集まってくださいと、食べ物もあるし今日のところはそれを食べましょうと。夜になって寒くなったので、焚き火をしたんです。黒いのが焚き火の跡です。歩いて来られた人もいるので、寒くないようにということでやったんです

稲垣アナ:焚き火の燃料は何だったんですか?
橋爪さん:店の中の棚とかも全部引きずり出して、それを燃やしたんですよ。とにかく今日は、ここでみんな無事に過ごして、明日とにかくここに残るのも自由だし、てんでに歩いてどこかの避難所まで行くっていう。これしかないんで。今はもう『現実にあったことなんかな』みたいな。白日夢みたいなね
店の再開を目指して
店は再開できていないが、橋爪さんはあの日を共に乗り切った従業員のモチベーションを落としたくないと、休業中にもかかわらず給料を支払っている。助成金を活用しても足りない2割は借り入れをしているという。橋爪さんは、マリンタウンに整備された仮設住宅に2024年2月から住んでいる。

稲垣アナ:橋爪さんにとってどんな1年でしたか?
橋爪さん:『もう1年』なのか、『まだ1年』というのか…正直、日ごと違うんですよ。朝市の辺りなんかも、更地になってきれいになってしまった。あれを見ると、確かに進んでるんだろうと思うんですけど、反面ふと我に帰った時に空き地がいっぱい広がってくることによって、だんだん『心の隙間』が増えてくるわけですよ。なんていうか、現実に帰って『自分たちの街はどうなっていくんだろう』みたいなね。そう思った時に、1年が早いか短かったかって、その見方によって変わってくるんですよね
仕事と家を失った今、店の再開が未来の光だ。
橋爪さん:あの元日の大変なところを乗り切った仲間は、やっぱりこれからも良くなった別所岳で働こうよという気持ちがあります。これよく冗談で言うんですけど『売り上げあげる前に値(音)を上げるわけにはいかない』と。やっぱり売り上げをあげて、お客さんに喜んでもらってなんぼの世界なんで、売り上げをあげる前から音を上げていたんじゃ、これ違うだろうということで
仲間たちと目指す復興の姿
思いは現実に近づいている。店の再開目標を6月に設定し、動き出したのだ。橋爪さんは、時折戦友でもある従業員の元に顔を出す。
従業員の山本真司さん:やっぱりあっという間だったかな…と思って
稲垣アナ:復活した時は、どんなお店にしたいなと思ってますか
山本さん:地震の被害を感じさせないような、そういういつも通りの雰囲気で接していければと思ってます

年が明けて2025年1月9日、私は再び橋爪さんの元を訪ねた。
稲垣アナ:前にお話を伺った時は、ここの光景が変わっていくことに、日ごとによって感情が変わるって仰ってたじゃないですか。改めて今、ここに来てみてどうですか?
橋爪さん:正直、ここだけで9人ぐらい、私知り合いが亡くなってるんですよね。家族を亡くされた方とは同じ思いというわけにはいかないでしょうけども、私たちみたいに残った人間が、やはりそれなりにできることを一生懸命考えてやっていく。そうすると本当の意味での『心の復興を伴った街の復興』になると思うんで、やっぱりそれを目指していきたいなというのを思っているんですよね

稲垣アナ:6月に店を再開させたいという話がありましたけど、具体的にそこに向けて今どんなような感じで動いていたりするんですか
橋爪さん:今ちょっとバッテリーを持ってきまして、内部の機器とかがつながるかとかやってみたんですね。機器が動くことが分かったので、とりあえず私どもとしてはまだ本当にインフラはまだ復旧できてないですけども、今は全然何もわからない状態からちょっと明かりが見えてきたかなっていう、すごく心強い感じになった気分です。だから、今まで全然雲で見えなかった状態が、ちょっと晴れが見えてきたかな
稲垣アナ:2025年はどんな1年にしていきたいですか?
橋爪さん:やっぱり復活したよってことをね。もう一回見せてあげたいなと、そういう気分になってます。元日のお客さんとは『お互いに元気でよかったね』って話をしたいなと思ってます
稲垣アナ:復活と再生の瞬間を私もぜひ見届けたいなと思いますので、またお願いします
橋爪さんと会うと、彼は常に笑顔で目が輝いている。まだ電気も水もきていない状況だが、テストで機器類が動いたことを本当に嬉しそうに話してくれたのが印象的だった。
(石川テレビ)