2024年6月の食品衛生法の改正で産直の人気商品である手作りの漬物が売り場から減っている。
こうした中、地域に受け継がれてきた漬物の味を次の世代へつなごうという取り組みが岩手県雫石町で始まった。
食事の箸休めやお茶受け、はたまたお酒のつまみなど、私たちの食事に欠かせない漬物。これまで気軽に味わってきたが、その製造販売方法が大きく変わった。
食品衛生法の改正により、2024年の6月以降、厳しい衛生基準を満たさなければ販売できなくなったのだ。
地域ならではの味が楽しめる手作りの漬物は、道の駅や産直の人気商品だった。しかし、新しい基準をクリアするためには設備の導入が必要で、農家などの生産者にとって大きな負担となり販売をやめる人も出てきた。
ある地域住民は「道の駅に行っても(漬物が売り場に)出ていない。売るための漬物は個人で作れなくなった。うちらの年代はご飯を食べる時は漬物がないとダメ」と嘆く。
地域に伝わる漬物の味・食文化を守りたい。そんな願いを込めた施設が雫石町に誕生した。
「駅ナカ漬物工房SHIGORO」は、漬物の製造・販売に関する設備と環境を整えた施設だ。
施設を運営する渡辺和義さんは、町内で食品分野を中心としたコンサルティング事業などを手がけており、漬物づくりについても相談を受けていた。
渡辺さんは工房を開設した経緯について次のように語った。
渡辺和義さん
「これまで自宅の納屋などで作っていた地域のお母さんが、新しく工房を立ち上げる必要がでてきたタイミングで不安に思い、これを機にやめようという方が多かった。それをなんとか守ってつないでいきたいと思い、立ち上げた」
現在、工房は2025年4月からの本格稼働に向けて、農家などの利用者がモニターとして設備の試験運用を続けている。
あるモニターの農家は、「本業は農家で野菜を作っている。余るとか販売できないとか残った野菜があると、なんとかそれ売れないかと思い(以前は)お菓子にしたり漬け物にして売っていた。建物を作って内装設備し許可取ってと、年取るとラベルシール作るのも面倒くさい。工房にはいろんな物がそろっているから材料だけ持ち込めばいいのでありがたい」と、工房の利便性を高く評価している。
工房には、温度表示がついた大型冷蔵庫や指で触れない自動式の蛇口、材料と調理器具をそれぞれ分けた流し台など、法改正で義務化されたポイントをクリアする設備が整っている。
渡辺さんは「この場所を貸しながら、後は今後どうするかを一緒に考えたい。今までなら辞めるか続けるかの二択しかなかった。地域のお母さんの心根みたいなものを次につないでいく」と、工房の役割を説明する。
本格稼働の準備をする中、オリジナルブランドの漬物「OGOGO(オゴゴ)」などの開発も進めている。
「ここは駅の中なので、車の免許がない方でも来やすい」と食品衛生責任者でもある渡辺美映子さんは工房の利点を語る。
実際に漬物作りを体験してみると、味付けは塩・ザラメ・酢、そして唐辛子を少々と至ってシンプル。材料の2~3倍の重さの石を乗せて漬け込む。10日間から2週間ほど漬かるまでかかるが、出来上がった漬物は「ポリポリとして歯ごたえが良く酸味があり、唐辛子がいいアクセントになっていて、全体的に味がしっかりまとまっている」まさに伝統の味わいだ。
渡辺和義さんは、工房の目指す姿についてこう語る。
渡辺和義さん
「この場所は雫石駅の中にあるが、この場を通じて漬物の未来を考えていきたい。地域・家庭の味があると思うが、それが年々衰退・忘れられていく中で、これをつなぐため地域のお母さんに来てもらったり、みんなで作る場という形で、地域全体で盛り上げていきたい」
「駅ナカ漬物工房SHIGORO」は、食品衛生に関する支援のほか、伝統の味を残せるようレシピの伝承にも取り組む予定だ。
地域の大切な食文化を守る取り組みとして、今後の活動が期待されている。