地震で被災した輪島高校で先週、文化祭が開かれた。輪島高校には、地震の後転校や避難先からリモートでの授業を余儀なくされる生徒も多数いる。地震の爪痕が色濃く残り、校舎の一部がいまだ使えない中、様々な思いを抱えながら輪島高校で過ごす最後の夏を楽しもうとする3年生たちに密着した。

9月3日、文化祭当日。輪島高校ににぎやかな声が響く。

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「皆さん今年地震あって大変でしたけど大丈夫でしたか!みなさん。元気出して頑張っていきましょう!」
輪島高校の校舎にはいまだに地震の爪痕がある。それでも、置かれた環境で精一杯楽しもうとする生徒たちの姿があった。

各々のおかれた環境で文化祭へ向けて準備する生徒たち

7月。輪島高校3年生の教室では文化祭に向けた打合せが行われていた。受験や就職を控える生徒たちにとって、文化祭はクラス全体で思い出を作る貴重な時間だ。自由に意見を出し合い、とても楽し気な様子である。

ただ、みんなが同じ思いでいられるわけではなかった。

「なんも聞こえん…」

そう呟くのは、パソコンの画面越しに打ち合わせに参加していた、浅野彩夏さん。浅野さんがいるのは輪島高校から約100キロ離れた内灘高校だ。家族と金沢に2次避難しているため、授業も友達との会話も画面越しを余儀なくされている。浅野さんに正直な気持ちを聞くと「楽しくない、混ざりたい」と答えた。

輪島高校では地震の後、約50人が転校。浅野さんのようにリモート授業を余儀なくされている人が、7月末時点で約20人いた。

輪島市から避難し、内灘高校から画面越しの学校生活を余儀なくされる生徒たち。
輪島市から避難し、内灘高校から画面越しの学校生活を余儀なくされる生徒たち。

校舎も、元通りとはほど遠い状況だ。平野校長に校舎内を案内してもらった。

やって来たのは体育などで使われていた体育館。一見変わったところがないように見えるが、その床には大きな傾斜がある。試しにバスケットボールを壁のそばに置いてみると、体育館中央に向かって転がっていってしまった。

「だいぶ傾いていますね」カメラマンがその様子をみてつぶやくと、平野校長は深くうなずいて言った。

平野校長に傾いた体育館を案内していただいた。
平野校長に傾いた体育館を案内していただいた。

平野敏校長:
そうなんですよね。だから映像で映っているよりもかなり傾いています。立っていると気持ち悪くなるくらいですよね。

このように、輪島市街と同様に地震の爪痕が色濃く残る校舎ではあるが、基礎調査を行いなんとか授業を続けてきた。

和太鼓部が文化祭で叩く「輪島大祭」

夏休みの8月20日、音楽室にいたのは和太鼓部だ。彼らがいつも練習していた柔道場は避難所として使われているため、全員が一斉に練習できる場所が無く、教室を分けて練習している。

「勉強しているクラスもあるので叩けない人とかも結構あるので、そこはちょっと困っているというか狭いので音楽室も。やりにくい状況ではあります」
そう語るのは、3年生の川端光太朗さん。

地元の和太鼓チームに5歳から入っていて、部員の指導役も務めている。和太鼓部は文化祭で生徒たちに向けて演奏を披露する。

文化祭で演奏するのは「輪島大祭」祭りをテーマにした曲だ。

生徒らの暮らしも大きく変わり、地震後には部員も減ってしまった。

「前は12、3人いたんですけど、地震あって転校しちゃったり練習できない感じで、なんとか集めて9人」川端さんはそう語る。部員が減ってしまった影響で、これまで担当したことがないパートを演奏する部員もいる。「いろんなパートで叩くから周りの音聞いて集中せんと!へたくそばれるぞ」川端さんの指導にも熱が入る。部員もその指導を受け精一杯練習していた。

川端光太郎さん:
人数は減っちゃって迫力とか音の大きさはだいぶ落ちたと思うんですけど、でもこの人数でもこんだけできるっていうことを見せたいです。特に見てもらいたいのは、やっぱり、和太鼓部を続けたくても続けられなかった人たちに伝えたいかな。

地震でいつもとは違う文化祭も…大盛況

例年イベントで利用していた輪島市文化会館が被災。 視聴覚室で演奏を披露する和太鼓部
例年イベントで利用していた輪島市文化会館が被災。 視聴覚室で演奏を披露する和太鼓部
視聴覚室に入りきらず外から演奏を聴く生徒たち
視聴覚室に入りきらず外から演奏を聴く生徒たち

文化祭当日、和太鼓部は視聴覚室で演奏を披露した。会場は満員で、窓の外から声援を送る生徒もいるほど。川端さんをはじめ和太鼓部の面々は、目や息を合わせながらこれまでの練習の成果を発揮し、この日このメンバーでの最後の演奏が終わった。

目くばせをしながら1つの太鼓を2人で演奏する川端さん
目くばせをしながら1つの太鼓を2人で演奏する川端さん
「サー!」という和太鼓部員らの声の後に、生徒らの大きな拍手が視聴覚室に響いた。
「サー!」という和太鼓部員らの声の後に、生徒らの大きな拍手が視聴覚室に響いた。

文化祭の後、和太鼓部3年生を含めた最後のミーティングが行われる。橋元幸弥顧問は「コロナの年、震災、全部乗り越えてここまできました」と多くの困難を乗り越えて、演奏を披露した和太鼓部員らの健闘をたたえた。生徒ながら指導役も担っていた川端さんは、練習の日々と文化祭での演奏を振り返り語る。

川端さん:
このメンバーでできたのも何かの縁だと思うので、このメンバーでできたことに感謝します。おつかれさまでした!

平野校長は文化祭を楽しむ生徒らを写真に収めながら、「本当に工夫を凝らしてやってくれてます。きっとこの子らが次の新しい時代を作っていくんだなって」と笑顔を浮かべた。

文化祭の準備期間、輪島高校には友人たちと楽しげに過ごす、内灘高校でリモート授業を受けていた浅野彩夏さんの姿があった。浅野さんら家族は、7月末に仮設住宅に入居でき、ようやく輪島に戻ってくることができた。

記者が学校はどうかと尋ねると、「楽しいです!」と答える。

浅野彩夏さん:
みんなの顔見たら安心する。地震の前は、当たり前に会ってたのであまり感じませんでした。

文化祭で友人と一緒にクッキーを売る浅野さん
文化祭で友人と一緒にクッキーを売る浅野さん

これから卒業までの半年間は友達と一緒です。文化祭をどう楽しみたいか記者が浅野さんに尋ねると、彼女は友人と笑顔で答えた。「とりあえず騒いだり、青春!青春て感じです!」

(石川テレビ)

石川テレビ
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