能登半島地震で被災した七尾市に8月、仮設の商店街がオープンした。オープンしたのは4つの店。その1つ、七尾市が舞台の漫画「君は放課後インソムニア」に登場する喫茶店「中央茶廊」のオープンまでを追った。
『君ソム』にも登場の中央茶廊が再出発
この記事の画像(18枚)真剣なまなざしでコーヒーを淹れるのは、喫茶店「中央茶廊」の店主、窪丈雄さん。窪さんが立っているのは2024年8月、七尾市に完成した仮設店舗だ。地震から7カ月あまり、ようやくここまで来ることができた。
全壊の店舗…仮設商店街に出店を決意
七尾の街で70年以上、地元の人たちに愛されてきた喫茶店「中央茶廊」。元日の地震で天井が歪み、あちらこちらに亀裂が入るなど全壊扱いになった。
「奥に置いてあったでっかいテーブルを持っていくか、二つ持っていくか?イメージで言ったらここにテーブルを置いてここに扉を付ける」7月18日、この日、窪さんは仮設店舗の打合せをしていた。母から受け継いだ店を取り壊して同じ場所で再建するため、一旦、仮設商店街に出店することを決めた。
仮設店舗の建設が進むと言うことは、解体も近づいていると言うこと。窪さんは「寂しさは当然あるが、形あるものは壊れる」と気丈だ。地震の発生以降、今後の生活や店の再建について次々と難しい判断を迫られる中で、窪さんが後ろをむくことは一度もなかった。
その理由が…
窪さん:
「4年前に白血病が見つかった。今の地震は、無いに越したことはないけど、その時に比べれば私にとっては大したことない」
さらに窪さんは、福島県から来た人に、「何人か被災した人に会ったけどお前が一番明るかった」と言われたそうだ。
一番最初に仮設店舗に持っていくのは焙煎機。店が全壊する中でも、無傷で残っていてくれた、まさに窪さんの相棒だ。窪さんは「7カ月経ってようやく焙煎できる。少し前に進んだ感じはある」と話していた。
オープン直前に病に…それでも前を向く
しかしオープン2日前…「こんにちは。本日より入院となりました。オープン日いません」
開店準備に加え、イベントへの出店など休みなく働いていたため、肺炎をこじらせ窪さんは入院してしまった。
仮設商店街がオープンの日。窪さんの姿はそこにはなく、妻のきよ美さんが、訪れた客に「マスターおらんもんでコーヒー淹れられんげん、ごめんね」と声をかけるしかなかった。
オープンから1週間後、窪さんから退院の知らせを聞き店に駆けつけると…窪さんは「無事退院しました。熱があるときは大変だったけど、この三日間くらいヒマでしょうがなくて。体調子悪くないのに、ジッとしなくちゃいけないのが苦痛なわけで…」と笑っていた。
窪さんは「震災の時の感情とちょっと似ている。あの時は焙煎機を動かせなかったけど体は動いた。今回は焙煎機は動くけど体が動かせない。自分の心の感情的な揺らぎを感じた」と振り返る。働きたくても働けない。再び感じたあのもどかしさを解消したく、うずうずしていた窪さん。退院後にまず行ったのは豆の焙煎…そして…「初コーヒー、初ドリップ。こうやってる時が一番落ち着くね」
翌日、さっそく常連客がやってきた。ずっと立ちたかったカウンターで、コーヒーを淹れる。
記者:
何の下ごしらえ?
窪さん:
ホットケーキのバター
約8カ月半ぶりにホットケーキを焼くという。銅板で焼く自慢のホットケーキ。焼き印もしっかり押して、出来上がり。お客さんに食べてもらうのも、もちろん、地震以来、初めてだ。
接客に喜びを感じていた窪さん。仮設店舗でこれまでと勝手が違うけれども「出来ることの中でいかに楽しんでもらえるか、自分が楽しめるかだと思っている」と窪さんは話していた。
思い通りにいかなくても、その時できることを前向きに。窪さんはきょうも笑顔でコーヒーを淹れている。
(石川テレビ)