使わなくなったおもちゃやサイズが合わなくなった子供服など、処分に困っているという人も多いのではないだろうか。フリマアプリで売買するのは面倒だが捨てるのは忍びない、そんな気持ちにこたえる「おさがり専門店」が石川県金沢市にあると言う。一体どんな店なのか。その仕組みや店主の思いを聞いた。

石川県金沢市百坂町 おさがり専門店「ななし」
石川県金沢市百坂町 おさがり専門店「ななし」
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子供服やおもちゃがほぼ100円の“おさがり専門店”

店があるのは石川県金沢市百坂町。IRいしかわ鉄道の森本駅近くにある。「こどものおさがり」と書いた看板が掲げられた店の中に入ると、子供服やおもちゃ、ベビーチェアなどの育児グッズが所狭しと並んでいた。驚くべきはその価格。ベビー服やおもちゃはほぼ100円、バスチェアには300円の値段がつけられている。

店内のベビー服はほとんどが100円
店内のベビー服はほとんどが100円

中古とはいえ、なぜここまで安く販売できるのか。店主の山口貴子さんに聞くと、「寄付してもらった『おさがり』を、安価で販売しています」という答えが返ってきた。仕入れのコストがかからないため、この価格が実現できていると言う。特に子育て用品は使う期間が短いため、捨てるのはもったいないが自分で売るのは面倒、という人が商品を店に持ってきてくれるのだという。

店主・山口貴子さん
店主・山口貴子さん

「おさがり専門店」をはじめたきっかけ

山口さんがこの店を始めたのは、第2子出産のため仕事を休んでいた2020年。コロナ禍で外出もままならない中、何かできることがないか考えていたところ、ネットニュースで「おさがり専門店」の記事を目にした。それならば自分にもできると思い立ち、夫が営む美容室の一角で始めたという。

山口貴子さん:
おさがりって人から無料でもらったらすごく申し訳なくて、何かお返しをしなきゃいけないという気持ちになるけど、安価で買うことができるなら、その方が気楽でいいかなと思います。

子供服や育児用品が並ぶ店内
子供服や育児用品が並ぶ店内

「おさがり専門店」には様々な利用の仕方がある。例えば、1度しか着ないようなフォーマルドレスなどを安価で購入し、行事や発表会などで使ったあとは再び店に戻す、レンタル感覚の使い方もできるのだ。山口さんは使わなくなった物を捨ててしまうのではなく、もう一度利用してもらう循環の仕組みができれば良いと話す。店内でどうしても売れ残ってしまう商品は、近所の児童館に寄付をしているそうだ。

「ななし」の店名に込められた思い

普段は人材関連の会社で広報をしているという山口さん。「ななし」という店名には、誰かが所有していて名前が書かかれていた物が、ここで「名無し」に戻るという意味を込めたという。また店のロゴに描かれている切り株模様には新芽が生えていて、役割を終えたように見える物にも、まだ命があるということを表現した。

ロゴの切り株のモチーフにも山口さんの思いが込められている
ロゴの切り株のモチーフにも山口さんの思いが込められている

美容室の一角で「おさがり専門店」を始めた妻に夫・智之さんも「活発な人なんで、やっぱやりたいことが結構多くて…。でも自分は基本断らないタイプなので、『やりたいならやってみて』という感じです」と、理解を示している。

美容室を営む夫・智之さん
美容室を営む夫・智之さん

小さな子どもを連れた客が次々と来店

この日、最初に店を訪れたのは小さな子供を連れた母親。来店した理由を聞くと「子供のうちはすぐに洋服がサイズアウトしてしまうので、おさがりでもいい」という。今回購入したのは子供服やおもちゃなどあわせて4点。代金は400円だった。2組目は店の近所に住むという親子連れ。店にあった長靴のサイズがぴったりで、女の子はとても満足している様子だ。長靴に子供服、おもちゃなど合計6点を600円で購入した。美容室に来た客が「おさがり専門店」を目にして、買い物をしていくケースもある。この日も髪の手入れを終えた後、孫のためにとバスケットボールやおもちゃなどを購入した客がいた。

子供用の靴もサイズが合えば格安で手に入る
子供用の靴もサイズが合えば格安で手に入る

元日は七尾で能登半島地震に被災…おさがりを支援物資として提供

山口さんの母の実家は七尾市能登島にある。元日は帰省中に能登半島地震が発生し、山口さんも被災した。地震の後1週間ほどは放心状態で何にも手につかなかったという。友人が声をかけてくれて、被災した子供たちに使ってもらおうと店にあるおさがりを避難所に届ける支援を始めたそうだ。 

友人の協力を得て避難所に届けたおさがり
友人の協力を得て避難所に届けたおさがり

店の今後について山口さんは「もっと『おさがり専門店』を知ってもらって、利用してもらえるようになるといいですね」と話した。「もったいない」精神をかたちにした「おさがり専門店」。店を訪れる人が増えれば、物を循環させる輪はさらに広がる。物価の高騰で苦しい家計にも嬉しく、環境にも優しい新たなスタイルの店は、今後も子育てグッズを循環させる拠点として親しまれそうだ。

(石川テレビ)

石川テレビ
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