石川県、能登町役場に掲げられた「復興、再生」の文字。この作品を書いたのは能登高校書道部だ。地震の発生から約5カ月。新たな作品に挑む、彼女たちが伝えたい「本音」と「現実」とは。

役場のロビーに掲げられた大作

「復興、再生」「みんなで前を向いて進む」。元日の能登半島地震発生から約3週間後、地域を元気づけるために作られた作品だ。書いたのは、能登高校書道部。当時は断水が続いていたため、筆は雪や湧き水で洗ったという。

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不便な生活の中でも明るくふるまう部員たち。書の中にも前向きな言葉が並ぶ。橋本紗奈部長は「自分たちも前を向いていない中で、ボランティアの方への感謝とかみんなに前を向いて頑張ろうという気持ちで、前向きな言葉だけを入れた」と話した。

現実を受け止めて新作へ

あれから4カ月。町内の断水は解消されたが、通学路は傾いたまま。部員たちは復興が思うように進まない現実を見てきた。指導する府玻美智子先生は「普段すごく元気にしていて、楽しくやっているんですけど、複雑な思いがあるんだろうなと感じることは多々あります」と話す。

府玻先生が見せてくれたのは、4月上旬に部員たちが綴った率直な気持ち。「先が見えない不安」「自然災害やから、誰も悪くないから」「前向かなやっとられん」。府玻先生は「本当に本音だけど、なかなか口に出せない。辛いですけれども自分たちの思いを受け止めてみよう、受け止めないと前に進めないんじゃないかな」と話す。

部員たちは新しい作品にとりかかっていた。東京で開かれる日本赤十字社のイベントで書道パフォーマンスを披露することになったのだ。橋本部長は「どんどんみんなの記憶から薄れていっているような感じがして。全然なのにもう大丈夫みたいな感じになっているのがすごく悲しくて。この間の役場の作品みたいにきれいなことだけじゃなくて、被害が大きいとか現実をみんなに伝えたいと思った」と新作への思いを話した。「変わり果てた家と町を見て、声が枯れるまで泣いた」。この言葉を考えたのは2年生の府中美音さん。

部員それぞれの生活

美音さんの自宅に案内してもらった。「わってなって全部岩が落ちてきて。家の半分に石も入ってます。仮設に入るまではここに住んでて、荷物運び次第、仮設に行くって感じです」。何とか寝る場所は確保できているが、風呂には入ることができない。

府中美音さん
府中美音さん

「自分の壊れた家とか壊れていく町を見て、その現実をちょっと経って見てみたら、なんかめっちゃ泣いて。仮設にいったらお風呂あるし、この家よりは絶対安全やけどやっぱり17年過ごした家なので、怖いけどここにいたいという、なんか複雑な気持ちです」と胸の内を明かす。

橋本紗奈部長
橋本紗奈部長

幸い、自宅の被害が少なかった生徒もいる。橋本部長は「うちは全然、家もあるし水もお湯も出て全部あって、うちだけ申し訳ないなってたまに思ったり、ぜんぜん被害もないし…」と正直な気持ちを話す。一方で、複雑な思いも打ち明けてくれた。「一緒に避難するときにネコちゃんが逃げちゃって…」。飼い猫のビビくんが地震で逃げ出し、今も見つかっていないのだ。5月で3才になったビビくん。まだ誕生日を祝えていない。「人が生き埋めになっとるときに、ネコかって思うかもしれんけど…私からしたら弟みたいな感じだったので、私が抱っこしてて逃げちゃったので家族にめっちゃ申し訳なくて…」。

助けられたのは“人薬”

日常が一変した、高校生たちの4カ月半。新作に書かれたのは「これが本音、これが現実」という言葉。迎えた本番当日…約1600人が見守る大舞台。「能登高校書道部です。一筆ご披露いたします!」。威勢のいい掛け声とともに、本番のパフォーマンスが始まった。真ん中に、一際大きく書かかれたのは、「人薬」という言葉だった。橋本部長は「多くの人に声をかけてもらい、支えられ励まされて、ひとぐすりのおかげで元気と笑顔を取り戻し、前を向いて未来を考えることができるようになりました」と胸を張って説明すると、会場は大きな拍手に包まれた。

提供:日本赤十字社
提供:日本赤十字社

翌日の能登町。2年生の美音さんは「自分たちのパフォーマンスで泣いてくれる人がいて、感動してもらえるのも実感できたので、自信にもなったし嬉しかったです」と泣きながら話した。橋本部長は「私たちは大変な中にいるんだよと知ってもらうことで、他の方たちも助けになってくれるかなと思って、少しだけ気が楽になったような気がします」と口にした。向き合う現実も
抱えた本音もそれぞれ違う部員たち。だからこそ、これからなんだって書くことができる。未来は輝いている。

(石川テレビ)

石川テレビ
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