学校給食で提供された牛乳を飲んだ児童生徒から「味が変」などの声が相次ぎ、1000人以上が体調不良を訴えた。これを受けて宮城県内では一時的に給食での牛乳の提供を停止。行われた各検査の結果は「異常なし」。騒動から3週間ほどで牛乳の提供が再開された。今回の問題から見えてきたものとは。
「味が変」体調不良の訴えは1000人以上
この記事の画像(12枚)2024年4月25日、宮城県内の給食で提供された東北森永乳業が製造する牛乳を飲んだ児童や生徒から「味が変」などといった声が相次いだ。各教育委員会などによると、おう吐や腹痛、下痢など、体調不良の訴えは1000人以上にのぼるという。
騒動の翌日には牛乳の提供停止
味の異変や体調不良を受け、騒動の翌日4月26日から給食での牛乳の提供を停止。
一部の市や町では不足する栄養を補うため、野菜ジュースなど代わりとなる飲み物を提供した。名取市では飲むヨーグルトを提供。牛乳の提供停止により不足した分とほぼ同じ栄養素を補えるという。
検査の結果「異常なし」
問題を受け、東北森永乳業は学校から回収した牛乳の検査を実施したが、大腸菌の数などに異常はなく、人間の五感を活用する官能検査でも、味やにおいなど全て正常。
仙台市保健所でも、牛乳の微生物検査や体調不良を訴えた子供の便の検査などを行ったが「食中毒などの原因菌は検出されなかった」と結論付けた。
牛乳再開に喜びの声
騒動から約3週間、仙台市の学校で牛乳の提供が再開された。
再開にあたっては、給食の30分前までに校長1人が実施していた「検食」を3人に増やすなど対策を強化。
仙台市内の小学校の校長は「たくさんの子が喜んだ一方、不安に思う子や保護者もいると思う。味の確認をし、提供したい。」と語った。
学校だけじゃない「もう一つの当事者」の声
酪農業を営む佐藤俊さんの牛舎では、一度使うごとに器具を洗浄するなど、衛生管理の徹底を心がけている。牛乳の味の異変があった日は東北森永乳業の工場には出荷していなかったが、「とてもショックだった」と振り返る。
「この騒動で子供たちが牛乳を飲むのを怖がったり、消費者が牛乳の購入を控えようと考えたりするのが怖い。」(酪農家 佐藤俊さん)
物価の高騰を受けてエサ代などが上がり、厳しい経営が続いている酪農家。県内ではこの5年間で100軒以上も減ったという。酪農家にとって、学校給食の牛乳は大事な販路の一つだ。
過去にも同様の問題が
給食の牛乳をめぐる問題は、過去にも何度か起きている。
2014年に千葉県の小中学校で、牛乳の「味がおかしい」という声が相次ぎ、約1500人が体調不良を訴えた。
2017年には東京都で、一部の児童・生徒が牛乳の味やにおいの異常を訴え、体調不良となった。
この2件でも、検査で異常は見つからなかった。なぜ多くの子供たちが異常を訴えたのだろう。
牛乳は農産物なので、環境やエサなどで、たんぱく質や脂肪などの成分量が変わることはあるという。そのうえで、精神科医で関西福祉大学の勝田吉彰教授は、あくまで一つの可能性として「子供たちは1人が異変を感じておかしいと言えば集団に広がることがあり、集団的なパニックが起こりやすい」と指摘する。
「給食に牛乳」は法律で決まっている?
そもそもなぜ、学校の給食に牛乳が出るのか。栄養がたくさん含まれているからというのもあるが、ほかにも理由が。70年前に施行された「学校給食法」の規則の中に、給食は「パンまたはコメ、そして“ミルク”それにおかず」と細かく定義されているのだ。
給食牛乳を一時やめた自治体も
ただ、この規則に罰則はなく、義務として課されているというものでもない。給食と一緒に牛乳を飲むことをやめた自治体もあった。
コメどころ新潟県の三条市では、2014年、給食の時間に牛乳を出すことを一時やめていた。
理由は「ごはんと牛乳が合わないから」。子供や保護者の声を受けて試験的に実施した。
献立を工夫することで、栄養を補うようにしたものの、次の年には、牛乳がないと必要な栄養をとることがやはり難しいとわかり、給食の時間と別に牛乳を飲む時間「ドリンクタイム」を設けた。
しかし、牛乳を飲んですぐ休み時間に走り回り、体調を崩す子供がいるなどのデメリットがあり、2021年からは再び給食と一緒に出すように。
これらの取り組みから得られた「食事中、口が乾くのでよく噛んで食べるようになる」などの成果を生かすため、学校では「食べながら飲まない」という指導をしている。
当たり前になっている「給食と牛乳」
取材では牛乳を待ち望んでいた声が多かったが、苦手だという子もいるだろうし、米飯給食に合わないと思う子もいるだろう。
今回の問題が、給食と牛乳について改めて考える機会にもなったのではないだろうか。
(仙台放送)