2024年4月から始まった新たな労働時間の規制による「2024年問題」。医師や建設業界、運送業界に新しい働き方が求められている。若手バス運転士の本音に迫る。
夢だったバス運転士
大橋昭悟さん26歳。この春で5年目を迎えた長崎バスの運転士だ。
この記事の画像(8枚)幼い頃からバスが大好きで、運転士になることは将来の夢の1つだった。前職は雑貨店の販売員。ある休日に、子供の頃に乗ったことがないバスの路線に乗ってみたのが、夢を思い出したきっかけだった。
長崎自動車 運転士 大橋昭悟さん:
「やっぱりバスを運転したいな、大きな車に乗ってみたいな」という思いが込み上げてきた。ほかの運転士から「なりたいならなってみたらいいんじゃないか」と声をかけてもらい、バスの運転士を目指すようになった。
夢を叶えた大橋さん。一方で、バス業界は深刻な「運転士不足」が加速している。
日本バス協会は2030年度に、現在のバス路線を維持するためには3万6000人の運転士が足りなくなると試算している。
背景にあるのが、2024年度から始まった時間外労働の上限規制だ。バスやタクシー、トラックなどの運送業界では、ドライバーの年間の残業時間の上限が960時間に引き下げられた。また、退勤から次の出勤までの休憩時間を、以前より長く確保することが求められている。
長崎自動車・自動車部大橋営業所の小川利樹係長は「1人の運転士が運転できる時間が短くなったので、路線維持のために減便、最終便の繰り上げが必要になった」と話す。
35の停留所が廃止に
長崎バスは4月1日のダイヤ改正で、過去最大規模となる16区間、35の停留所の廃止に踏み切った。最終便は最大で45分繰り上げも実施。苦渋の決断だった。
ダイヤ改正から1週間が過ぎ、利用者からは「時代の流れだろうから仕方ない」と理解を示す一方、「最終バスが早くなったので、子供のバイトの帰りの時間が変わってきた。昼間など時間帯によっては便が少なくて不便。もう少し考えてもらえるとありがたい」と戸惑いは隠せない。
働き方改革の不安は「収入面」
新しい残業規制のもと、大橋さんの勤務にも変化が生まれていた。この日は午前7時に出社。健康状態や1日のスケジュールを確認し、バスに乗り込む。休憩を挟みながら5つの便を担当し、午後7時半頃に退社した。
勤務は楽になり、全体的に退勤時刻も早くなって時間にゆとりが生まれた一方、心配なこともある。それは「収入面」だ。今後、残業時間や公休出勤が減ることで「収入が減ってしまうのでは」と不安を覚えている。
もっと働きたくても、働けないもどかしさ。それでも「バスの運転士を辞めたいと思ったことはない」と語る大橋さん。大好きなバスを運転する日々は充実している。
運転士不足の解消のため、長崎バスは、入社後の大型二種免許の取得に向けた支援制度や、バスの運転体験などのイベントを実施している。
“マイナス影響”と答えた企業は7割
帝国データバンクが2024年2月に長崎県内の企業107社に行った調査によると、7割を超える企業が「物流の2024年問題でマイナスの影響を見込んでいる」と回答した。
主な影響は「物流コストの増加」「人手不足の悪化」「人件費の増加」などを想定しているという。求める支援策としては「人材育成・確保に向けた支援」「金銭的支援」「高速道路料金の見直し」などを求める声もある。
「2024年問題」に対し、企業も改善策を打ち出している。ヤマト運輸は置き配を6月に開始、IKEAは商品受け取りセンターを各自治体に増設。長崎県内では長崎市に加え、3月には佐世保市にも設置している。
当たり前をどこまで手放せるか
労働者の「ワークライフバランス」を確立させる一方で、私たちの生活にも大きく影響する「2024年問題」。
労働者にとっては「収入確保」、企業にとっては「人材確保」が求められ、利用者にとっては当たり前となっている「利便性」をどこまで手放すことができるか、“環境整備”と“理解”がカギを握ることになりそうだ。
(テレビ長崎)