各種選挙において投票率の低さが際立つ20代。こうした中、静岡市の選挙管理委員会は2025年春の市議会議員選挙に向け、大学生の意見も参考にしながら対策に取り組んでいる。若者のアイデアは投票率向上の一手につながるだろうか。
若年層が抱く選挙や投票のイメージ
「選挙そのものが堅苦しいイメージ」
「日常生活の中に投票所があった方が良い」
2024年2月初旬。静岡市葵区で開かれた選挙管理委員会と地元・静岡大学の学生との意見交換会で、若者たちは率直な思いを吐露した。
際立つ20代の投票率の低さ
市選管によると、市長選挙や市議会議員選挙の投票率は回を重ねるごとに低下。
この記事の画像(7枚)特に前回の市議選(2021年)は過去最低の40.1%を記録し、中でも20代は20.8%と低さが際立っている。
この状況に危機感を覚えた市選管は、2023年9月から静岡大学で政治学のゼミを専攻する学生の協力のもと、若年層の投票率アップに向けた施策を研究してきた。
ターゲットは有権者にとって最も身近な選挙となる2025年春の市議選。
言うなれば、若年層に対する情報発信や投票しやすい環境整備、投票の義務感向上対策について学生の“お知恵拝借”といったところだ。
学生が16案を提示…うち4案を採用
学生たちは、投票所に行くことが「楽しみ」と思えるようにマルシェを設置する案や投票済み証明書を発行した上で市内の協力店で割引サービスを受けられる選挙割の導入、それに候補者マッチングの地方版の実施など、実に16ものアイデアを提案。
ただ、これらは民間の協力が不可欠で、直ちに実現するのは難しいとの判断に。
このため市選管としては、まずショッピングセンターに期日前投票所を設置すること、選挙啓発動画コンテストを実施すること、大学生に住民票の異動を呼びかけること、小中学生向けの主権者教育を充実させることの4つを採用し、予算措置を決めた。
学生によれば、ショッピングセンターに期日前投票所を設置する目的は、通常の投票所だと多くの担当者に見張られている感じがして落ち着かないため、日常生活の中に投票できる場所があった方が気軽に投票できるからだという。
一方、動画コンテストは若年層の情報ツールであるSNSを活用し、拡散数や“いいね”の数によって賞品を提供する企画だ。すでに静岡大学の学生が動画を制作してYouTubeにもアップ。1月に開催された「二十歳の集い」の会場でも上映され好評だという。
また、住民票については住民票を異動すると地元で二十歳の集いに出席できないと思っている学生が多いようだ。
総務省が2016年に実施した「18歳選挙権に関する意識調査報告書」によると、住民票を現在住んでいる市区町村に移している若年層(18歳~20歳)はわずか32.7%だった。
住民票を静岡市に移していなければ静岡市で投票はできない。このため、静岡市選管は大学側と協力して住民票の異動を呼びかけるチラシを学生に配布する計画だ。
さらに、小中学生への主権者教育は座学よりも議員との対話の機会や本会議の見学などが記憶にも残るとして提案している。もちろん政治的中立性の確保は必須だ。
地方選挙こそ貴重な一票に思いを
ゼミを担当している静岡大学人文社会科学部の井柳美紀 教授(政治学)は「選挙啓発は時代に合わせた方法で推進していく必要がある。若い人が市政に関心を持ち関わっていく時代にならねばならないし、意義がある取り組みが続いてほしい」と話し、市選管の委員も「他大学との連携も含めて学生たちには投票率アップに向けた関りを持ち続けてほしい」と今後に期待を寄せている。
若年層の投票率が低いままでは、政治家や選挙の候補者の政策は投票によく足を運ぶ高齢者向けに偏りがちになるだろう。そうなると益々若年層の選挙離れ、政治離れが進む。まさに負のスパイラルだ。
国政選挙と違い、地方選挙は情報が少なく関心が薄れがちかもしれないが、自分たちが住む地域の課題が浮き彫りとなる地方選挙こそ、積極的に関心をもって貴重な一票に思いを託してほしい。
(テレビ静岡 特別解説委員・永井学)