岸田首相は所信表明演説で、税収増加を国民に還元すると強調。これに対し専門家は、首相の姿勢を評価するも、株式市場の反応は期待通りではないと指摘。還元できるほどの余裕があるのかという懸念や、所得税減税が期間限定となる不安などが要因と指摘した。

「税収が増えた分を国民に還元する」と首相

岸田首相は所信表明演説で、「税収が増えた分を国民に還元する」と強調した。

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岸田首相:
持続的で構造的な賃上げを実現するとともに、官民連携による投資を積極化させていく。「経済・経済・経済」。 私は何よりも、経済に重点を置いてまいります。

所信表明演説の冒頭で、「経済」という言葉を繰り返し、その決意を示した岸田首相。

「コストカット型経済」から「成長型経済」への変革を強調し、近く策定する総合経済対策の両輪として、「供給力の強化」と「国民への還元」を掲げた。

岸田首相:
成長による税収の増収分の一部を公正かつ適正に還元し、物価高による国民のご負担を緩和します。

そして、国民への還元について、所得税減税を念頭に、「与党の税制調査会に早急な検討を指示する」と述べた。

これを受け、早くも動きが見られた。午後2時半過ぎ、自民党本部では、宮沢税制調査会長ら税調幹部が非公式の会合を開き、2024年度の税制改正に向けた議論が始まった。

所得税減税や防衛力強化に伴う増税の時期など、課題を整理したものとみられる。

リポート:
所得税減税については突っ込んだ議論をした?

自民党税調幹部・加藤勝信前厚労相:
いやいや、全般について議論させていただいた。

また、公明党の山口代表は都内での講演で、所得税減税は定額減税がふさわしく、減税幅は2万円を超えるべきとの認識を示した。

公明党・山口代表:
もうだいぶ前になりますけど、定額減税が議論された時は2万円という水準で議論していた時がありましたね。それではちょっと心細いのではないかと。

一方、野党は…。

立憲民主党・泉代表:
後ろには増税が隠れているという中で、減税という言葉だけを表に出そうともくろんだ。この(岸田)総理の真意を問わなければなりません。

立憲民主党は国会で、所得税減税に加え、防衛増税の対応についてただす方針だ。

実現可能性へ株式市場の反応薄

「Live News α」では、エコノミストの崔真淑(さい・ますみ)さんに話を聞いた。

堤 礼実 キャスター:
今回の岸田総理の所信表明演説を崔さんは、どうご覧になりますか。

エコノミスト・崔真淑さん:
物価上昇で生活への影響が出ているなか、国民の声を聞こうとする姿勢は評価されるべき。行動しようとする姿勢は素晴らしいと思う。

ただ、経済の鏡である株式市場の反応を見ると、「岸田政権の動きについて期待できる」という反応にはなっていない。

堤 礼実 キャスター:
岸田総理が「経済、経済、経済」と連呼するほど、経済対策の重視を打ち出したのに対し、どうしてマーケットの反応は薄いのでしょうか。

エコノミスト・崔真淑さん:
大きく2つのポイントがあると思う。1つはそもそも、大幅な税収増で国民に還元するという事だが、岸田内閣の発足以降、ガゾリン補助金の影響もあり、歳出は右肩上がりで増えている。

還元できるほどの財政的余裕が本当にあるのか、税金の効率的な使い方ができているのか、という懸念があること。

堤 礼実 キャスター:
ポイントの2つ目については、いかがですか。

エコノミスト・崔真淑さん:
今回の減税は、所得税の定額減税ということだが、“期間限定”という言葉が強調され過ぎてしまっていること。「恒久的な減税はしたくない」という政府の思惑が見え隠れしている点です。

景気の「気」は「気持ちの気」というだけあって、少々物足りなかったのかなと思う。

長期的な負担についての言及を

堤 礼実 キャスター:
11月にまとめられる経済対策では、崔さんは、どんなことを期待しますか。

エコノミスト・崔真淑さん:
税金の話だけでなく、社会保険料に対しての言及もあると、国民の期待に寄り添う形になると思う。賃上げが起きても、それ以上に社会保険料の上昇が続くとなれば、手取り収入が減り“消費意欲”も掻き立てられない。

過去には、橋本龍太郎総理時代に、所得税の定額減税を打ち出した時にも、国民の期待以上の話にはならず、支持率の支えになりきれなかったことがあった。

国民は目先の減税よりも、長期の増税に関心があるだけに、そこに対してメッセージを出してほしい。

堤 礼実 キャスター:
変化の流れをつかみ、その変化を力に変えていく。そんな国民一人一人と向き合う政治を期待したいです。私たち自身に出来ることの1つとして、こういった言葉の全文に目を通し、自分で何かを感じて考えてみるということも、大切かもしれませんね。
(「Live News α」10月23日放送分より)

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