ぷるぷるふわふわのホットケーキなどが人気のカフェが新たな店舗に選んだのは、住宅街の中の一軒。深刻化する空き家の問題解決につながるかもしれない。

人気カフェ新店舗 “空き家”にオープン

JR千歳駅から車で5分ほどの青葉地区。見渡すかぎり住宅ばかりで、商店などはほとんど見られない。

海外にも店舗を構える人気のカフェは、いったいどこにあるのだろうか?

住宅街に佇むカフェ

この記事の画像(9枚)

住宅街の中でひっそりとたたずむ建物。控えめな看板とのれんがそれがカフェであることを物語る。

2階にはどう考えても使い道のない不思議なドアも…

10月1日、オープンしたカフェ「椿サロン千歳」。

15年前、札幌市中央区に1号店が誕生して以来、インテリアとスイーツが評判となり東京・銀座や台湾にも進出。

千歳市のこの店で、10店舗目。

「椿サロン」といえば「北海道ほっとけーき」。

ベーキングパウダーを使わないのにふんわり!道産の小麦とタマゴ、てんさい糖と塩だけで焼き上げている。

「最近は動画で撮影する人も多いので、このテーブルは少し揺れやすく、撮影しやすい構造に設計した」

そう語るのは、「椿サロン」のプロデューサー・長谷川演さん。

長谷川さんは札幌市中央区のアトリエで、道内外の数々の飲食店やホテルなどを手掛けてきた建築やインテリアのデザイナー。

内装だけではなく「北海道ほっとけーき」も長谷川さんが食材選びから、味や食感まですべてプロデュースしている。

築45年の住宅をカフェにリノベ

実はこの空間、築45年の2世帯住宅を改装している。

「1階の天井と2階の床を全部取り払った。なかなかこれだけ空間をダイナミックに使う店はないと思う。大空間だけれども、懐かしい面影が柱や梁(はり)にあるので、それはそれで落ち着くのではないかと思う」(長谷川さん)

でも、ごく普通の住宅街に「椿サロン」を作った狙いは?

「僕らはいろいろな商業施設やにぎやかな場所でやってきた。そろそろ住宅街の様な場所に出店してみたいなとは思っていた」(長谷川さん)

千歳市の住宅街に理想的な空き物件が見つかったものの、大きな壁があった。それは…

急上昇する地価・建設費

「空き家を壊すということしか頭にはなかったが、壊して基礎まで掘り返し、更地に戻してさらに新築となると、今回かけた費用の倍になる」(長谷川さん)

半導体の「ラピダス」進出で、千歳市の住宅地の地価は9月、上昇率で全国トップ3を占めるなど急上昇。

建設費用も想像以上に高くなっていた。

その一方で、千歳市では2023年度始まった住宅工事の件数が前年度と比べて3割ほど減っている。

「建設資材や人件費の高騰は全国共通といえると思うが、その中でも千歳市は住宅地の価格上昇率が非常に高いこともあり、建物の購入費用がアップしているのが工事数の減少に影響していると感じる」(千歳市建設部 建築政策課 渡辺恵一課長)

千歳市ではいま、土地の取得や家や店の新築が難しくなっている。

“空き家”を再利用

そこで思いついたのが、空き家を解体せずに利用すること。

2階にあった不思議なドアは、改装費を抑えたためだった。

「たまたま今回は千歳だったが、釧路でも帯広でも子育てが終わった人が自分の家を有効利用して小さなカフェにするのはこれからのビジネスとして面白いのではと思う」(長谷川さん)

空き家を再利用することで、新築の半分程度の費用で完成した「椿サロン」。

長谷川さんは、全国で深刻化する空き家問題解決のテストケースになればと考えている。