国の天然記念物である奈良公園のシカを保護する団体が、「保護したシカにエサを与えない」などの虐待を行っているという通報があったことを受け、奈良市が調査に乗り出した。団体は「適切に飼育していた」と真っ向から反論している。

シカ“虐待通報” 市が立ち入り調査

奈良県からの委託を受け、国の天然記念物「奈良のシカ」の保護活動に取り組む「奈良の鹿愛護会」に奈良市の職員や獣医師などが立ち入り調査に入った。 この愛護会に所属する丸子獣医師が8月、「シカが施設で虐待されている。年間50頭死んでいる」と通報したことから、市と県が調査を実施する問題にまで発展した。

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奈良の鹿愛護会 丸子理恵獣医師:
エサを十分にあげないで弱らせて死なせることは虐待になります。今回のケースはそれが非常に疑わしいと。当てはまるんじゃないかと思っています。7月19日にカウントしたんですけど、75パーセントのシカが痩せているという診断だったんです

丸子獣医師が撮影した施設内のシカの写真を見ると、やせ細り、あばらが浮き出ていることが確認できる。 丸子獣医師は、エサの量や栄養価が足りず、多くのシカが栄養失調に陥っていると主張。「愛護会に改善を求めてきたが、このような劣悪な環境が少なくとも5年以上前から続いている」として、通報に至った。

一方、“内部告発”を受ける形となった「奈良の鹿愛護会」は…

奈良の鹿愛護会 山崎伸幸事務局長:
今回言われるような問題は一切ございません。収容された時点で気力をなくしてしまって、何も食べないケースが非常に多いです。毎日、エサをあげ、掃除をし、水をやり、そういったことを日誌等につけて、しっかりしたルーティーンをもってやっている

愛護会は、「野生から保護したシカは、それだけで強いストレスを感じ、エサを食べなくなることが多い」と主張。エサは適切に与えていたと真っ向から反論している。 今回、浮上した保護施設の中での虐待疑い。

なぜ野生のシカを保護?

そもそも、なぜ、野生のシカを保護する必要があるのか?

古来より「神の使い」として、大切に扱われてきた奈良のシカ。戦後、個体数が激減したことなどから、国は1957年、奈良公園の一帯に生息するシカを天然記念物に指定した。

しかし、1985年に、シカが農作物を食い荒らす被害の改善を求めて、地域住民たちが裁判を起こしたことから、被害を与えたシカは愛護会が保護するというルールが定められた。

保護されたシカは奈良公園の付近に生息する天然記念物である可能性があり、原則、殺処分することはできない。一方で、野に放つと再び被害が発生する恐れもあるので、保護施設の中の「特別柵」と呼ばれるエリアで、死ぬまで飼育されることになっている。

今回、虐待の疑いが浮上したのは、この「特別柵」だった。

奈良県・山下真知事:
奈良公園でシカと戯れることを楽しみに奈良公園を訪れてくださっている方も多いと思いますので、もし虐待という風に認定されるようなことがあれば、本当に悲しいことであるし、残念

奈良・山下知事「保護の在り方」に言及

愛護会にシカの管理を委託している奈良県は、特別チームを立ち上げ、現地の確認や関係者の聞き取りなどの調査を進めている。10月中にも結果をまとめ、虐待が認められれば、愛護会への管理許可を取り消すことも検討するとした上で、山下知事はそもそもの保護のあり方にも、言及した。

奈良県・山下真知事:
そもそも農作物を荒らしたシカを(特別柵)に収容すること自体が、どうなのかということを次のステップとして考えていかなければならない

奈良市も調査「ネグレクトにはなっていないのかな」

また、保健所を管轄する立場の奈良市も、3日、県とは別に調査を開始した。調査では、シカの飼育状況や栄養状態について調べ、市の職員が獣医師の説明を受けながら写真に撮るなどした。

奈良市 保険衛生課 稲葉好之課長:
エサの量とかを確認した以上は、ネグレクトにはなっていないのかな、とは思います

奈良市は今後も調査を続け、動物愛護法に違反する行為が見つかった場合は、行政処分や刑事告発に踏み切る可能性もあるとしていて、調査の結果に注目だ。

(関西テレビ「newsランナー」 2023年10月3日放送)

関西テレビ
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