新型コロナの法律上の位置付けが5類になって以降、観光地や夜の街にはにぎわいが戻りつつある。その一方で「タクシーがなかなかつかまらない」という声を最近よく聞く。背景には深刻な運転手不足が潜んでいた。

駅も繁華街もタクシーがいない!

9月1日午後11時頃のJR静岡駅南口のタクシー乗り場。待機場所には客を待つタクシーの姿はない。この日、新幹線の到着時刻に合わせ一時的にタクシーが列を作ることはあっても、それ以外の時間帯はガランとした状態が続いた。

JR静岡駅前でタクシーを待つ人たち
JR静岡駅前でタクシーを待つ人たち
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続いて同日深夜0時過ぎ、JR静岡駅からほど近い静岡市葵区の繁華街・江川町通りに運んでみるも、こちらも客を待つタクシーの姿はまばらだ。以前は通りの両側にタクシーがズラリと並んでいたが最近はめっきり減っていて、ある男性は「つかまらないです。少ないです」と途方に暮れた。ちなみにこの日は週末、いわゆる“華金”だ。

繁華街にも客待ちするタクシーはほとんどいない
繁華街にも客待ちするタクシーはほとんどいない

タクシードライバー 5年で2割が離職

静岡県タクシー協会によるとコロナ禍以前の2018年度、県内のタクシードライバーは法人・個人あわせて6256人を数えたが2022年度末時点には4960人となり、5年間で約1300人、実に20.7%が離職。新型コロナの影響で飲食店の休業や時短営業が続いたことにともない、タクシーも夜の稼働がほとんどなくなり、多くのドライバーが「歩合で稼げない」「基本給だけでは家族を養えない」などといったことを理由に辞めてしまったという。

各社ともドライバーの採用活動を積極的には行っているものの、タクシードライバーという仕事は「深夜・早朝のきつい仕事」というイメージが先行してしまっていることもあってか採用が追い付いておらず、県内の法人タクシー102社の1日あたりの車の稼働率を見てみると2022年度は平均53.6%。車両があっても運転手が少ないことで、半分ほどしか稼働できていないのが実情だ。

シフトは日中に重点 夜は手薄な体制に

静岡市葵区に本社を置く静岡ひかりタクシーに話を聞くと、こちらも中国で新型コロナが報告された2019年12月以降だけで、約40人のドライバーが会社を去ったといい、泉真 社長は「深刻な問題ととらえている。移動を生業としてきたが、コロナの影響で『移動するな』といわれた時代が3年も続いてしまい、離れてしまった働き盛りのドライバーたちが戻ってきておらず、人数だけがどんどん減ってしまっている」と嘆く。

静岡ひかりタクシー
静岡ひかりタクシー

国の補助金なども活用して定期的に採用活動を行っているものの、コロナ禍以前は85人いたドライバーも現在は70人。このため運行を許可された車両70台のうち10台は休止を余儀なくされ、残る60台の1日あたりの稼働率は平均50%となっている。また以前は20代・30代のドライバーもいたが、いま最も若手で42歳。平均年齢も63歳と高齢化も進んでいる。

静岡ひかりタクシー・泉真 社長
静岡ひかりタクシー・泉真 社長

また燃料費の高騰などの影響もあり、会社全体の売り上げはコロナ禍以前の水準には戻っておらず、泉社長は「コロナ禍が明けてからは利用客の生活スタイルも変わって昼間にシフトしているため、どの時間帯なら夜の売り上げをカバーできるのかと昼間のシフトを厚くしており、夜の時間がどうしても薄くなっているのが実情」と話す通り、1週間の中で最も忙しいのは平日の午前中とのことだ。ただドライバーの収入はというと、深夜・早朝中心のシフトから介護・通院のための送迎に狙いを定めた日中を中心としたシフトに変更するなど工夫した結果、コロナ禍以前よりもアップしているという。

県内では3年半ぶりの運賃値上げ

人手不足はどうしたら解消できるのか?県タクシー協会の村上雅則 専務理事は「魅力のある業態でないと人は来ないと思うので、効果的なのは労働条件がある程度確保されれば魅力を感じる人もいるだろう。水揚げに対して賃金を支払う形(歩合制)だと難しい」と話し、国土交通省中部運輸局はタクシー業界の要請を受ける形で、県内のタクシーサービスの維持を図るため運賃の値上げを認可した。

中部運輸局によると、県の東部・中部・西部の26市町では9月25日から普通車の初乗り運賃の上限が、現在の600円から660円(1.2キロまで)に引き上げられるほか、走行距離に応じた加算額の上限は311メートルごとに90円から279メートルごとに90円へと変わる。

そして、伊豆地区は9月11日から普通車の初乗り運賃の上限が610円から680円(1.2キロまで)に引き上げられ、加算額の上限も266メートルごとに90円から241メートルごとに90円となる。

県内でタクシーの運賃が値上げされるのは2020年2月以来で、中部運輸局は「運賃改定を労働条件の改善につなげてほしい」と期待する。

ただ値上げにより客離れも懸念されるため、ドライバー不足の解消は一筋縄ではいかない。

どうなる?ライドシェアの行方

こうした中、いま脚光を浴びているのが“ライドシェア”だ。ライドシェアとは一般のドライバーが自家用車を使い、有料で乗客を送迎するサービスで、海外では普及・浸透しているものの日本ではいわゆる“白タク”行為として原則禁止されているが、最近になって、菅義偉 前首相や河野太郎デジタル担当相などからライドシェア「解禁」に向けた議論を求める声があがり始め、その行方が注目されている。

一方で事故が起きた際の補償や防犯上の問題、何よりもタクシー業界への影響など多くの課題を指摘する声もある。とはいえ、タクシードライバーが不足する状況が長引けば、ライドシェア導入に向けた議論が本格的に始まる可能性は十分にあるだろう。

(テレビ静岡 特別解説委員・永井学)
 

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