蚊はなぜ暗闇でも飛べるのか

夏の夜、不快な存在といえば、蚊だ。6月の今でも、地域によってはすでに飛び始めている。

耳元で聞こえる「ブーン」という羽音で目を覚まし、捕まえようとしても、蚊は暗闇でも自由に飛び回るため、なかなか捕まえられず、イライラ…。

こうしたイライラの解消につながる可能性がある研究論文が5月8日、アメリカの科学誌「サイエンス」で公開された。

研究論文ではこれまで解明されていなかった、「蚊が暗闇でも障害物を避けて飛ぶことができるメカニズム」を明らかにしており、これが“蚊を寄せ付けない新たな手法の開発につながる可能性がある”のだという。

(画像はイメージ)

暗闇でも障害物を避けて飛べるメカニズムを解明

論文によると、蚊が暗闇でも障害物を避けて飛ぶことができるのは、“自らの羽ばたきで起きる気流の乱れが、壁や床などで反射するのを感じ取っているから”だという。

千葉大学大学院の中田敏是助教らの研究チームが、高速度カメラを複数台使って、蚊の位置や翅(はね)の動きを3次元的に測定。

このデータを使って、コンピューター内で蚊の翅のモデルを動かして、蚊の周りの気流が壁や床によってどのように変化するのか、シミュレーションで再現した。

その結果、体長の10倍近い(蚊の体長は4ミリほど)、約3~4センチ離れた場所の気流の変動を感知し、壁や床などの障害物を検知できる可能性があることが分かった。

蚊の羽ばたきによって生じる地面付近の気流。赤色は特に気流の変動が大きく、青色になるにつれて徐々に小さくなることを示す(提供:千葉大学大学院・中田敏是助教)

しかし、暗闇でも飛べるメカニズムの解明が、なぜ“蚊を寄せ付けない新たな手法の開発につながる可能性がある”というのだろうか? 具体的にはどのような手法なのか?

千葉大学大学院の中田助教に話を聞いた。

「微弱な気流で蚊を寄り付かなくさせる」

――体長の10倍近い、約3~4センチ離れた場所の気流の変動を感知。この理由として考えられることは?

床や壁に近づいたときに自ら起こした気流が触角の周りでわずかに変動することと、「ジョンストン器官」(触角の根元にある特殊な器官)の感度がわずかな変動を感知できるぐらい、非常に高いことが理由です。

高速度カメラで撮影した飛行中の蚊。ジョンストン器官は赤丸で示した箇所(提供:千葉大学大学院・中田敏是助教)

――“蚊を寄せ付けない新たな手法”、具体的には?

例えば、「蚊が気流を使って障害物を検知している」ということを逆手に取って、微弱な気流によって、“ある部屋”に蚊を寄り付かなくさせたり、“ある部屋”を蚊が飛びにくい空間にしたり、蚊を一カ所に集めたり、ということができるかもしれません。

蚊の飛行性能はまだまだ分からないことが多いので、これから頑張って研究します。

「気流の壁のようなもの」を設置

メカニズムを逆手にとった“蚊を寄せ付けない新たな手法”。この他にはどのようなものが考えられるのか? 続いて、害虫防除技術研究所の白井良和所長にも話を聞いた。

――メカニズムを逆手にとった”蚊を寄せ付けない新たな手法”。どのようなものが考えられる?

蚊に錯覚させる気流を作り、蚊を寄せ付けないようにする、という手法が考えられます。

――それは具体的には?

人の体の近くではなく、蚊が潜んでいる“植物の茂みの近く”や、蚊が侵入する“玄関や窓”などに、「気流の壁のようなもの」を設置して、入ってきてほしくない場所への侵入をブロックする、という手法です。

――「気流の壁のようなもの」というのは、一般的に販売しているものや家庭にあるもので該当するものはある?

現時点で該当するものはありません。

 

蚊はデング熱や日本脳炎などの感染症を媒介することでも知られている。今回の研究で明らかになったことをきっかけに、どんな“蚊を寄せ付けない新たな手法”が生み出されるのだろうか? 早く「気流の壁のようなもの」が実用化され、蚊の羽音に悩まされない夏の夜がきてほしい。
 

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