新型コロナウイルスの5類移行から1カ月が経った。飲食店や観光地にも人が戻りつつあるが、休校や学校行事の中止などで大きな影響を受けてきた子供たちは今、どうしているのだろうか。

またコロナ禍は子供の不登校にも影響を与えたと言われている。そうした子供たちの現状を取材した。

「マスクを取るのは恥ずかしい」

東京・足立区 綾瀬小学校
東京・足立区 綾瀬小学校
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東京・足立区の綾瀬小学校は児童数およそ830人で、各学年は4クラスから5クラスの編成になっていて、この日(6月1日)は全国体力テストが前日に続き、行われていた。体育館では6年生の体力測定が行われていたが、まだマスクをしている児童が目立った。

6年生の体力測定が行われていた体育館では、マスクをしている児童が目立った(6月1日)
6年生の体力測定が行われていた体育館では、マスクをしている児童が目立った(6月1日)

子供たちからは「マスクをつけることに慣れていて、取ることが恥ずかしい」などの声が聞かれた。担任からも「6年生は2年生の後半からマスクをつけていたので、特に女子児童は恥ずかしがってマスクをとらないことが多い」という。

各学年の授業をみても、低学年はマスクをしていない児童が多く、高学年は着用している児童が目立っていたが、高学年でも「マスクを外して友だちと普通に話ができてすっきりした」という児童もいた。

低学年の教室はマスクをしていない児童が多く…
低学年の教室はマスクをしていない児童が多く…
高学年の教室はマスク着用の児童が目立っていた
高学年の教室はマスク着用の児童が目立っていた

英語や音楽の授業は活発に

一方、英語の授業では発音練習などでマスクを外すことが多く、担当の教師は「口元の変化で発音が変わることを教えることができ、グループでの英会話のやりとりもできるようになって、声量や会話量が大きく変わった」という。表情がわかるようになって授業の雰囲気も明るくなり、子供たちの英語力も向上しているという。

また音楽もマスクを外してピアニカやハーモニカが使えるようになり、歌唱もできるようになって、音楽会での発表を目指して楽しみながら取り組んでいるという。

またコロナ禍ではタブレットを使ったオンライン授業が一般化していたこともあり、子供たちは手慣れた様子で、タブレットで発表資料やイラストを作成していた。こうしたインターネットを活用したICT授業は効果をあげているという。

タブレットを使った授業
タブレットを使った授業

自宅にいてもタブレットでつながるようになり、不登校から学校に来られるようになった児童もいるという。

表情から分かる子供たちの変化

綾瀬小学校の小坂裕紀統括校長はマスクを外せるようになったことで、「言葉では感じられなかった子供たちの気持ちの変化を、表情から読み取れるようになった」と話す。

またこれまでのコロナ禍はマイナスなことばかりではなかったと指摘する。「コロナ禍があったことでこれまでの教育を見直すことができた。子供に本当に必要なものを考えさせられた3年間だった」。

子供ひとりひとりの学力にあわせたAIドリルで勉強できるようになり、今年からは自主学習ノートを導入して、宿題をださなくても子供たちが自主的に勉強に取り組む環境になってきたという。

また学校行事がスリム化されたことで、以前赴任していた小学校では3年ごとにそれぞれ開催していた学芸会と音楽会、展覧会をまとめて毎年できるようになった。

小坂統括校長は「安心して安全に学校に通える環境を作るために、学校と子供たち、保護者、地域の連携をさらに深めていきたい。学校の通知を保護者のスマホに送ることも安心につながるし、AIドリルを自宅と学校でやったり、授業参観で工作を親子で作ったりすることで学校と家庭教育の距離も近づいていくと思う」と話す。

不登校の急増 コロナ禍の影響

文部科学省の調査では令和3年度(2021年度)の小中学校の不登校の児童生徒数は、前年よりおよそ25%増の24万4940人と過去最多となった。急増の背景について文科省は、コロナ禍による環境の変化や学校生活の制限が交友関係などに影響し、不登校の一因になったとみている。

文科省ホームページより
文科省ホームページより

不登校の子供たちの居場所

子供たちへの教育支援を行っている認定NPO法人「カタリバ」は、都内2カ所に不登校の子供たちのための居場所を提供している。

生徒は20数名いるが、6月初旬のこの日は不登校の中学生6人が職員やボランティアの大学生らと、決めたお題について全員の答えが揃うまで終われないゲームを楽しんでいた。また中3になると希望する進路にあわせて作文や教科の復習、模擬面接などをすることもあるという。

不登校の子供たちのために居場所を提供している「カタリバ」の勉強スペース
不登校の子供たちのために居場所を提供している「カタリバ」の勉強スペース

社会参画の素地を

体験学習では工場の社会科見学やピザ店での勤労体験、クリスマスパーティーや遠足などが行われていて、施設の運営に携わっているカタリバの渡邊雄大氏は「中学校に行っていればできたことをなるべく体験してもらいたい」と話す。

カタリバでは親や教師との縦の関係や同級生との横の関係ではなく、若いスタッフとの斜めの関係での対話を重視していて、「こうした経験を通じて、自らやってみたいことを考え、社会に参画していく素地を作ってほしい」という。

「カタリバ」での調理風景。食事を一緒にしながらの会話も大切
「カタリバ」での調理風景。食事を一緒にしながらの会話も大切

また食事を一緒にしながらの会話も大切で、この日、食事を作っていたのは中学生の時に不登校でここに通っていた大学生で、「大人や大学生と話すことが楽しかった」という。今は福祉系の勉強をしながらボランティアで運営を手伝っている。

この施設の運営は2018年から始まったが、卒業生のおよそ65%が都立のチャレンジスクールや定時制高校に進学していて、ほかにも夜間中学に進学して学級委員をするなど、友達を作って中学生活をあらためて楽しんでいる生徒もいるという。

カタリバ提供
カタリバ提供

生徒の親子関係は、生活リズムの違いや共通の話題がないことからうまくいっていないこともあるが、ここにくることで体験したことを家庭で話して、親子の会話も増えていく傾向にあるという。保護者からは「外の世界とつながりを持てる大切な居場所」、「家族以外の人といっぱい話して笑って、生きる意味や楽しみを知ってほしい」という声が寄せられている。

「学校に行きたい、普通の中学生をやりたい」

また新型コロナで小中学校のパソコンやインターネットを使った授業が一般化したことで、行くことができない子供との学力差がより開く傾向にあることや、コロナを学校に行けない理由にすることなど、コロナ禍が不登校のきっかけになってしまったケースもあるという。

渡邊氏は「子供たちからは、学校に行きたい、普通の中学生をやりたいという発言を聞くこともある​。高校でやり直したいという子供もいる。希望する生活を送れるように、これからも子供たちをサポートしていきたい」と話す。

仮想空間 メタバースの活用

また不登校の中には、こうした施設や自治体が運営する教育支援センターなど外の世界に来られない子供も多くいる。カタリバではインターネット上の仮想空間メタバースを活用して、自宅にいても学習できる「room-K」を運営している。

メタバースを活用して自宅にいても学習できる「room-K」(カタリバ提供)
メタバースを活用して自宅にいても学習できる「room-K」(カタリバ提供)

現在、およそ110人の子供が登録していて、スタッフはおよそ60人いる。

子供たちはネット上のアバターを使って匿名でこの空間に参加することができる。

5月末の午前、タイピングを学ぶプログラムには5人の小学生の子供たちが参加していた。

「room-K」でタイピングを学ぶプログラム
「room-K」でタイピングを学ぶプログラム

子供たちはスタッフが素早い指使いで画面上のキーボードにタイプする様子をみて、それぞれタイピングに挑戦する。やりとりはチャットと音声で行われていたが、プログラムの終わりにはほとんどの子供たちが顔をだして、きょうの出来映えを自分で採点して「もっとがんばりたい!」という声が多かった。

自分の興味があるテーマを企画にしていく別のプログラムでは、キャラクターのクイズの検定や好きなアニメを紹介する画像制作が進んでいた。子供たちは自らプレゼンをして、スタッフやほかの参加者とやりとりをしながら毎週集まって、企画を完成させていく。

スタッフは友だちのように話しかけ、アイディアを出し合いながらプログラムは進んでいた。

家庭を伴走支援

room-Kでは毎週、子供とメンターと呼ばれるスタッフが「作戦会議」として日々の出来事や今後の進め方などを話しているが、保護者とも別のスタッフが毎月、支援計画を協議してLINEでもやりとりすることで、家庭の伴走支援につなげているという。保護者にとっても自分たちだけで抱えていた問題に、第三者の相談相手ができることで支えになり、親子関係の改善につながることもあるという。

また自治体との連携で学校とも情報を共有して、子供からは「夏休みの宿題を一緒にやってもらえて、はじめて宿題を全部提出できて自信がついた」という声もあったという。

運用が始まって1年半あまりだが、参加している小中学生のほとんどが継続して利用していて、学校に行けるようになっても登校前や放課後に参加する子供もいるという。

コロナがきっかけになり不登校になった子供たちもいたが、不登校の要因は本人の気持ちや特性、家族との関係、学校での勉強や教師、友だちとの関係など様々だ。

オンラインにも居場所はある

運営に携わるカタリバの白井さやか氏は「不登校や不登校傾向の児童生徒への支援には、保健室登校や教育支援センターがあるが、オンラインの支援は、そこに行くまでのステップを埋める役割を担っていけるのではと思う。子供たちの居場所は学校などリアルな場所だけでなく、オンラインも選択肢にあることを知ってほしい」と話している。

【執筆:フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】

青木良樹
青木良樹

フジテレビ報道局特別解説委員 1988年フジテレビ入社  
オウム真理教による松本サリン事件や地下鉄サリン事件、和歌山毒物カレー事件、ミャンマー日本人ジャーナリスト射殺事件をはじめ、阪神・淡路大震災やパキスタン大地震、東日本大震災など国内外の災害取材にあたってきた。