2023年4月に行われた統一地方選挙で、維新は大阪府知事と市長の「ダブル選」で勝利した。奈良県知事選や衆議院和歌山1区の補選でも勝利。また、大阪府議会では改選前から10議席増の55議席を獲得した。さらに、選挙前は議席が過半数に達していなかった大阪市議会でも6議席増やし、目標の過半数獲得を達成した。大阪の政治はまさに「維新一強」だ。
この政治状況について、有権者の政治に対する考え方や行動について研究している関西学院大学法学部の善教将大教授に聞いた。3度目の「都構想」挑戦はあるのか、維新に対抗する勢力は現れるのか…大阪の今後を考える。
この記事の画像(6枚)府市協調は大阪の政治の「十分条件」ではなく「必要条件」
Q.4⽉の統⼀地方選で⼤阪では維新が圧勝した⼀⽅、⾃⺠党が⼤敗。⾃⺠の票が維新に流れた?
関西学院大学法学部・善教将大教授:
⼤阪維新の会の⽀持層は、以前から国政では⾃⺠⽀持と回答する層が3割程度を占めていた。国政では⾃⺠を⽀持するが、⼤阪の⾃⺠は⽀持せず、維新を⽀持するという「⽀持のねじれ」状態があった。これは、⼤阪には維新が国政でも有⼒視されると、そこに⾃⺠⽀持層がなだれ込みやすい⼟壌があったということ。維新が努⼒して⾃⺠から票を奪ったというよりは、維新の対抗⾺である⼤阪の⾃⺠党が、選挙期間中に評価を落とした結果、⾃⺠から維新へという票の動きにつながったということだろう
国政で⾃⺠党を⽀持している⼈たちが、なぜ⼤阪では維新を⽀持するのか。そこには、⼤阪特有の、ある課題が関係していると善教教授は言う。
関西学院大学法学部・善教将大教授:
⼤阪の場合は、橋下徹元⼤阪府知事の時から、「⼆重⾏政」が政治的な問題としてクローズアップされてきた。市⻑選と府知事選が同⽇に⾏われることとあいまって、⼤阪府と市がどの程度、協⼒的な関係を築けるかが1つの評価基準となっている。(維新以前の政治で)府市の協調関係がうまくいかず、その結果、様々な「ムダ」が⽣まれたという問題意識がある。だから協調関係が重視されるわけだが、⼤阪の⾃⺠党は広域調整という課題にうまく対応しなかった。維新とここで⽐較がされると優位に立てない構造がある
Q.大阪の自民党はなぜ広域調整をうまくできない?
関西学院大学法学部・善教将大教授:
⾃⺠党の都道府県連は党本部からの⾃律性が⾼いとされる。県連や府連が党執⾏部の⾔うことに全て従うわけではない。いわゆる「分権型政党組織」であることは、⾃⺠党の組織的特徴の1つとされている。⼤阪の場合は、府市の協調が1つの⼤きな課題になるので、この⾃律性をもつという⾃⺠の特徴が、マイナスに働く側⾯はある
Q.⾃⺠が維新の対抗勢⼒になるには、「府市の協調」がカギとなる?
関西学院大学法学部・善教将大教授:
それは⼗分条件ではなく必要条件だと思う。それができない時点で、すでに勝つことは難しい。それができて次に、維新に代わる、よりよいビジョンを⽰す。これが⼗分条件になってくる
民意による “維新一強” 懸念点は「選択肢」
4月の選挙で、大阪府知事、大阪市長、府議会と市議会の過半数を維新が抑えた。「維新一強」の状況は民意による選択だ。しかし、懸念はないのだろうか。
関西学院大学法学部・善教将大教授:
維新に対する有効な対抗勢⼒が存在していたら、維新の側に問題が⽣じた時に票がそこに移動し、与党が交代する。しかし、このような交代が起きづらい状態になっている。維新が何か問題を起こしても別の政党や組織に変わる可能性が極端に低い状態だと、維新が好き勝⼿しようとする思いが強くなる。「アカウンタビリティ」というが、維新が市⺠に対して応答しようとするかどうかは、結局のところ対抗勢⼒である⾃⺠党の状況に⼀番依存する。維新以外の勢⼒が、維新に勝てないというのを彼ら(維新)がもし強く認識したら、とんでもないことになる。だからこの状態を早く脱することが⼀番⼤事。この10年間、⾃⺠の勝ち⽬が⾒えておらず、維新に代わる選択肢がなくなっていることにこそ、⼤阪の政治の問題がある
大阪自民は再生を模索 維新は3度目の「都構想」に乗り出すか
自民党大阪府連をめぐっては、5月11日、4月の選挙での大敗を受け、党本部に茂木敏充幹事長らで構成される「大阪自民党刷新本部」が設置された。大阪の立て直しを目指して「刷新プロジェクト」を策定する予定だ。
5月21日には、統一選の責任を取り府連会長を辞任した宗清皇一衆議院議員に代わり、谷川とむ衆議院議員が新しく会長に就任。「自由民主党こそがこの大阪をもっともっと良くしていけるんだと思っていただけるような大阪府連に変えていきたい」と決意を語り、長いスパンで党本部と共に候補者の擁立や育成にも取り組むという考えを示した。
Q.「維新一強」のカギを握る大阪自民に今、求められることとは?
関西学院大学法学部・善教将大教授:
維新vs.反維新みたいな対⽴軸だと、もはや勝てない。維新に勝つには、維新を⽀持している⼈からどのくらい乗り換えてもらうかで勝負しないといけない。しかし、そのような⾏動をとろうとしなかったのが、これまでの⼤阪の⾃⺠党ではないか。(⼤阪府連は)外部の介⼊で⽴て直す以外の⽅法はないのかもしれない
Q.「維新⼀強」でアカウンタビリティが担保されなければ、維新の「やりたい放題」となる?
関西学院大学法学部・善教将大教授:
維新は2回「都構想」で負けている。いつ⽀持者に裏切られるか、という恐怖⼼は⼀定認識しているように思う。対抗勢⼒が不在の中、3度⽬の住⺠投票を⾏うことに躊躇するなど、⼀定の応答性を発揮しようとしているのも、2回反対多数になったからだろう。対抗⾺というよりは⺠意が、⻭⽌めになっているのだと思う
Q.吉村代表は4月の統⼀選の後、府民からの期待を感じたとして3度目の「都構想」への挑戦に含みを持たせた。「都構想」への再々チャレンジはあり得る?
関西学院大学法学部・善教将大教授:
やる可能性は低いのではないか。少なくとも、すぐにはやらないだろう。「都構想」を成⽴させれば、維新が⾃⺠にもっている⽐較優位性が弱くなるし、組織の⾜腰も弱くなる。特別区の議会の選挙制度は⼤選挙区制が予定されており、これは、政党が今以上に機能しづらくなる制度だ。また、府議会だけで維新が⽣き残るにしても、⼤阪市下の特別区⻑の中で反維新の区⻑が⽣まれるなどの可能性もある。現状より、合意形成が困難となる可能性は否定できない
Q.都構想が成⽴しなかったからこそ今の維新がある?
関西学院大学法学部・善教将大教授:
そうだと思う。維新は「都構想」を成⽴させず、「府市⼀体」を武器にした⽅が、現状は組織を維持でき、かつ、他地域に⽀持を広げることができる
維新がかつて、「一丁目一番地」の政策と位置付けた大阪都構想。その挫折が、意外にも今の党勢に寄与していると善教教授は指摘した。
一方の大阪自民は、現在迷走中だ。維新に対抗できる魅力的な大阪のビジョンを示すことができるのだろうか。大阪の政治状況は今、大きな変化の時を迎えている。
(関西テレビ 大阪府政担当記者 菊谷雅美)