水郷の町、福岡県柳川市を象徴する川下りの最中に船頭が行う、通称「橋越え」が物議を醸している。

舟が橋の下を通過する際、船頭は橋の上に上り、その後、ジャンプして舟に戻るというパフォーマンスだが、安全性を懸念する意見が柳川市に5~6件寄せられたため、市は4月中旬から業者に対して、橋越えの中止を要請した。

橋越えはそもそも法的な観点から問題はないのか。山田・尾崎法律事務所(※崎はたつさき)の山田奈美香弁護士に聞いた。

法律で規制することは難しい

ーー「橋越え」は法的に問題はない?

今回、川下りで使用されている「ろかい舟」、いわゆるオールで漕ぐ舟というのは、カヌーや手漕ぎボートと同様で、運行にあたって比較的危険性が少ないとされています。

そのため、船を規制する一般的な法律である、海上運送法や船舶法の対象外となっています。

ろかい舟の安全管理や運送方法について明確に規制した法律はなく、そのため現段階で法的に規制することは難しいです。

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ーー船頭が舟から離れても問題ない?

船頭が、短時間かつ短距離のあいだ、舟から離れることは直ちに法律違反とはなりません。

舟から離れて橋に上がった際に、橋上に車の往来が激しい車道や横断歩道があって、そこの信号を無視するなどして道を渡って舟に戻ったら、それは道路交通法違反にあたる可能性があります。

また、舟が橋の下を通過している間に、乗客が川に落ちたり、危険な行為をして誰かが怪我をした場合などは、民事上の損害賠償請求や、刑事上の責任を問われる可能性はあります。

乗客の同意を元に柔軟に対応

40年間行われてきた橋越えに突如出された中止要請に対して、業者側は「今まで事故も無く、それほど危険なものでもないのに、何で急に…」と不満を口にする。

橋から舟に飛び乗る船頭
橋から舟に飛び乗る船頭

ーー業者側の対応は?

橋越えの映像を見ましたが、橋越えが行われている橋は、比較的小さな橋で車通りも殆どない橋が多く、船頭が舟から離れる時間も数十秒と短い時間でした。

車の往来が激しい大きな橋だったり、舟に戻る際に高い離れた場所から飛び降りて舟が大きく揺れる場合などは乗客に危険が生じうるので、そういった行為は避けるべきかと思います。

名物「橋越え」は観光客に大人気
名物「橋越え」は観光客に大人気

40年間培われてきた伝統文化の中で、船頭さんは橋越えを行う場所を熟知し、乗客からもきちんと同意を取って、橋越えを希望しない乗客がいる場合は橋越えをしないといった判断をするなど、柔軟に対応しています。

業者側からすると、SNSの普及で画像が拡散されたことによって、何十年も続いてきた文化が規制の対象になることは、なかなか受け入れ辛いことだと思います。

柳川市と業者間で話し合いを

しかし、今後も継続するためには、業者側もある程度折り合いをつけていく必要があると山田弁護士は指摘する。

ーー業者側は橋に梯子を設置しているが?

一般的に橋は公共物なので、本来であれば許可を取ってきちんと設置すべきものですが、写真を見る限り、取り外しが容易なもので、40年間にわたり任意で設置されていたという事実からも、梯子の設置が直ちに違法であるということにはなりづらいかと思います。

今回の中止要請も、橋越えの行為自体に具体的な法令違反はないので、柳川市側もあくまでも「任意で従ってください」と要請しているのかと思います。

梯子を使って橋に上る
梯子を使って橋に上る

ーー今後の動きは?

橋越えについて、きちんと規制しなければいけないという社会的な風潮が高まる一方で、柳川市としては川下りや橋越えを観光の名物として出している以上、軽々に橋越えを自粛するという判断はしづらいかと思います。業者側も、行政からの要請に対して、ある程度折り合っていかなければいけない部分が生じてくるかと思います。

具体的な法令違反はないので、現段階で強制的な措置が取られることは想定しづらいかと思いますが、今後は、柳川市と川下りの業者間で協議をして、川下りの際の安全管理について取り決めを行うといったことが考えられます。具体的には、橋から飛び降りる距離や、橋越えを可能とする橋の規模を決めるなど、乗客の安全に資する取り決めを行うことが挙げられるかと思います。

柳川は穏やかな川で、深さもそこまでなく、市としても一方的に押さえつける形で厳しい規制に踏み切る判断はなかなか難しいと思います。

観光客、特に外国の方は「SNSで橋越えを見て来ました」という方がたくさんいると思いますので、橋越えの危険性のみを強調して規制を強化するのではなく、お互い話し合いをして、一定の決まりを作っていくのが良いのではないかと思います。