新型コロナの影響が「平和学習」の現場にも

長崎原爆の被爆者 田中 安次郎さん(77);
突然、青白い光がばーっと。びっくりして近所に飛び込んだ。前のめりに。
そしたら、ものすごい風が吹いてきました。私、吹っ飛ばされたんです

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田中 安次郎さん、77歳。
3歳のとき、原爆落下中心地から3.4キロの、長崎市新中川町で被爆した。
この日は手作りのフェイスシールドをつけ、長崎市内の小学校で「被爆講話」に臨んだ。
原爆投下から75年。
被爆者の高齢化が進む中、新型コロナウイルスの影響は「平和学習」の場にも及んでいる。

長崎市の諏訪小学校行われた、5年生への被爆講話。
もともとは5月中旬に予定されていたが「休校」でずれ込んだ。
他の学年への被爆講話は中止となったため、学校側は、田中さんの講話を録画して平和学習に生かせないかと考えた。

諏訪小学校 5年生の学年主任 山田 周作先生;
被爆者から聞く分は全然違う。被爆者の方から直接、話を伺うのが(平和学習の)最もいい方法かなと

被爆者 田中 安次郎さん;
平和とは、何でもない当たり前の平凡な生活の連続。
たった一つの生命だから、一生懸命勉強しよう。たった一つの生命だから、家族を大切にしよう

田中さんが繰り返し子どもたちに伝えたのは、「何もない日常への感謝」。

新型コロナウイルスの感染拡大による休校や外出自粛など、「日常」は大きく変わってしまった。
そんな今だからこそ、理不尽に「日常」を、「人生」を奪われた被爆者やその家族の思いに触れ、改めて「平和」について考えてほしいと話す。

話を聞いた児童;
たった一つの命だから大切にしましょうという言葉が一番残りました。
これからケンカとかをなくしていかないといけないよ、というのを伝えたいです

被爆者 田中 安次郎さん;
非常に命っていうのに疎んじられる時代ですね。邪魔だから、自分が気に食わないからと言って排除する。そうじゃなくて、生まれてきたこと自体が大切なこと。
命の大切さを、もっともっと心に留めないといけない時代じゃないかと思います

感染予防、体調管理…増える負担

平和活動を支える側にとっても、模索が続いている。
長崎原爆被災者協議会は、修学旅行生を中心に年間300件ほど被爆講話を行ってきた。

2020年は春や夏に予定されていた修学旅行がずれ込んだことで、10月や11月に講話の依頼が集中。年明けの2月ごろまで予約が入っている。

講話を担当する被爆者は15人。ピーク時には1日15校からの依頼がある。
1人が1日に複数回の講話を担当することになり、今後は体調管理や感染症対策が課題となってくる。
講話が行われる地下講堂。200人収容可能の部屋に、いまは30人分の席。

部屋を分けて2人の被爆者が講話することも考えているが、人繰りや体力面などに不安を抱えている。
学校が入れ替わるたびにイスを消毒することは、高齢のスタッフや被爆者にとっては大きな負担だ。

長崎被災協 中川原 芳紀さん;
被爆者自体に残された時間がそんなにあるわけではない。ここ1,2年って非常に重要な時期。
ビデオとかいろいろ映像あるでしょうけど、生で聞くということが非常に重要なので、何とか希望に添えるように全力で頑張りたいと思います

新型コロナの影響もあり、長崎市の平和公園を訪れる人は以前に比べて減ったとの声もある。
核兵器の廃絶を願い、平和の尊さを訴え続けてきた被爆地・ナガサキ。
原爆投下から75年を迎える2020年、
これまでとは違った「発信力」が求められている。

(テレビ長崎)

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