宮城県は、老朽化した県営住宅について、原則、建て替えをしない方針を決めた。一方で、当事者からすると、まさに「寝耳に水」。急きょ方針を伝えられた住人たちからは、戸惑いの声があがっている。

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県営住宅「建て替えない方針」

県営黒松第二住宅(仙台市・泉区)
県営黒松第二住宅(仙台市・泉区)

宮城県は2022年度、県で管理している101団地548棟の県営住宅について耐用年数が過ぎた住宅を原則、建て替えない方針を示した。その戸数は9000を超える。理由について、県営住宅の老朽化や、人口減少に伴って、住宅に「空き」が、今後出てくると見込まれるためとしている。

地紙和子さん:
住民との説明会もないままに、急に方針を知らせる紙一枚が入ってきて。
赤間直美さん:
どういうことなの?というのが正直ですね。

県営黒松第二住宅に住む 地紙和子さん(右)と赤間直美さん(左)
県営黒松第二住宅に住む 地紙和子さん(右)と赤間直美さん(左)

不安や戸惑いを口にするのは、仙台市の県営住宅に住む、地紙和子さん(72)と赤間直美さん(75)。2023年1月、自宅に投函されたチラシで、この方針を初めて知った。

地紙和子さん:
48年ここに住んでいる。主人は74歳で勤めてはいますけど、年金暮らしと言ってもいい。そういう状態で、何も住民との説明会もないままに、急に紙が1枚入って来て、読んでみたら「出ていけ」ということですよね。寂しいような、悲しいような…。

耐用年数は構造によって分けられ、耐火構造は完成から70年、準耐火構造は55年、木造は50年。建物の耐用年数期限の10年ほど前から住民の転居先を検討し、見通しが付き次第手続きを進める方針だ。

地紙さんと赤間さんが暮らす黒松第二団地は、1963年(昭和38年)から1966年(昭和41年)に住宅が完成し、県は今年から10年後の2033年を「用途廃止時期」と指定。10年前にあたる2023年、手続きが始まる見通しとなっている。

「無理やり追い出すことはしない」

宮城県がこうした方針を打ち出す理由の1つが、宮城県内の災害公営住宅の増加だ。東日本大震災後、宮城県内では、約1万5800戸の災害公営住宅が整備され、公営住宅としてカウントすると震災前と比べて約1.4倍に増えた計算になる。よって、新たな公営住宅を積極的に進める状況ではないというのが県の言い分だ。

宮城県 村井 知事:
公営住宅に空きがあると当然コストがどんどんかかってきますので、そういった意味では市町村を助けることにもなるだろうと思う。

宮城県 村井嘉浩県知事
宮城県 村井嘉浩県知事

宮城県の村井嘉浩知事は、「老朽化が進行し、安全上の問題が発生する前に、より居住環境の整った住宅への移転を円滑に進めるためのもの」と説明する。できるだけ「住民の希望に沿う」とし、古い建物について処分を進めていく方針を強調している。

宮城県 村井知事:
決して「嫌だというところから、無理やり追い出すということにはなりません」。今よりいいところに移っていただけるようになると思います。そこは信頼していただいて結構ですし、移転に関する費用等についても、よくお話を聞きながら進めてまいりたいと思います。

住み慣れた地域で暮らしたい

一方で、「長年暮らしてきた地域」という事実は、住民にとってかけがえのないものだ。他の地域の公営住宅への転居は、長年にわたって作り上げてきた、地域のコミュニティーが無くなることを意味する。地紙さんたちも不安の色を隠せない。

地紙和子さん:
かかりつけの病院を変えないといけないのかなとか。遠くになっちゃうなとか、そういうことを考えると決してプラスではない。
赤間直美さん:
そのほかの地域でどう生きていくの、どうこれから進んでいくの、怖いですよね。

県の方針によると、住民の転居先は「ほかの県営住宅」を基本としながらも、「市町村の公営住宅」なども選択肢とされている。

仙台市宮城野区にある災害公営住宅
仙台市宮城野区にある災害公営住宅

果たして、住人の希望に近い形で住宅を供給することはできるのか。地紙さんらが住む仙台市を例に見てみる。市営住宅の数は8504戸で、2023年2月末時点での入居率は82.9%。約1500戸が空いているように見える。しかし、これは、修繕中や手続き中のものがほとんど。入居倍率は、例年10倍を超えているのが現状だ。仙台市の郡和子市長は、県の方針に難色を示す。

仙台市 郡 市長:
県営住宅に入居されている方々の住まいを安定させるということは、県としての責任によるものだと思います。移転先の確保、移転に向けたさまざまな支援についても、県が行うべきものであると考えているところです。仙台市の市営住宅は、非常に申し込み倍率が高く、現状で、県営住宅にお住まいの方を受け入れることは難しいと考えています。

仙台市 郡和子市長
仙台市 郡和子市長

県営住宅には、高齢の入居者も多く、65歳以上の世帯は2021年度末の時点で51.7%を占める。黒松第二団地は、入居している175戸のうち、半数を超える95戸が70歳以上だ。

赤間直美さん:
高齢になって場所が変わっていくのは精神的にも肉体的にもかなりダメージがある。
地紙和子さん:
10棟、今ありますけど、10棟無くても良いから。6棟でも7棟でも良いから建て替えして、家賃が上がって多少高くなっても、建て替えをした、ここの場所で入りたいというのが本当の気持ちです。

3月の県議会で「通勤・通学への配慮」や「転居費用の補償」など、住民への支援策を説明した宮城県。住民に対しての対応は、より丁寧な説明、かつ迅速な対応が求められる。当事者が置き去りになることがあってはならないのだ。

(仙台放送)

仙台放送
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