2023年1月、JR博多駅前での殺人事件を機に、注目されたストーカー被害。全国の警察に寄せられる相談件数は現在、2万件近くにのぼる。しかし、その4倍以上の相談が寄せられ、ストーカーと同様、手厚い対策が必要とされる問題がDVだ。

親密な関係、あるいはそうした関係にあった人物から受ける暴力…DV問題とどう向き合うべきなのか、1人の被害女性の証言を元に考える。

「助けを求めても無駄」DVに耐えた2年

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DV被害者・Aさん:
婚姻期間の約2年間なんですけど、暴言・暴力ですね。私の人格を否定するような言葉ですとか、ののしるような言葉。暴力は殴るける、突き飛ばすような内容です

カメラの前で証言するのは、福岡県内に住む30代の女性Aさん。2022年夏まで約2年間、一緒に暮らしていた夫からの暴言・暴力に耐えてきたと話す。

DV被害者・Aさん:
私の言動が気に入らなかったという時もありますし、普通に何気なく会話をしていて、急にスイッチが入るということもありましたので、さまざまでしたね。向こうの言い分は自分が正しくて、私が悪いとずっと言われていたので、だんだんそう思い込んでいくようになりました。「助けを求めても無駄だ」というような暴言を受けていたので、結果的に逃げ出す意欲も失っていって…

毎日のように浴びせられていたという暴言の一部をAさんは録音していた。

毎日のように浴びた暴言の一部
毎日のように浴びた暴言の一部

暴言録音音声:
悪いけどクズの一人お前は。偉そうにほんとやりやがってさ!何も1人じゃ生きれんくせに、人の力借りんと生きれんくせに、なんの能力もないくせに、なんの知能もないくせに、偉そうな口バッカたたくやつほど、自分を大事にする

DV被害者・Aさん:
相手をこれ(取材)によって逆なでしてしまうのかな、という不安と心配が大きかったが、DVというひとくくりの中にも、いろいろあるケースの1つとして、私が受けた実態を少しでも多くの方に知っていただきたいということでインタビューを受けました

2023年1月、JR博多駅前で女性が殺害されたストーカー殺人事件。逮捕・起訴された寺内進被告(31)は、女性の元交際相手で、当時、ストーカー規制法に基づく「つきまとい」の禁止命令が出されていた。なぜ、女性を救うことができなかったのか。Aさんは、被害者を自身と重ね合わせたと話す。

ーー博多ストーカー殺人どう思った?

DV被害者・Aさん:
自分の身に降りかかる可能性も心配はありますし、あのような取り返しのつかないことになってしまう前に、どうにかできなかったのかなとは思います

ストーカーとDV 似ている性質がある
ストーカーとDV 似ている性質がある

ストーカーとDVは、「繰り返す」「エスカレートする」「急展開する場合がある」など、性質が同じことから、福岡県警でもDV・ストーカー対策係として同じ枠組みで専従の捜査員が対策にあたっているが、博多駅前ストーカー殺人事件は、現行の法制度上の「限界」を浮き彫りにした。

DV被害者・Aさん:
過去に激しい口論と腕をつかまれて、押さえつけられるというつかみ合いがあって、そのあとの通報だったんですけど、わたしも会話ができている状態というのと、相手方が夫婦げんかの1つだということで、民事不介入と警察に言っていたので、それで対応が難しかったんだと思います

Aさんの場合も警察に通報や相談をし、できる限りの対応をしてもらったものの、根本的な解決には至らなかった。

ーーシェルターも検討?

DV被害者・Aさん:
はい。しかし、利用しなかった。シェルターに行って、その先がどうなるか全く想像がつかなかったので…。どちらかというと自分が耐え続ければいいんだというふうにしか思えてなかったです

顔の骨を骨折した時の診断書
顔の骨を骨折した時の診断書

結局、夫から身を隠すきっかけとなったのは、夫から何度も殴られて、顔の骨を3カ所骨折し「命の危機」を感じたときだった。

DV被害者・Aさん:
夫からは、「私が転倒してあごを骨折した」という理由で行くよう指示をされ、診察室の中で相手(夫)の目が届かないところで、筆談で先生に「本当は転倒ではなく、殴られたことによるけがだ」と本当のことを伝えました。医療機関には、隔離入院の形をとっていただきまして、入院中に警察の方にも被害届の提出ができたので、生活安全課の同行のもと退院して、その足で荷物を取りに行って、別居先に移動したような流れです

被害者ばかりにかかる負担

被害者ばかりに負担を強いる現状のDV対策に専門家は異議を唱える。

NPO法人「福岡ジェンダー研究所」倉富史枝理事:
逃げようと思ったらすべてを捨てないといけない。仕事を捨てる。子どもの学校を辞める。だから、その被害者側が捨てるものが多すぎる。本来なら加害者の行動制限をしっかりしたいところですよね

DV防止法の加害者が被害者に近づくことなどを禁止する「保護命令」についても、今国会で審議されているが、現状では、その対象が限定的かつ期間も6カ月で、決定までの期間も平均12.8日かかると言われている。

専門家は、加害者側に法的拘束力のある再教育プログラムの仕組みや、加害者を生まないための予防教育の徹底など、「加害者側」に目を向けた対策の機運を高めることが重要だと訴える。

NPO法人「福岡ジェンダー研究所」倉富史枝理事:
加害者が変わらないとしょうがないと思うんですけど、長い目で見て、子どもの非暴力教育とか性教育、好きな人と付き合うときの付き合い方とかを、早い内から教えた方がいいと思いますけどね

「自分自身を一番大切に」

DV被害者・Aさん:
恐怖でなかなか行動に移せないという方の方が多いと思うんですけど、助けを求めるのであれば、勇気を出してその1歩を踏み出していただきたいなと思います。その声がたくさん広まれば、何か対策面ですとか、大きなことを動かすきっかけになるかもしれないので、自分自身を一番大切に思ってほしいと思います

DVの相談件数は年々増加している。DV防止法が施行された2001年は、3,608件だったのが、この20年間で20倍以上、8万3,042件にもなっている。

そうした中、被害者に寄り添う形でDV防止法の改正案が2月24日、閣議決定された。被害者に近づくことを禁止するなどの「保護命令」をめぐって、出せる要件が身体的暴力のみならず、精神的暴力でも可能になるほか、期間が6カ月から1年になり、罰則も現行法より厳罰化される。

しかし、この改正は、DV問題解決への一歩にすぎない。被害者の声に寄り添う形を模索しながら実情に合った法整備、体制づくりを進める必要がある。

(テレビ西日本)

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